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奇襲の方法は

 会議場に持ち込まれた、一枚の羽毛。


 メルアが持ち込んだそれは、とても綺麗な羽である。


 純白と言ってもいいほどの白さと、


 どこか神々しさも感じられる羽毛。


 確かにそれは価値がありそうだ。


 だがそれはあくまで値段的な意味、


 希少価値としての、美しさとしての評価、


 この場に置いて必要な、戦術的価値を感じられるものではない。


「これは神鳥の羽といいます」


 メルアは口を開く。


 その羽の正体は神鳥の羽、


 クロムベルトにある、神殿の祈りの間に転移する、


 いわば、マジックアイテムだ。


「クロムベルトにも、アクアティリスと同様に神話がある」


 ソーマは語りだす。


 それはクロムベルト出身なら、誰もが一度は聞いたことがある物語。


 まだ、クロムベルトという国がなかった時代の話だ。


 神鳥、それは別の世界とこの世界を行き来する、渡り鳥のようなものだ。


 この世界を光とすると、別の世界は闇。


 神鳥は、その2つの均衡を保つために、


 世界を言ったり来たりする。


 光があふれれば闇の世界に、闇があふれれば光の世界に、


 その性質上、魔王が誕生する前後にこの世界に現れると言われており、


 世界の危機の警鐘を鳴らすとして、不吉の予兆でもあるのだ。


 だが、それでもなお神鳥が神聖である理由はただ1つ。


 クロムベルトの初代聖女に深く関わっているからだ。


 最初の聖女は、聖職者でもなく、全く特別な人間ではなかった。


 とある村の少女、ただそれだけだ。


 だが、彼女は慈悲深かった。


 自分より他人を、損得なしに思いやれる優しい少女である。


 そんな彼女が初めて神鳥と出会ったのは8歳の時である。


 いや、出会ったというのも怪しい、


 ただ単に空から綺麗な羽が落ちてきて、


 空を見上げるとはるか上空にとても大きな鳥の影が見えていた。


 ただ、それだけである。


 だが彼女はその羽毛を綺麗だと思い、持ち帰ることにしたのだ。


 そして時が経ち、彼女が成人した頃。


 世の中は魔王に蹂躙されていた。


 数多の国が滅びて、数多の人が死にいく。


 彼女もその中の1つであった。


 一晩で彼女の国は滅びて、村は全滅した。


 彼女には祈るしか出来なかった。


 宝物にしていた羽を握りしめて祈るだけ。


 ただそれは余りにも無力で、現実は余りにも残酷である。


 彼女が気づくとそこは平原であった。


 周りに人はいない、村の人は全滅である。


 彼女は嘆いた。


 なぜ自分がここにいるかは分からない、


 だけど今、周りに自分しか居ないのと、


 皆が殺されたことを理解していたのだ。


 彼女は涙を流す。


 生き残ってしまった、


 そんな思い出彼女は自分を責める。


「人の子よ、なぜ涙をながすのです」


 このまま自分も死のうかと思っていたところ、


 天から声が聞こえてきた気がした。


 ハッとなり彼女は顔を上げてみると、


 そこには光が集まってきて、大きな鳥の姿になっていく。


 彼女は過去を思い出す。


 なぜだが大昔の光景を思い出して、


 あの時飛んでいた、大きな鳥だと確信を持てた。


「私だけ生き残ってしまったからです」


「それは悪いことなのですか? 生き残るというのは貴方達にとって最重要のことであるはず」


 生命にとって生きるという事は、何事にも変えられない使命だ。


 誰しもが生きようとして、発展してさらなる生に繋げていく。


 それは文明の発達、種の進化、様々な方法でだ。


「でも大切な人は死んでしまいました、そして大切なものもなくなってしまいました」


 国も村も村人も親も、


 全て失ってしまった。


 彼女の喪失感は深い。


 それこそ自分の命を断ってしまおうとするぐらいである。


 自分だけが生き残る。


 その罪悪感は彼女の心に強く突き刺さっていたのだ。


「なるほど、個ではなく全を思いやる、それが人間というものなのですね」


 神鳥は1人で納得したような事を言う。


「ですが、貴方は生きています、やり直すことは出来るでしょう?」


「無理です、私には皆を守るだけの力がありません」


 彼女は痛感した。


 思いだけでは守れはしない。


 あの悪魔のような軍隊に対する、力が必要だったのだ。


 思いと力、


 それが合わさって初めて人を守ることが出来る。


 彼女には決定的に力が足りていなかった。


「ここに神殿を立てて、人を集めなさい、多くの人が集まれば大きな力になり得るでしょう、貴方達の心があれば出来るでしょう」


 そう言って神鳥は彼女に自身の力の一部を受け渡したのだ。




「その時に渡したのが転移する力、それが今ではこのようにマジックアイテムになって神殿でのみ製造されている」


「なるほど、つまりこの羽の力は……」


「転移だ、それも神殿の祈りの間に転移する」


 それは今では敵国の中心地である。


 これほど奇襲にもってこいの手段もない。


「ただし4人、1パーティが限界だ」


 この世界での1つの基準、


 4人で1パーティ。


 軍隊でも細かく分けると4人一組になることが多い。


「4人といっても、単独で攻め入る必要がある、だから俺が単独で転移する、異論はないな?」


「……仕方ないですね、精鋭といってもソーマ様とでは足手まといになりかねません」


 この国の精鋭といっても、ソーマレベルな者はいなくて、


 付いていっても足手まといになるのがオチ。


 そう思い軍師はその単独特攻を許可する。


 これで作戦会議は終わりかと皆は思ったが、1人だけ挙手があがる。


「メルア、どうした?」


 それはメルアである。


 最も戦術に疎い彼女が挙手をしたので、ソーマは疑問の表情になる。


「えっと、物語の続きはどうなったのですか?」


 その言葉に唖然となる。


 重鎮達は少し困ったような表情になり、軍師もどうしたらいいのか慌てている。


 だが、ソーマだけは唖然とした表情から復帰すると、


 少し笑いながらメルアの方を向く。


「ふっ、そうだな途中だったからな、作戦までは時間がある外で続きを話そうか」


「あ、はい! ありがとうございます!」


 そこに居た少女は、


 アクアティリスの巫女でもなく、


 愛する人のために全てを捧げた女でもなく、


 ただ、物語を楽しみにしている、1人の少女であった。

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