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いつか選択肢に辿り着くために  作者: 七香まど
三章 聖羅ルート攻略シナリオ
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68花恋の条件

 放課後、唯人を聖羅が学校周辺の案内するということで、俺たちは二対二で分かれた。


 二人が階段を下っていったのを確認し、俺と心春は階段を一階上がって三階フロアに踏み入れる。


俺らが所属する演劇部の扉を横に引いて中に入ると、すぐに城戸先輩が気付いてボブカットの髪と大きな胸を弾ませながらこちらに声をかけてくれる。


「霜月兄妹じゃないの。噂に聞いたよ、転校生の案内役はいいの?」

「今日は用事ということで明日になりました。なので今日はこっちの手伝いに」


 花恋さんがやってくるのはもう少しだけ後だ。城戸先輩や柊木先輩と話をしていればすぐに会えるだろう。


「ごきげんよう、あら、今日は一颯と心春も来ているのね、転校生と仲が良いと聞いたのだけど、校内の案内はいいのかしら?」


 噂をすればなんとやら、甘いロリ声に振り向けば、凛とした佇まいの花恋さんは俺たちのことを見つけては優しく微笑みかけてくれる。ちょうど先輩方との挨拶も終わったところで花恋さんに声をかける。


「こんにちは。すみません、ちょっと相談したいことがあるのですが、時間ありますか?」

「ええ、今日は通し稽古をするくらいよ、だからそれまでは書類を片付ける程度で時間はあるわ」


 会議室で話を聞いてくれるようで、俺は心春と共に花恋さんについて行った。花恋さんをいきなり名前で読んだら驚かれるだろうと思って口にしなかったが、改めて名前で呼ぶってなんだか気恥しいな。


 会議室に三人で入ってからはてきぱきとポットのお湯を使って紅茶を入れ、お茶菓子代わりに駄菓子を花恋さんに提供する。


 まずは休憩とばかりに駄菓子を一つ摘まんで口に入れた。


「――それで、相談とはなにかしら?」

「えっと……、花恋さん、俺はこの学生生活を何周もしているんです」


 俺は意味不明なことを口にしている自覚があった。どうしてこのようにしか言えないのか自身の語彙力を呪うのだが、どうしたらすぐに納得してもらえるのか俺には分からなかった。


「後半の方が気になるけど、まずは、一颯? あなたはいつからわたくしのことを名前で呼んでいたかしら?」

「細かい日にちは覚えてませんけど、これは前の花恋さんから俺に突き付けた条件なんです。この世界がゲームであり、俺はすでに二度、同じ時間を過ごしています」

「では……、そのわたくしは何か仰っていて?」

「包み隠さずすべてを伝えて欲しいとお願いされています。たぶん自分だけ恥をかいたのが許せないのではないかと」

「恥をかいた? ……どういうことかしら?」


 俺は前の花恋さんにいくつかお願いされていたことがある。心春にも共通していることは多いのだが、前のルートであったことは出来る限り話して欲しいとのこと。特に俺が花恋さんに使用してもらうために利用したスリーサイズを暴露したことはそっくりそのまま再現してほしいと。


「どうしたら花恋さんは俺のことを信用してくれますか? ちなみに俺の脳内には花恋さんのプロフィールが入っていて花恋さんしか知らないようなことも載ってあります」

「そうねえ……、ではそのプロフィールとやらを読み上げてくれるかしら?」


 俺はカバンの中から昨晩作成した大きなハリセンを取り出して花恋さんに渡した。花恋さんは俺の奇行に疑問を持ちながらもハリセンを受け取ってくれて、俺は咳払いを一つしてから花恋さんのプロフィールを読み上げた。


「こほん……二階堂花恋、十七歳、誕生日は二月一日」

「ええ、間違ってないわね」


 ここまでは調べればすぐにわかることだ。だがこれからが覚悟のいるところだ。


「身長145センチ、体重39キロ――」

「……ん? ちょっと!」

「B71、W56、H77」

「だまらっしゃい!」


 ――スパーン!


 花恋の手に持つハリセンがきれいな放物線を描いて俺の脳天を直撃した。想像以上の痛覚に悶絶する。今度からはハリセンはやめよう、頭が割れる。


「な、何を突然、乙女の秘密を暴露してくれているのかしら?」

「そうしてくれという前の花恋さんからの命令でした。ちなみにこれで信じても貰えましたよ」

「ええ、ええ! そうでしょうとも、わたくしのスリーサイズは健康診断で関わった人を除けば家族ですら知らない機密事項、それをあなたが知っていることが信用を得ることに繋がるでしょう。信頼を得られるかは別として、……はあ、仕方ないわ、一颯のことを信じるわ」

「あ、ありがとうございます……」


 半分、机に突っ伏したままお礼をすると、心春が少々荒く頭を撫でてきた。なんとなくだけど怒っているな、これ。


 それから俺の知り得る限りのことを心春と花恋さんに話し、この世界がゲームであることを理解してもらった。俺がある程度今後に起きるイベントを話せばそれなりに信じてもらえたと思う。


「心春、悪いのだけど少し席を外してもらえるかしら?」


 花恋さんの言葉に心春は頷いて静かに席を外した。花恋さんが俺に尋ねようとしている内容は察しが付く。心春には後で同じことを話してあげなければならない。


「一颯、わたくしの……気持ちのことはどこまで知り得ていて?」

「お慕いしていると……、ありがたくも俺にはもったいないほど嬉しい言葉を頂きました」

「そう、……やはり全てバレているのね」

「この際ですので、全て暴露してしまってもいいですか?」

「構わないわ。あなたには心春がいるもの、きっとわたくしは失恋したのでしょう?」


 花恋さんは諦めたように溜息を吐いて目を瞑った。紅茶を音もなく口に含み、匂いを嗜むようにゆっくりと喉を小さく鳴らした。


 小春には敵わない。花恋さんにとってはそれが前提条件なため、最初のあの一週目に花恋さんは俺に気持ちを伝えるようなことはしなかった。誰だって負けると分かっていて意味もなく告白したりしない。


 でも全てを話せばきっと花恋さんは慌てふためいた表情を見せてくれるだろう。諦めからの一転に、俺はその瞬間を楽しみにする。


「実は花恋さんの部屋で一緒に寝ました」

「……へ? 今なんと?」

「キスも三度しました」

「ち、ちょっと待ってくださいまし! それはどういうことで、一緒に寝た!? き、キス? それは頬にするようなものなのよね?」

「それら頬や額も含めると五回、いえ、六回ですね」


 花恋さんは予想通り慌てふためいて身を机に乗り出した。バンと強く手を付いて俺に詰め寄ってくる。机が邪魔だったのか顔を真っ赤にして回り込んで俺の口の端を摘ままれる。


 俺が冗談を口にしていると思っているのだろう。険しい顔でぐにぐにと頬をもみくちゃにされる。


 最後には思い切り引っ張って抓り、ゴムのようにパッチンと指を離した。


「いったい!」

「あ、ご、ごめんなさい。あまりにも信じられなくて……、取り乱したわ」

「俺は決して嘘を口にしてませんからね? すべて事実です。それも含めて話したいことが山のようにあるんです」

「わたくしとあなたは、……恋人同士になったのかしら?」


 俺の言葉が届いていないのか、それだけが気になっているようでもじもじとしながらも目が真剣だ。後で話そうと思っていたが仕方ないから先に伝える。


「俺は誰とも付き合ってません。そして花恋さんのせいでクズ野郎に成り下がりました。俺は心春か花恋さんか、どちらかを選べない優柔不断野郎です」

「そのわたくしって大胆なのね。一颯にわたくしか心春で悩ませるほどに攻め込んだのね」

「ええ、それはもう……、あんなことやこんなことまで」


 俺は何も知らない花恋さんをからかってみたくなった。椅子から立ち上がって左手で花恋さんの右腕を取り、右手を腰に添えて距離を詰める。社交ダンスのような態勢で俺が花恋さんを見下ろすと、もちろん離れようとするからだいた腰をぐっと引き寄せる。


「こ、ここここんなことまでしたのかしら!?」

「俺たちはキスをした仲ですよ? これくらいで動じる花恋さんではないと思ったのですが。それにキスをしたのはほとんどが花恋さんからでしたよ」


 散々振り舞われたのだからこれくらいお返ししないとつり合いが取れない。きっとこうなることを期待して前の花恋さんは俺にお願いしたのだろうな。


 腰が抜けたのか床にずるずる引きずり込まれる花恋さんを抱きかかえ、ゆっくり椅子に座らせる。紙コップを持つ手は震えていて、顔を覗き込もうとすると露骨に逸らされた。


「本当の本当に嘘は吐いていないのね?」

「はい。誓ってすべてが事実です。前の花恋さんからお願いされたことなので、聞きたいことがあれば何でもお答えします」

「伺いたいことは山のようにあるわ。でも今は身が持たないから、後日で構わないかしら?」

「今度の日曜日にうちに来てください。話は心春と一緒に、それと少し手伝ってもらいたいことがあるので詳しくは今夜にメールでお伝えしますね」


 花恋さんは空になった紅茶の紙コップを丁寧にごみ箱に捨て、腰を大切そうにさすりながら会議室を出て行った。そこは俺が先ほど手を添えていた場所であり、花恋さんはかなり意識しているみたいだ。


「これでよかったのかな? 花恋さん、なんだか立場が逆転している気がするけど、本当はこれくらい俺に攻めてもらいたかったのかな」


 俺も退出し、これから始まる通し稽古の裏方として精を出すのだった。








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