葛藤と懇願
いつも読んで下さりありがとうございます。
数日前、私はアルお兄様へと手紙をしたためていた。
もちろん内容は会ってお話ししたいことがあるということ。
いつもはアルお兄様のご在宅を確認するだけの手紙でしたから明らかに今までと違っているということは誰が見てもわかる。
聡いアルお兄様の事、私が何をお話ししようとしているのかまでもうわかっていらっしゃるのではないかしら。
ふと、恐くなった。
私がこれから何を告げようか解っているアルお兄様は一体どのような反応を示すのかと。
夜会の時と同じように相手に言葉を許さずに笑顔で拒否されたらどうしようと。
アルお兄様が振り向いてくれなくてもと、そう決心した筈なのに私の心は揺れるばかりだ。
通された応接間のソファで色々な事が頭の中をぐるぐる回る。
「待たせてしまってすまない。可愛いリズが逢いに来てくれて嬉しいよ」
アルお兄様はテーブルを挟んで向かい側のソファに腰を下ろした。
久しぶりに見たアルお兄様に自然と自分の顔が綻ぶのがわかる。
私は何て単純なのでしょう?
「アルお兄様お久しぶりです。この前は知らない内にアルお兄様が帰ってしまわれていてとても淋しかったですわ」
こんなことが言いたい訳じゃないのに可愛いげのない言葉が口をついて出てきてしまう。
「俺のお姫様はご機嫌斜めかな?ごめんね、チェスター家から至急帰れと連絡が来て帰ってみたら父上が怪我をしてして仕事を代わりに行わなくてはならなかったんだ。あの人見た目によらず有能だから仕事量が膨大で」
「そうだったんですの?それで叔父様は大丈夫なのですか?」
怪我をしてしまわれたって大丈夫なのかしら?
とても心配ですわ。
「そんな顔しないで、大丈夫だよ。父上の不注意で利き腕を骨折してしまったらしくて、さすがに利き腕が使えないんじゃ全く仕事にならないって訳。骨折したところ以外はピンピンしてるからむしろ退屈みたいで今日は出掛けてるけど良かったら今度会いに来てやって、喜ぶから。あの人もリズのこと大好きだからね」
俺が嫉妬する位にね
アルお兄様が叔父様の状態について説明してくれました。
骨折は心配ですけれど他は大事ないと聞いてほっとしましたわ。
最後に何かボソッと言った言葉が聞き取れませんでしたわ。
「そうだリズ、今日は何か俺に話したいことがあるって手紙に書いてあったけど急に改まってどうしたの?」
「あの…少し待ってくださいませ」
「うん?」
わたしは深呼吸するとアルお兄様をまっすぐに見た。
アルお兄様は急かさずに私が話し出すのを待っていてくれる。
「私、幼い頃よりずっとアルお兄様、いいえアラン様の事をお慕いしておりました」
「うん、俺もリズの事が好きだよ?」
微笑んでそう答えるアルお兄様はいつものお兄様なのに何だか知らない男の人みたいだった。
「アルお兄様、私は妹としてではなくひとりの女性としてお慕いしているのです!」
思わず語気が強くなってしまった。
アルお兄様は困ったようにわたしを見つめたまま黙ってしまった。
その時間はほんの少しだったのかもしれない。
けれども私には永遠にも感じられるほど長い時間だった。
「リズは本当に俺の事が好きなのかな?」
ぼそりとアルお兄様が呟いた言葉に愕然とする。
アルお兄様の顔はいつもの笑顔ではなく真顔だったから。
「リズが好きなのは俺じゃなくて『優しいアルお兄様』なんじゃない?本当の俺はリズが思ってるほど優しくもないし出来た人間でもないんだ。リズが見てるのは俺じゃなくてずっと俺が演じてた『虚像』…俺自身な訳じゃない」
「そんな事!」
「ないって言える?いつだって俺はリズに好かれるように優しい優しい従兄を演じてきた。初めはリズが笑ってくれるから、俺を見ると遠くからでも嬉しそうに駆け寄ってくれるから…それが嬉しくて紳士を演じてた。けどある時気づいたんだ。これは俺じゃないって。もし俺の本当の姿を知ったらリズは俺から離れていってしまうんじゃないかとそう思うと恐ろしくて」
「アルお兄様それって…」
「傷つく前に逃げたんだ。俺はリズよりも自分の保身を考えたんだよ。今更どの面下げてリズと向き合えって言うんだ。会う資格なんてない」
そこまで言い切ると席を立ち応接間を出ていこうとする。
「待って!」
ドアノブに手をかけたアルお兄様に後ろから抱きついた。
「私は優しいからアルお兄様が好きなのではありません。アルお兄様だから好きなのです。それにどんなアルお兄様でも好きになる自信があります。ですのでどんなアルお兄様も私に見せてくださいませんか?」
次で終われそうです。
もう少し短いはずが思った以上に長くなってしまいました。




