014 道
燻製用のスモークチップがないにも関わらず出来上がった燻製肉はなかなかのものだった。
やはりLv5スキルの影響が大きいのだろう。
『アイテムボックス』があるから保存食を作る意味はないのだけれど、これは単純に違う味のものが食べたいのと実験も兼ねて作ったに過ぎないのだ。
ちなみに夕飯はこの燻製肉でした。
出発の準備も大方済んだのでお風呂に入ってすっきりする。
明日中にニルギル村に着くとは思えないけれど、数日のうちには着いてくれるだろう……たぶん。
解体して増やした毛皮の布団と極上絹のパジャマであっという間に意識は眠りへと落ちていった。
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今ボクは走っている。ひたすらに走っている。
景色があっという間に後ろに流れ、先ほどまでいた場所は過去の存在だ。
最初の最初に試した『疾走』と『脚力強化』と『身体能力強化』のコンボはやはり強力な移動手段だ。
しかも今ではスキルポイントが増加した事により各それぞれのLvも上げる事が出来ている。
見渡す限りの大草原だが、その地形は平坦では決してない。
最初にファンタジー生物から逃げるために走ったときには運が良かったのか足を取られることはなかったけれど、今思えばかなり危ない事をしていたのだとわかる。
なので安全を期すためにもう1つスキルを取得している。
それは――『走破』。
『疾走』スキルは単純に走る事を補助、補正するスキルだが、『走破』は走る場所に対して補助、補正を行うスキルだ。
つまりは悪路なんかだと特に効果が期待できるスキルなのだ。
この大草原で高速移動するなら是非とも欲しいスキルというわけだ。
高速で移動しているので当然ながらファンタジー生物を倒している余裕などない。
全部無視です、無視。
それに経験値系のスキルを解除して走るためのスキルを確保しているのだから効率も悪い。
始めはゆっくり歩いてファンタジー生物を倒しながら行こうかと思ったのだけれど、それだとやっぱり寄り道寄り道の道程になりそうだからいつまで経っても辿り着けない予感がする。
なのでここはニルギル村に行くと言う目的のみを見据えることにしたのだ。
解禁された権限により、ニルギル村の方角だけはわかるので『方向感覚』スキルを使って方角を割り出して進んでいる。
頻繁に『方向感覚』を使って微調整をしながら大草原を走りぬけて行く。
朝に数日を過ごして愛着も沸いて来ていたボクのお城パートツーを躊躇いながら土に戻して埋めて、走り始めてから約5時間。
途中途中で休憩を挟んでいるとはいえ、『体力強化』Lv3と『身体能力強化』Lv3のおかげかあんまり疲れない。
休憩中だけ『体力回復量強化』を取得しているのもあって休憩時間も極短時間で済んでいる。
徒歩移動だったら数日はかかりそうな距離を5時間足らずで走破し、お昼を迎える頃には『鷹目』を使ってズームした視界に遂に人工物と思しきものが映った。
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「おぉ~……ちゃんとした? 道だぁ」
現代日本人だったボクとしてはちょっと疑問系になってしまうけれど、ボクの足元は踏み固められた地面になっている。
すぐ傍まで相当短くなった草が生えているが明確に区切りが出来ているかのようにぱったりとなくなっている。
道には薄っすらと溝が刻まれていて、馬車か何かが通った跡だとわかるのだけれどずいぶん薄れてしまっている。
まだこの辺にもファンタジー生物は多少いる。そのせいで交通量が少ないのだろう。
とはいってもボクが拠点にしていた場所に比べると格段に数は少ない。
もしここでレベル上げをするとしたら相当効率が悪くなってしまうだろうなぁ……。
すでにファンタジー生物=経験値と言う図式がボクの中では成り立っている。
もちろん油断したら命が危ないのはしっかりと理解しているし、骨身どころか魂にまで染込んでいる。
腕を抉られた事実はトラウマとしては克服したけれど、まだまだ忘れるにはインパクトがありすぎる。
やっと見つけた人工物と思しき道だけど『鷹目』で確認しても見える範囲には人っ子1人いない。
道に草が侵食している気配は薄いので、まったく使われていないと言うことはなさそうなのだけれど初異世界人との遭遇はまだまだ先になりそうだ。
一応道とはいえ、凸凹が結構あるのでスキル構成はそのままにして進んで行く。
もちろん『方向感覚』とスマホで方角をしっかり確認した上で、だ。
一応この道を進んでいけばニルギル村に辿り着きそうではある。
……『鷹目』で見ても村っぽいのはまったく見えないので、どのくらいかかるかはちょっとわからないけれど。
ひと気もないし特に気にする必要もなさそうなので走る速度は下げないまま道を軽快に走り始めた。
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道をひた走る事3時間ほど。
そろそろおやつ時だ。とはいってもおやつはないけれど。
お昼は『アイテムボックス』に仕舞ってある焼肉や燻製肉ではなく、いつものように10秒チャージで走りながら済ませている。
最後の1個だったのだけれど村に着けば異世界料理を食べられるだろうし、焼肉も燻製肉もある。
別に『魔法:創造』で新たに作ってもいいしね。
……そういえば魔力もずいぶん増えたし、『魔法:創造』で何か新たに作れないだろうか。
そう思ってしまうと試さずにはいられない。
正直3時間走ってずいぶん進んだおかげなのか、ただでさえ減ったファンタジー生物が極々稀にしか見れない程度にまで減っている。
しかもその稀に見るファンタジー生物も道には近づいてこない。
代わりに地球にもいたような小動物なんかが増えて来ている。
ボクの良く知っているサイズの何の変哲もない兎や栗鼠や狸や狐や色々な小動物が道の周りの草原にたくさん生息しているみたいだ。
その小動物たちも道にはほとんど近づいてこない。
この辺なら『魔法:創造』を試しながらでも問題なさそうな気がする。
『魔力障壁』は常に張っていることだしね。
さすがに『魔法:創造』を試しながら走るわけにはいかないので、『疾走』などの走るために取得していた構成を元に戻しておく。
ちなみに『魔力障壁』はLv2にあげてざっくりとしか展開できなかったのを、体の周辺30センチメートルくらいを覆うように展開できるようにしておいた。
村や街中でも『魔力障壁』を展開しておけるように練習も兼ねている。
……でもLv2だと『魔力障壁』に柔軟性がほとんどないので激しい動きにはついていけない。
それに体の周囲30センチメートルが限度でそれ以上近づけて展開はできない。
理想は体の周囲3センチメートル程度で激しい動きにもついていけるくらいの柔軟性だ。
Lv3くらいに上げた方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら『魔法:創造』のテストを開始する。
まずはいつものようにウ○ダーインゼリーを創造してみる。
これは慣れもあってかとても簡単にできた。でも魔力消費はやっぱり多い。
20倍になった魔力でもごっそりともっていかれるのはやっぱり辛い。鬼畜魔法めぇ……。
『魔法:創造』を解除して『魔力回復量強化』で減った魔力を回復させながら歩き、ついでに周りの景色も眺める。
すごいスピードで流れていった疾走中とは趣が異なる景色が目に飛び込んでくる。
レベル上げで散々見慣れた光景とはちょっと違い、あの場所よりもずっと草の背が低くなっていて、ファンタジー生物がほとんどおらず小動物たちがちょこまかしている。
なんとも和み空間だ。
殺るか殺られるかの危険領域だったレベル上げをしていた場所とは雲泥の差といってもいいくらいに違う。
「平和だなぁ……」
ついつい本音が漏れてしまうくらいに平和だ。
抜けるような青い空から降り注ぐ暖かい日差しと、ちょうどよい温度の風。
ピクニックとかしたら気持ちいいだろうなぁ……。
のほほんとしつつも最低限の警戒は怠らない。
高い授業料を払ったのを忘れるほどボクも愚かじゃないからね。
のんびり歩いて魔力が回復したら実験再開だ。
今度は今まで作れなかった物を創造してみる。
対象は『石鹸』だ。
ボクが良く使っていたお肌にも髪にも優しいアロマティックローズの香りの石鹸だ。
石鹸で髪を洗うのはよくないのだけれど、この石鹸は髪にも優しいのでたまに気分を変える時に髪を洗っていたりもしていたのだ。
果たして、石鹸の創造はうまくいった。
ただし、魔力の消費量が尋常じゃない。ウ○ダーインゼリーの1.5倍、20倍の魔力がなければ作れなかっただろう量だ。
でも20倍の魔力でならそこそこ余力を残せる消費量ではあった。
ボク愛用の石鹸を創造できたことに気をよくして魔力を回復させては創造をして石鹸を増やしていく。
夕方までぽてぽてのんびり歩きながら石鹸を創造しては休みを繰り返したが、やっぱりニルギル村どころか第一異世界人とすら遭遇することはなかった。
道にボクのお城パートスリーを作るわけにはいかないので、草原に少し入ってからお城を建造する。
さっそくお風呂で今日作った石鹸を試したところ、普段嗅ぎ慣れて気にならなくなっていたあの香りが鼻腔をくすぐる。
うん、やっぱりいい香りだ。
たっぷりと石鹸を泡立てて体も髪もしっかりと洗う。
和紡布がないので手で洗ったけれど、10歳の少女の肌は柔らかく水の弾きもすこぶるいい。
手で洗った方がいいのかも?
あわあわ塗れになりながらそんな事を考えて石鹸を堪能し、浴槽の中で足をもみもみする。
あれだけの距離を走ったり歩いたりしたというのに、筋肉痛どころか張ってすらいない。
やはりスキルは偉大だ。
それでも一応もみもみするのはやめない。
アフターケアが大事なのはどこの世界でも一緒だろう。
しかもボクの体はもうがさつで頑丈な男のものではないのだ。繊細で触れれば壊れてしまいそうなほど細く華奢な体だ。大事にしなくては。
元男だったので体のケアの仕方とかはあんまり知らないけれど、せめてボクの知っている範囲ではそういうことをちゃんとしよう。
石鹸を作り出せた事でそういうことにも意識が向き始めた。
ボクの心も少しずつ変わり始めているのだろうか。いや変わらないものなんてないんだから当然の事なんだ。
せっかくの美少女なんだし、楽しまなくては嘘だろう。
余裕が出来たらそういう方面に使えそうな物も探してみようかなぁ。
そんなことを思いながらのんびりとへたくそな鼻歌を歌いながら、まったりとお風呂タイムは過ぎて行った。
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翌日もまったりのんびり『魔法:創造』を使いながらの徒歩移動だ。
今日創造しているのはシャンプーとリンスだ。
どちらも小さな頃からずっと使い続けているメ○ットだ。
ボクの中でシャンプーとリンスといったらコレなのだ。
これ以外もたまに気分転換で違うものも使ったりもするけれど、結局はコレに戻ってきてしまう。やっぱり子供の頃からの慣れというかなんというか、長い付き合いだからだろうか。
長い付き合いだからこそ『魔法:創造』で作れるともいえる。
今まで作れたウ○ダーインゼリーやアロマティックローズの香りの石鹸なんかも付き合いが長いからこそ、イメージを鮮明に持てて魔力消費が抑えられ、結果的に創造できるのだ。
物持ちが結構いい方なボクとしては色々と作れそうな感じではあるが、複雑なものとなると魔力による補正が必要となるので魔力消費が大きくなってしまう。
『魔法:創造』による魔力の補正はとにかく魔力の増える幅が大きい。
だからちょっと複雑なものになってしまうと20倍の魔力になった今ですら創造できない。
……やはり『魔法:創造』は鬼畜な魔法だ……。
それでも作れたものは割りと多い。
歯磨き粉や歯ブラシなんかはいつも同じものばかり使っていたおかげで石鹸よりも簡単に創造できた。
今までは『魔法:生活』で口の中の汚れも除去していたのだけれど、やっぱり歯磨きが習慣化している日本人としてはちょっと……ね。
こうしてなくてもなんとかなるけれど、あった方が生活が豊かになりそうな小物をいくつか創造できた。
予備も含めてまったり散歩気分で創造しては魔力を回復させてを繰り返していたら、お昼前くらいに遂に遠くの方に村っぽい何かが見えてきた。




