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第四十話。姉。

娘たちを夫に託し単身シンリュウソウに戦いを挑み、

実力の差を気合と技術で補いながらもそれでも追いやられ、

シンリュウソウを前に全身傷だらけになったファデータは思う。


夫の事を、娘たちの事を、そして妹たちの事を。


「皆、いい虫ばかりだったわ。私は幸せね。」

そう、ファデータが呟いた時だった。


「姉様、何を勝手に死のうとしているのですか。」

「ファデータさん…。」


彼女の背後から聞きなれた羽音と共に声が聞こえた。

「貴女達…、なぜ、来たの?」


「なぜって、戦う為に決まってるじゃないですかっ。ですよね。シリスさん。」

「……ファデータさん。」


「シリス。注意深い貴女らしくはないわね。周りを見なさい。

周囲は塞がれてるわ。もう、逃げられないわよ。」


ファデータの言うとおりいつの間にか周囲の枯れ木の間から菌糸が互いに伸び結合し合い、

檻の様に囲んでいた。


「だったらやっぱり3匹で戦えば…。」

「勝てないわ。勝てないのよルヴィア。今の私達では勝てないの。

それは戦った私が一番よくわかっているわ。もはや戦力にならない私と未熟な貴女達。

決して勝つことはできはしないの。」


「そんなはずはないです。ねぇ、シリスさん。」

「はい。例えそうだとしても、私は女王様にもう二度と逃げないと誇りにかけて誓いました。戦いましょう。」


「貴女がそんなことを言うなんてね。

でもそれを承知で言うわ。グラシリス。今一度だけ私の誇りの為に貴女の誇りを譲って。」


「ファデータさんの誇り、ですか…?」


「えぇ、貴女に教えられた貴女の母と同じ誇り。これで言いたいことは伝わったわね。

そして先ほど言ったことの続きよ。もう一度だけ言うわ。

私達は勝てない。

けれども、――――――――――――けれども、貴女達を逃がすことだけだったらできる。

再起を図りなさい。いいわね。今だけは耐えるの。」


「……。」

「姉様っ!?何言ってるんですか?全然言っている意味が分かりません。

ほら、シリスさんからも何とか言ってください。」




「シリス……妹を、スペルヴィアをお願い。」


「解かりました。御健闘を。」


「いやっ、姉様行かないで。駄目っ。そんなのいやぁっっ。」


「スペルヴィア、シリス。最後に貴女達に逢えて良かった。」


「私も貴方の御姿を忘れません。」


「ちょっとシリスさん、貴女っ!!」


「耐えてください。例えどのような屈辱に至っても貴女が生き抜くこと。

それが、ファデータさんの誇りです。」


「シリスさんの臆病者っ。私はそんな誇りなんていらないっ。姉様っ、姉様っっ。ねえ――――」


ファデータの羽音が一瞬止まるとその尾がスペルヴィアの腹部を強く殴打し、その意識を奪った。


「相変わらず厳しいですね。」


「仕方ないでしょう。姉とはそういうものよ。」


「私には姉がいなくてよかった……いえ1匹いましたね。いつだって厳しい無茶振りばかりする姉が。」


「私も…世話のかかる妹が多くて大変でした。」



ファデータは翅を菌糸の結界に打ち付け砕けた翅の破片を持って石化させ破砕させる。

しかしその翅はもはや半分までしか再生することがなかった。

そのことがファデータが限界まで戦ったことを何よりも示していた。



妹たちに勝てないと言ったことがどれだけ屈辱であっただろう。

妹たちに逃げを示したことがどれだけ屈辱であっただろう。

妹の誇りを踏みにじったことがどれだけ屈辱であっただろう。

母の仇を討てなかったことがどれだけ屈辱であっただろう。

そう姉の内心を推し測りそれでも引き止めたかったグラシリスであったが、

告げることにした。


「ではさようなら。お姉様。」


「えぇさようなら、可愛い私の妹たち。」












この日、グラシリスに託された姉妹の片割れが散った。







暫くしてスペルヴィアは自身の巣で目を覚ました。

目の前には姉を見殺しにしたグラシリスがいた。


「どうして、どうして私を姉様と共に戦わせてくれなかったの。」

「それがあの方の誇りだからです。私の母と同じ大切なものを守り抜くことがあの方の誇りだからです。」


「どうして私を私を…一緒に……。」

「次は私が殴りますよ。スペルヴィア。」


「…ごめんなさい。取り乱していました。」

「自分の誇りに素直なあなたらしいです。私ももっと素直になれれば…。」


「シリス…さん?」

「いえっ、何でもありません。」


「スペルヴィア。」

「何ですかシリスさん。」


「これを最後の『逃げ』にします。3週です。

季節が3周回ったこの日に、もう一度仇を討ちに行きましょう。」









次の日、またしても訃報が残された蜂達を襲う。


筆頭女王 ファデータの死亡。

遺体の発見者はファデータの夫。


結果は解かっていたもののやりきれない気持ちがグラシリスを支配する。

またしてもグラシリスの大切なものが散っていった。

約束は果たすことはできず、

なのに誇りだけが悲しいほど変わらず其処にはあり、

それが彼女は傷付けた。




スペルヴィアの巣にて、



グラシリス達が去り、目的を終えたシンリュウソウが去った後、

ファデータの夫であるオス蜂が原型が残されていない遺体を探し、持ち帰り、

姉妹の所へ運んできた。

ファデータの夫に抱きかかえられ娘たちに囲まれたファデータの遺体を、

今度はスペルヴィアが喰らった。






       姉様の遺志は私達が継ぎます




その日からシンリュウソウから隠れながら、

グラシリスとファデータの修羅の様な三年間が続いた。


生きる為ではなく、ただ強くなるためだけに命を刈って刈って刈り尽くした。

獲物がいれば殺して喰らい、

獲物がいなければ只管に射の鍛錬に励んだ。


時折シンリュウソウに狙われそうになっては只管に逃げ続け屈辱を噛み締め、

その屈辱を晴らすため、仇を取るため、誇りを取り戻すために2匹は強さを求め続けた。

そして三年がたった時、

グラシリスとファデータはかつての姉を超える姿へと成長していた。




さぁ、報復を始めよう。

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