国の始まりは
彼女は各地を歩きながら、人を集めた。
そこには身分もなく、ただ生きたいと思う人間ばかり集まり、
人々は彼女を中心に神殿を建造し始めた。
力のない彼女にとって、その旅路は困難を極める、
敵と出会ったら逃げることしか出来ない、
だが転移を使える彼女にとって、逃げることは容易だった。
こうして日に日に、人数は増えていったのだ。
「最初は仲間を集めるところからだったんですね」
メルアとソーマは神殿の最上階に居た。
この神殿はクロムベルトのと違い、
水の豊穣を司る神殿だが、人の思いが集まって作られたのは共通している。
「ああ、弱い人間が生き残るためには群れるしかない、そして小さな力も集まれば大きな力を打倒することもある」
塵も積もれば山となる。
積もっても、所詮は塵ということもあるが、
集団で行動するのは生きるためには最も賢い手段であろう。
「まあ、とにかくも彼女は人を集め、神殿を作りあげた」
神鳥に言われたとおりに神殿を作り上げて、
彼女はその中心となって人々に慕われた。
「よくやりましたね、この神殿は止まり木となり、私がこの世界にいる間は安全を約束します」
神鳥はそう言うと、光になって神殿にとけていき、
辺りは光に包まれて、その時代の聖域となった。
魔王も手が出せない聖域は、
神殿を作り上げた彼女の名前のクロムをとって、
クロムベルトと名付けられて、やがては国となっていく。
そしてクロムは聖女と呼ばれるようになったのだ。
「これが幼い頃に聞かされる物語ってところだ」
「協力しあえば道は開ける、そういうお話なのですね」
皆が協力すれば力は強固になり、大いなる力になる。
これはそれを教育させるための話にもなっていた。
「だが、面白いことにこの話には続きがある」
「続きですか?」
「ああ、まあな」
そしてソーマは歴史の続きを語り始めた。
それは魔王が倒された後の話である。
クロムベルトは、
神殿を中心とした集落の集まりではなく、
強大な大国になっていた。
色々なルールも定まって、権利も神殿に集中せずに、
やがては王宮が力を持っていくようになるのだ。
人が集まれば、良いことではなく悪い子ことも起きる。
集団の中で、他者より先に誰よりも上に、
騙して、出し抜いて、利益を得る。
強者と弱者、絞る方と絞られる方。
その関係が明確に現れてきていたのだ。
これが貴族の始まりである。
そして平和となった世の中、
人々は純粋な力よりも、
金、権力といった、立場で得られる力を信仰するようになる。
そのため、神の力という絶対的な力を保有する神殿は徐々に不要なものになっていく。
いや、不要どころか、邪魔とまで思われていた。
だから、王宮は神殿に対して、神鳥の力の引き渡しを要求する。
その絶対的な力を管理下に置くためだ。
当時の神殿は徐々に力を失っており、王宮に逆らえなかった。
「クロム、どうしたのですか?」
祈りの間、
神鳥が存在する、その大広間。
その中心の祭壇に神鳥は住んでいる。
神鳥と語り合えるのは聖女のクロムだけ、
彼女は王宮の決定が出た後に、神妙な顔をしながら祈りの間で祈っていた。
そして神鳥が現れた後に意を決して口を開く。
「あなたをここから開放します」
クロムが考えて、出した結論であった。
クロムは王宮から、度々、戦争に神鳥の力を使わせろと言われていた。
もちろん、クロムの答えはノーである。
あくまで守るための力、傷つけるために使うのはどうしても納得できなかったのだ。
だが、世論は違う。
民は神殿が戦争に協力しないと、非難をしており、
王宮もそういう風に誘導していた。
神殿の風当たりは強く、
それも権力が失われつつある要因であった。
「クロム、あなたがそうするというならば、私はここを去りましょう」
神鳥はクロムの言葉を怒ることも、悲しむこともなく、
淡々と受け入れて、光となり天に昇っていった。
「この一件の後、王宮と神殿の関係はとてつもなく険悪なものになったが、現在に至るまで徐々に修復していっている」
ソーマが語ったのは、物語の蛇足。
聖女が生誕して、クロムベルトは守られた。
そこで完結しておけばいい話であるが、
現実は完結など存在せずに、
どれだけ暗いストーリーだろうが続くのだ。
「この物語は俺に似ていると思う」
「似ているですか?」
「ああ、魔王を勇者は倒して、勇者は犠牲になり世界は平和になった、ここで終わっておけばハッピーエンドだ」
どこにでもありそうな物語。
少し悲しいが、英雄的な死に方をした勇者は概ねハッピーエンドとみられるであろう。
「今の俺はいわば物語の蛇足、世界にとっては無用な長物だ」
自虐。
ソーマは自分の今の行動を皮肉で表しているのだ。
物語にとっての蛇足。
しかもそれは誰にも求められていないもの。
「いいえ、違います」
だが、メルアはそれをきっぱりと否定する。
「その物語ではソーマ様はハッピーエンドになってません、例えその物語が全世界で、ソーマ様さえもハッピーエンドと言っても、私だけは否定します」
どこまでもソーマ中心の考え。
万人がその物語を受け入れても、自分は絶対に受け入れない。
「例え蛇足だとしても、ソーマ様が最期に笑顔になるならばこの物語は必要です」
たった1人のファン、
世界でこの物語を好むのはメルア1人だけかもしれない、
「……だが、それだけでいいのかもしれないな」
ソーマは小さく呟く。
世界のため、皆のためにではなく、
自分のために、1人のために、
自分の行動基準なんてそんな程度でいいのかもしれないと思ったのだ。




