番外編:少女初恋
またも投稿が遅れて申し訳ありません…
一週間ペースで投稿するのは難しいかもしれません。
今回は少し前の物語で登場した少女ミキ=バイオレット視点のお話です。
各章毎の最後のお話に番外編として別キャラ視点で書いていこうと思います。
〜人間界(ミキside)〜
私の名前はミキ=バイオレット。
セインガルド王国の南区に位置するセインガルド魔法学校の生徒である私は、魔法学校の図書室で読書を嗜んでいた。
私立学校である故に、図書室内は広い上に冊数は非常に多く、管理責任者もいるので細かい箇所も隅々まで清掃がされており、本棚に並べられた本の乱れも見られない。
平日に図書室を利用する生徒も多く、適当に手に取った本を室内で眺める様な人もいれば本を借りて教室内でゆっくりと読書を楽しむ人もおり、勤勉な人は放課後にこの図書室に居残り勉強に励む人もいる。
魔法学校は元々高い立地に建てられている上に、図書室は本校舎の4階にあるので窓からの眺めや日当たりも良い。
リラックスして読書出来る上に、本を長時間眺めた後、遠くを見る時に非常に便利だ。
最も…窓側の席に座る事が出来れば、の話だけれど。
ただ、とある生徒に限っては、どれだけ席が空いていようと日当たりの良い窓側の席に座る事は避けていた。
とある生徒というのは、闇属性の生徒の事だ。
適正属性によって、制服や制服に付けられるエンブレムのデザインが変わるので、生徒毎の属性が何であるのかはひと目でわかる。
あまり闇属性持ちの人との関わりは無いのだけれど、図書室に来る闇属性持ちの生徒はやけに日光を避けたり、ぶつぶつと独り言を呟きながら読書をしていたりと、普通の生徒と比べて少しエキセントリックな行動が目立つのでわかりやすい。
クラスの中でもあまり目立たず根暗っぽい私が「あの人は暗い雰囲気がするなぁ」と感じる程に暗い人達なのだ。
しかしそれでも図書室に訪れる以上、私と同じく読書が好きなのだろう。
根っからの読書家である私にとっても、この図書室は正に理想の自室のであるかの様な寛ぎの空間だった。
当然、私は暇さえあればこの図書室を利用し、休日にさえわざわざ図書室まで足を運んでいる。
因みに今日は休日で、広大な国土面積を誇るセインガルド王国の各地から生徒が訪れるこの学校まで、わざわざ休日に足を運ぶ者は私と…私の一人の友人だけだった。
読書家で、活発的な性格では無く寧ろ暗い印象のある私の友達は少なく、その友達も私と気の合う暗い印象の女子生徒ばかりだった。
しかし、どの友達も優しい性格の持ち主で、頭も良くないし、運動神経も鈍い私を支えてくれる…私にとって掛け替えのない人達だ。
親しい人の人数が少ないとはいえ、現在の人付き合いには一切の不満は無い。
そして私の隣に座っている、長い赤髪に青眼の女子生徒の「エレナ=シャローン」もまた、私の友達の一人で、友達の中でも一番気の合う親友とも言うべき存在だった。
魔法学校に入学してからは、放課後や休日に一緒に図書室で読書をするのが日々の習慣だった。
今日も何時の休日と同じく、お互いに教え合ったオススメの本を読み、目が疲れてきたら会話に浸る時間を過ごすのだろう…と思っていた。
しかし今日の会話は、何時もの日常会話とは少し違った内容だった。
「ねぇ、ミキって恋愛に興味ある?」
読書に飽きたのか、唐突に私の方を見て爽やかな笑顔で私に話題を振った。
私は本を眺めていたので、私の視界に顔が映るように机の上に身を乗り出し、私の顔を覗いている。
この子はクラス内にいる時はあまり自分から他人に話しかけない内気な性格だが、友達同士になると一転、爽やかな笑顔を全員に見せて話題を提供するムードメーカー的な存在になる。
いつもは空気を読んで、グループ全員が入り込みやすい話題を上手く提供してくれるのだけれど……。
今回は珍しく恋愛話という難しい話題を吹っ掛けてきた。
「れ、恋愛?
まぁちょっとは憧れるけれど、私には難しいかな…」
私はそう返答すると、エレナから目線を外した。
エレナの目は私が肯定するのを期待するような眼差しだったのだが、生憎その期待に添えられる様な返答はできなかったからだ。
しかし、エレナはなぜ珍しくもこの様な話題を出したのだろう…?
「…もしかして、エレナは好きな人とかいるの?」
期待の眼差しで恋愛話を持ち込む理由は、自分が恋愛に興味を持ったから…或いは実際に恋をしているから、のどちらかだろう。
「まだ好きな人はいないけれど、素敵な男性が見つかれば絶対に恋愛したい!
…ミキはそういう考えって無いの?」
私の質問に対して「よくぞ聞いてくれた!」とでも言うように、エレナが嬉しそうに笑って返答する。
しかし私に同意を求めるような質問には少し悩まされる。
一言で「無いよ」と無下に否定する訳にもいかないし、かと言って下手に肯定もできないしなぁ…。
「う〜ん、まだ恋愛については考えてない…かな。
もし本当に素敵な男性が見つかれば、その時は考える……かも?」
考え抜いた結果、微妙な返答になってしまった。
まだ好きな人がいないのは確かだけれど、もし素敵な男性が見つかっても、私が恋愛をするのは難しいと思う。
読者家で暗くて目立たない私が、恋をするなんて無理だと自分で思っているからだ。
「まぁ、クラスに気になる男子もいないからねー。
学校外での運命の出会いを待つしかないかなー?」
エレナはそう言うと、机に身を乗り出す体制から、椅子に倒れ込むように勢いよくガタッと腰掛けて手を後ろに組んだ。
それにしても、エレナは学校外での出会いに望みをかけるほど恋愛に興味があったのか…。
いや、もう私達も思春期真っ只中と言ってもいい年齢だ。
寧ろまだ恋愛に大した興味を持たない私の方が珍しいのかもしれない。
「運命の出会い、かぁ…。
おとぎ話みたいな話だけど、確かに私もちょっと憧れるかも」
とは言え、私はそんな千載一遇の出会いなど信じてないし、増してやそこまで魅力的な男性にあっても積極的に声をかけるなんて考えられない。
「うんうん、やっぱり若いうちに恋愛を経験した方が良いと思うよ〜」
私の同意に満足した様子でエレナは頷く。
「そうだね……あっ、もう図書室の閉鎖の時間だ。
そろそろ帰ろうか」
返事をしながら図書室の壁に掛けてある時計を見ると、時刻は午後4時を回っていた。
図書室の閉鎖時刻は午後4時半。
その時刻になると管理人がこの図書室の鍵を施錠しに来る。
注意されるまで本を読んでいるというのも気が引けるし、そろそろ帰宅すべき時刻だろう。
「本当だ、話してる内にいつの間にか時間経っちゃってたね。」
エレナもそう言って、読んでいた本を元の棚に戻そうと立ち上がる。
読んでいた本を元の場所にきっちりと戻し終え、私達は管理人が来る前に図書室を後にした。
エレナとは家の方向がほぼ真逆なので校門前で別れた。
明日から図書室内の整備が始まる。
だだっ広い図書室の整備は決して楽な事では無く、管理人だけで整備するには数日の期間を要する。
つまり、私達はその数日間の間は図書室を利用する事が出来ない。
それを考えると、憂鬱な気持ちに浸ってしまう。
「はあ…明日からやる事が無くて暇だなぁ。
テストも近いし勉強もしなくちゃだけど、内容が難しくて捗らないからなぁ…」
ため息をつきながら、暗い独り言を吐く。
恐らく明日の私は勉強なんかしないし、散々読み漁った本を再び読む時間を過ごす事だろう。
今考えてみると、あまり勉強の出来ない学生の私が、恋愛に没頭している暇などないではないか。
「はぁ…夢のまた夢かぁ……」
再びため息をつく。
現状を見れば見るほど、気分は憂鬱になる。
「本当、どこかに格好良くて頭も良くて勉強も教えてくれる優しい男性の人はいないかな……。
でもそんな都合のいい事が起きる訳…あれ?」
下らない妄想をしながらとぼとぼと校門前から歩き出した時、白髪碧眼の見慣れない人が学校の柵越しに校舎を見つめているのを、私は発見した。
中背で細身の身体に、肌は白く中性的な容姿をしており、見た感じでは男性が女性なのかもわからない珍しい人だった。
服装は白い半袖で無地のTシャツに、長めのルーズストレートのジーンズの裾を少し捲っており、動きやすそうでラフな格好だった。
白髪なだけあって、白色の上着がかなり似合って見える。
ただ……男性としては眉目秀麗、女性としては花顔柳腰と言える程に、横顔を見るだけでもその容姿が美形である事は明らかだ。
それだけで私は何故か、その人に胸が高鳴る様な謎の魅力を感じていた。
何かを探る様な目線で校舎内をじっと見つめる様は少し怪しかったが、休日の校舎を見つめた所でめぼしい情報は何も得られないと思う。
いや、でも腰に剣を携えてるのは何故…?
街を見回る為の騎士の人なら普通の事だが、どう見てもあの人の服装は一般人のものだった。
こういう時こそ、私のもつ「とある能力」が役に立つ。
とある能力…とは、この目で見た人の善悪を正確に判断できるという便利な能力で、この世界でも珍しい効果を発揮する、私特有の固有スキルだ。
スキルには「審判の眼」という、やけに格好よさげな名前がついているが、私自身が決めた名前でも無ければ気に入っている名前でも無いので、あまりスキル名を他人に言う事は無い。
「この人は…どうやら普通の善人の方の様ですね」
判定の結果は善人。
ホッ、と胸を撫で下ろす。
しかしそれでも胸の高鳴りは収まっておらず、私は無性にこの人に話しかけたい衝動に駆られていた。
私はその時、図書室でのエレナとの会話を思い出した。
「やっぱり若いうちに恋愛を経験した方が良いと思うよ〜」
そうだ、人生の中でも千載一遇のこの好機は私が若いうちにはもう二度と訪れないだろう。
ならば…動く時は今だ。
気がつくと、考えるよりも先に足が動き、私はその人のすぐ背後へと近づいていた。
…もしかしたら、自分で思っているよりも私は恋愛に興味があったのかも?
しかし、その人に話しかける為の自然な距離まで迫る一歩手前で足が止まってしまう。
うっ、一言話しかけようとするだけでも緊張感が…。
…いいや、ここで悩んでも仕方がない。
とにかく話しかけるところから開始だ。
私は心に残る緊張感をなんとか払拭し、一歩を踏み出した。
「あの…この学校の関係者の方でしょうか?」
私が声を掛けると、その人は少し驚いた様子でこちらを振り向いた。
しかしすぐに冷静さを取り戻した表情で私を見つめ、落ち着いた態度で口を開く。
「……いや、関係者ではない。
でも、いずれはこの学校に入学するつもりでいる。
今日はその下見に来たんだ」
その表情はとても凛々しく、さっき遠目で見た時よりも遥かに格好良く見えた。
声を聞いても男女の差別はつきにくいけれど…女性にしては低い声だった。
確証はないけれど、恐らく男性で合っているだろう。
見た目も私より少し年上っぽいし、お兄さんぐらいの認識だろうか。
まぁ…剣を携えてる人が学校の関係者な訳が無いか。
しかし、この人の台詞から考えると、後々に生徒になるという事だろう。
それから少し会話を続けると、この人はやはり男性で間違いない事、セインガルド王国の国外から来た事などが分かった。
この人の返答は端的かつ的確で、他の人と比べて会話が円滑に進む気がした。
話し相手の頭の回転が良いと、話が円滑に進みやすい。
このお兄さんにもそれと同じ事が感じられた。
魔法学校の入学を希望するだけあって、かなり頭が良いのだろう。
聞いた話、このお兄さんは魔法理論に関する知識が既に身についているらしい。
セインガルド王国外の人がどうやってその様な知識を身につけたのかは知らないけれど、審判の目を使った判断によると嘘では無いようだ。
そもそもセインガルド王国外では、魔法に関する情報はかなり限られた存在になるはず。
それらの情報を集めてしっかりした魔法の学習を行うだけでも、相当な情報収集力が無いと不可能な話だ。
それを可能とし、知識を我が者にする能力があるとは…このお兄さんは有智高才の人なのかもしれない。
……よし、決めた。
このお兄さんにお勉強を教えて頂こう!
「本当ですか!?お兄さん頭良いんですね!
よろしければ私に魔法理論を教えて頂けませんか!?」
……ハッ!つい気持ちが高ぶって声を荒らげてしまった。
いつもは友達にすらこんなテンションでは話さないのに…。
「おいおい。俺と君はたった今知り合ったばかりだろう?
だったら学校の教員にでも教われば…」
「先生じゃダメなんです!魔法学校の先生はクセの強い人が多くて…。」
私はお兄さんが少し困った顔で拒否しようとするのを速攻で阻止した。
ちょっと強引っぽかったかな…?
いや、でも現在の私の悩みを解決する折角の好機を易々と逃すわけにはいかない。
「それに、私は魔法はまだサッパリですけど、固有スキルを持っているんです!
貴方が悪い方じゃあ無い事はとっくにスキルが判定してくれてます!」
まぁスキル名は言いませんが…。
「そんなスキルがあるのか…。まぁ君が問題ないなら教えてもいい。
どの道、俺はこれから暇だからな」
おぉ…本当に承諾してくれるとは…!
これで勉強面は少なくとも救われた。
よし、この勢いで恋愛も成就させてしまおう!
「本当ですか!?やったぁ!
では、私の家まで来てください!
暫くは両親は家にいないので大丈夫ですよ!」
あっ…また気持ちが高ぶって、今までにないはしゃぎ方をしてしまった。
ちょっと恥ずかしい…。
それにしても、いきなり家に誘うのはちょっと段階が早いかな?
さっきも、お兄さんは私に勉強を教えるところから悩んでいたからなぁ…。
図書館の人目の少ない所に誘う方が良かったかな?
いや…恋愛の為には、家に誘って家庭的な面を見せてやるのだ。
適当な施設にでも誘い込んだら、世間話を交えた勉強会でお兄さんとの関係は終わってしまうだろう。
「わかった、少しの間お邪魔させてもらうよ。」
良かった…お兄さんも了解してくれた。
私は、ホッ…と胸をなで下ろす。
「いえいえ、お邪魔なんてとんでもない!
お勉強教えてくれるなら有難いです!
あっ、自己紹介がまだでしたね…私はミキ=バイオレットといいます!」
「俺はクロト=ルミナだ。
少しの間よろしくな。」
お兄さんは少し微笑みながら言った。
クロト…さん?
白髪の頭からは明らかに「白」というイメージが強いけれど、名前に「黒」が入っているのが少し不思議に感じた。
でも、それはそれでアリかも……?
いやぁ…それにしても、勇気を出して誘った甲斐があったなぁ。
うん、家に誘ったのも間違いじゃあない筈!
幸いにも、両親は仕事の都合で数日間は家に不在だ。
これで全ての条件は揃った。
後は行動に移すだけ…!
エレナとの会話が無ければ、ここまで話は進展しなかったかもしれない。
恋愛には興味が無い…と言ってしまったが、エレナには感謝しなければ。
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それから歩くこと数十分、私の家に到着した。
学校から家までの距離は、学校の生徒の中では比較的近い方なので登下校はかなり便利だ。
「着きましたよ!ここが私のお家です!」
私がクロトさんの方向を向いて声高らかに目的地への到着を告げると、クロトさんは少し驚いた表情で私の家を見ていた。
「ここが君の家か…?物凄く大きいな…」
え?大きい…?
友達の家はこれぐらいが普通だけれど…。
「そうですよ。さ、遠慮なく入って頂いて結構ですよ!」
……あ、そうだった。
一応私の家族も貴族だから…私の常識の方が変わってるんだ…。
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その後、私はクロトさんに魔法学に関するあらゆる勉強を教えてもらった。
まだ17歳の勉強範囲とはいえ、魔法学校の学力は普通の学校よりも非常に高い。
同じ年齢層の勉強範囲でも、その勉強内容の難易度の差は圧倒的な筈だ。
けれど…クロトさんは私が学校で習っている勉強範囲を難なく完璧に私に教えていた。
それも、魔法学校のどの先生よりもわかり易く効率的な教え方で。
勉強をしながらの会話で、クロトさんが魔法学校に入学するには騎士団への入団が必須条件となるらしく、クロトさん自身も入団希望でいる事が分かった。
クロトさんはまだこの国に来て間もないので、普段は宿で寝泊まりしているらしい。
お互いに有益だと思ったので、騎士団の入団試験までに私の家にクロトさんを泊めさせることにした。
運のいい事に、入団試験の日までには親は帰ってこない。
勉強を教わるにも、恋を成就させるにも絶好の好機だ。
それにしても、クロトさんは体の線が細く、騎士としてはかなり華奢な体格をしているので本当に入団試験は大丈夫なのかな…?
とは思ったが、本人曰く「剣の腕には自身がある」との事だから…もしかすると無理な話では無いのかもしれない。
そう思っていた矢先、クロトさんの口からは「自分一人で魔狼族を倒した」という有り得ない話が出てきた。
え…?魔狼族……?
いやいや、獣型の魔族生命体はどこかの適当な荒野の獣とは訳が違いますよ…?
スキルを使うし、普通の獣に比べて身体能力が非常に高い場合が殆どなのに…。
一人で倒せる訳が…いや、でも「審判の目」の判定では真実の様だから、クロトさんには本当にその実力があるのだろう。
って言うことは、クロトさんの戦闘能力は熟練の冒険者以上!?
頭の良さも相まって、下手すれば入団試験なんて余裕なのでは…?
もはやこの人は本物の完璧人間…いや、本物の完璧超人なのかもしれない。
そして、お互いに自らの属性を明かし合ったのだが…なんとクロトさんの属性は意外にも闇属性だったらしい。
確かに闇属性の人っぽい、大人しく落ち着いた雰囲気はあったけれど、私の知る闇属性の人の大人しさは何と言うか…もっと根暗な雰囲気を纏っている。
髪も白髪で、綺麗な青い瞳をしているから寧ろ聖人の様なイメージが強く、光属性だと言われた方がしっくり来るのだけれど。
更に驚くべき事は、私が料理を作っている間に魔導書をパラパラと一通り眺めただけで、まるでその内容を全て把握したみたいに、私の質問に対して何の資料も見ずに完璧に返答していた事だ。
その受け答えの早さは、まるで使い慣れた机に収納した物を自由にスッ、と取り出すように……普段から勉強している魔法学の知識をサッ、と取り出す様な程だった。
勉強を初めて僅か数十分…いや、僅か数分で私は確信した。
やっぱりこの人は…不世出の天才なのだと。
その上、私に対する行動の一つ一つが紳士的だった。
お勉強の教え方も丁寧で、私が食事の用意をした時なども律儀にお礼を言っていた。
あとは…ボディタッチもかなり控えめだった。
あれ程のイケメンさんなら、少しぐらいは遠慮せずに触っても…と思ったのだけれど。
でも、さり気なくそういう心遣いができる紳士的な所も格好良いなぁ…。
と、思った次の日。
ちょっとした思わぬ事故が起きた。
私の着替えの途中に、クロトさんが突然私の部屋に入って来たのだ。
私は女子の中では着替えにかかる時間は短い方だ。
それを…まるで狙ったかの様なタイミングで入ってくるものだから、私の中のクロトさんの紳士的なイメージが幻滅した様な気がして、つい声を荒らげて怒ってしまった。
冷静になって考えてみれば、私の固有スキルで善人と判定された人がその様な下心のある行為はする筈もないし、そもそもクロトさんが本物の紳士的な人である事は初日から確信していたではないか。
それを、一時的な感情で勝手に幻滅したような気になって怒鳴ってしまうなんて…私は最低だ。
……まぁ、ノックもせずに入ってきたクロトさんにも少しは非があるのだけれど。
その後、私が着替え終わるのを部屋の外で待っていたクロトさんは非常に申し訳なさそうな態度で私に謝罪してきた。
私は「もう…次からは気をつけて下さいね」と言って、さほど怒っていないという事を示したのだが………。
阿呆か私は!?
何で上から目線で話しちゃったの!?
ていうか、謝らなければいけないのは私じゃないか!?
あぁぁ……やってしまった。
クロトさんは自分に責任がある、と思い込んでいるのかも知れないが、これは明らかに私が悪人ではないか…。
はぁぁぁ……と、私はクロトさんと出会う直前の下校時についたため息よりも大きくため息をついた。
多分、今の私の周りに漂っているオーラを可視化出来るとしたら、きっとその色は深いブルー色か、どす黒い色をしていると思う。
もしかしたら、私の方が後でクロトさんに何か言われてしまうかもしれない。
もしそうなったとしたら、私は何も言えないだろう。
しかしその後、クロトさんは私を何ら責めることなく、昨日までと同じ様に接する事が出来た。
これは本当に、クロトさんの紳士的な性格に感謝しなければならない。
それにしても、最近の私は本当に運がいいなぁ。
後で不幸が山積みになって反ってきませんように…。
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そして現在。
入団試験前日の夜、就寝の時間。
私はこのタイミングでクロトさんに告白しようと決意していた。
この数日間にクロトさんを見て、確信した。
クロトさんは私の理想の男性なのだ、と。
何故なら、それまで恋に大した興味を持たなかった私が初めて恋愛に積極的になれた相手だから。
クロトさんは私に勉強だけでなく、恋まで教えてくれた。
それに対する感謝は、してもし切れない。
私に出来る最大限の事は…私の今の想いを伝える事。
それを成すべく、自室にいた私は下の階にいるクロトさんの元へ向かう。
この時既に、私の心臓の鼓動は激しく、ドクドクと脈を打っているのが胸に手を当てなくても伝わった。
廊下からリビングをチラッ、と除くと、就寝の為に布団を敷いているクロトさんの姿が見えた。
こうして、いざ本人の姿を目の前にすると、更に心臓の鼓動が高まってくる。
落ち着くんだ私…ここで覚悟を決めなくてどうする!
よし…落ち着いて深呼吸……。
「すぅぅ……はぁ………」
少し落ち着いたけれど、まだ心臓の鼓動は聞こえている。
うぅ…やっぱり緊張する……!
でも……言わなければ…!
私はちっぽけな勇気を振り絞って、クロトさんの元へと足を踏み出した。
その私の存在にクロトさんが気付いて、私の方に振り向く。
……っ!
また、心臓の鼓動が高まる。
たぶん、今の私はかなり赤面していると思う。
でも、もう戻れない。
よし…言ってしまおう!
「えぇと…今まで私が見てきたクロトさんは頭が良くて、料理も上手で、優しくて格好良くて…他の分野においても完璧な方でした。
私には出来ない事が、クロトさんには沢山出来て…憧れを抱きました。
だから私は…その…クロトさんが…」
つい言葉がぎこち無く、言い方も遠まわしになってしまっている。
けれど、あと一言。
一番伝えたい…「好き」という言葉だけでいい。
クロトさんも、私の次の台詞を待っている様子だ。
今こそ、私の気持ちを伝える時!
「私は…クロトさんの合格を願っています。
それで…えっと…が…頑張ってきて下さいね!」
ニコッ、と私はクロトさんに告げ、早足でリビングを出て自室に向かった。
自室に入った私は、すぐさまベッドに身を投じた。
「…何やってるんだろう、私……」
言えなかった。
あと一言だったのに…。
結局、私の意思ではあれ程の人物に想いを伝えるには遠過ぎたのか。
私とあの人では、全く釣り合わない。
人間としての格が違う。
そういった消極的な考えが、つい頭を過ぎってしまった。
嗚呼…結局私は根暗な女のままだったのか…。
「…でも、まだ諦めきれない…!」
心臓の鼓動は、まだ高鳴っていた。
これ程までに惹かれる男性をこんなに簡単に諦めるなんて出来ない。
それに、まだ機会を完全に失った訳では無い。
また明日にでも、この想いを伝えれば良いのだ。
大丈夫。
この悔しさを味わったら、次にもし失敗してもすぐに立ち直れるだろう。
「…いつまでも弱気になっていないで、前向きにならなきゃ」
私はそう決意して、深い眠りについたのだった。
......................................................
翌日の朝、私は目覚める。
部屋の壁にかけられた時計を見ると、時刻は6時半を少し過ぎたところだった。
…よし、告白の成功の為にも、今日は朝からしっかりと気合を入れよう!
私は勢いよくベットを降りて、リビングに向かった。
クロトさんは、まだ布団で眠っている。
私は起こそうと、クロトさんに近づいた。
しかし……
クロトさんの間近に近づくと、すぅ…すぅ…と寝息をたてて穏やかに眠っているクロトさんの様子が見えて、起こすのをやめた。
……やばい、クロトさんの寝顔が物凄く可愛い。
告白しようとした時程ではないけれど、心臓の高鳴りが半端ではなかった。
微かに聞こえる寝息と、安らかな表情に静かな呼吸。
上手く言えないけれど…女性らしさを含んだ人畜無害そうな顔立ちと相まって、まるで天使様のようだった。
思えば、料理を振舞ってくれた事もあったし、幾つか家事も手伝ってくれた。
勉強どころか女子力でも、私はクロトさんに負けているじゃあないか…。
…比較するとだんだん自分が悲しくなってくる。
よし、朝食を作る為にリビングへと向かおう。
私はその考えを自分の中で言い訳にし、リビングへと向かった。
……軽く現実逃避である。
仕方ない。
女性的な魅力で男性に負けたなんて、そりゃあ現実から逃げたくもなる。
......................................................
朝食を作り終え、私はクロトさんを起こした。
あれ…?たしか昨日は今日の朝食をクロトさんに作って頂く約束をしたような…。
やっぱり、さっき起こすべきだったかな?
いつも寝起きの悪い私と違って、クロトさんは起こそうとすればすぐに起き上がる。
クロトさんには、私が見習わなくてはいけない事が幾つもあるなぁ……。
そういえば、クロトさんは就寝前にカーテンを閉めて朝の日光を遮ったり、敢えてシャワーを使ったり…と変わった拘りがあったけれど、その辺りだけは変わり者っぽい闇属性の人の特徴が表れている様に思える。
朝食を食べ終えた私達は、それぞれ出発の仕度をしていた。
クロトさんは騎士団の入団試験、私は学校への登校の支度をしていた。
今日でクロトさんが私の家に泊まるのは最終日。
今日こそ…この想いを伝えなければ。
しかし相変わらず緊張してしまい、中々そのタイミングを掴めず…遂にクロトさんとの別れの時が来てしまった。
私は今、玄関前でクロトさんの出発の見送りをしようとしていた。
笑顔で見送りをしなければいけないのに、複雑な気持ちを抱えた私の動作はしどろもどろになってしまう。
そんな私に向かって、クロトさんが家を出ていく手前に振り返って口を開く。
「今まで世話になった、有難う。
必ず…何時かまた会おう。」
クロトさんは今までで一番爽やかで…格好良い笑顔で言った。
それを見て、私の心臓はクロトさんに聴こえてしまうのではないかという程に大きく高鳴った。
…もう、言うべきは今しかない!
私は心臓の高鳴りと共に訪れた緊張に耐えつつ、何とか言葉を紡ぎ出す。
「わ、私の方こそ有難うございました!
その、また機会があれば…絶対にまた会いましょう!」
…うぅ…また言えなかった…。
心臓はまだ大きく強く鳴っていたが、それとは対照的に私の気持ちは弱々しく沈んでしまった。
クロトさんの見送りの為に、笑顔を作るのが精一杯だった。
「あぁ、じゃあ…元気でな。」
そう言って、クロトさんは玄関の扉を開けて出ていってしまった。
しかし…扉の方に振り返った時のその背中は何故か大きく見えて、私に安心感を与えた。
いつかまた必ず会えるという、強い安心感。
私のただの妄想や無駄な期待かもしれないけれど、クロトさんならまた会ってくれるという約束を守ってくれる予感がした。
そうだ。
クロトさんなら、いつか必ず約束を果たして会いに来てくれるはず。
いつまでも落ち込んでいないで、その時の為にもっと強い気持ちを持った人間になろう。
まだ私の望みは絶たれた訳ではないのだ。
……よし、今日からは気持ちを入れ替えて、もっと自分に自信を持てる様に頑張ろう!
根暗で弱気な自分を直して、もっと勉強してクロトさんに注目されるような魅力をつけて…!
そうして私は日々の生き方を改め、普段の勉強にも人脈作りにも力を入れる様になった。
あっという間に友達も増え、学校の成績は学年でも上位に入るようになった。
しかしそれでも、まだまだ私はクロトさんの素晴らしさには遠く及ばない。
私の中の人生の目標こそが、あの人なのだ。
クロトさんとの出会いは、私自身を大きく変えてくれるきっかけとなったのだった。
今回は別キャラ視点で物語を書きたかった…というよりも、別キャラ視点で見たクロトが滅茶苦茶にイケメンに映っているという事を表現したくて書きました。
人間界だと普通に生きているだけでモテるのではないかと思います。
イケメンで多才な男性は作者としても羨ましいです…(´-ω-`)ウラヤマ~
…今更ながら、日本以外の国に普通に布団が置いてあるのは不自然なのでは……?
まぁこの世界では現実世界の文化がグチャグチャに混ざってるという事で…。
今回で2章は完結となり、次話からは3章に突入します。
3章こそはクロトが勇者になれる…かな?




