第32話。因子
シリスさん、――――――――いえ、アレは、あの御方は、まさか……。
「『刃化』と『針山』、ですか。なるほどなるほど―――――。
身体はクチクラ質でできている。血潮は水で心は誇り、
というところでしょうか、――――――この身体の場合。」
あの御方の翅が刃に代わり、
更に加えて四対の刃の翅が同様に伸びてきました。
六対十二枚の翅、
やはり、シリスさんこそが伝説の…、
「『スペルヴィア』。」
「あれ、そこの御嬢さん。いや、ご先祖様になるのでしょうか、それとも子孫?
いやまぁ何でもいいです。まぁとにかく、スペルヴィアは貴女でしょうに。
『この仔』の眠れる意識が貴女こそがスペルヴィアと言って譲りません。
まぁねじ伏せるのは簡単ですが、実に大したものです。この私相手に。
だから、貴女『も』堂々とスペルヴィアと名乗っていいですよ。私が許可しましょう。」
「……は、っはい。あ、ありが、とう、ございます。」
「いやぁ、あの水辺の女王蜂の嘆願か、水棲という共通点か、
全くなぜこの仔に因子が入ったかわかりませんが、
制限時間内に全部終わらせちゃいましょう。」
ハイドロワスプ? RANK???
あの御方は六対の翅をカノンプテラに向けられ哂いました。
「さて、打ち合いでもしてみます?あなたが撃つまで待ってあげましょう。」
そう言って『傲慢』に笑う表情にシリスさんの面影はありません。
待った結果カノンプテラから強烈な複数の牙が結合した巨弾が放たれましたが――――――
「BANG!!」
あの御方は翅の先に溜まった水の刃を切り離し撃ち続けました。
向かってくるその巨弾を水の刃の初弾があっさり切裂いて、
その後も巨弾を細切れにして貫通しそのままカノンプテラの身体を切り刻んでいきました。
「無限の刃製ってとこですね。――――――――さてもう一匹は、どうしましょうか?」
そうやって哂うあの御方には超越者以外の何物でもない空気が纏わっています。
「あぁそうですね、やはりこの時代を作るものが決着をつけるのが一番いい。
スペルヴィア、貴女達が残りを片付けなさい。大丈夫です。
少しだけ弱らせておいてあげますから。」
そう言うや否や急に残った翼竜の身体に高速の雨が撃ちつけられ、
幾つも穴が空き血が噴き出しました。
意趣返し、ということなんでしょうか。
「貴き誇りに栄光あれ。では、さよならです。」
そういうと、先ほどまでの覇気が消え、翅も2対に戻り、『いつもの』シリスさんが帰ってきました。
「シリスさん大丈夫ですか、後一匹です。やっつけちゃいましょう。」
「えっ、カノンプテラは?」
「下で死んでます。」
「スペルヴィアちゃんがやったのですか?」
「何を言ってるんですか、私ではありません。とにかく後一匹です。」
「あー、はい。」
私が翻弄しますから、
後はシリスさんが私にやった技をお願いします。
「……解かりました。」
逃げようとする翼竜ですが、当然逃がすつもりはありません。
先回りして口の先に立たないようにしながらシリスさんに倣った射法で針を撃ち続けます。
私の針に動きを封じられて動けない翼竜。
ふと、シリスさんを見ると頷かれました。準備はできたようです。
「空の上で溺死しなさい。――――――――――水宮獄界。」
シリスさん…、ちょっとまだ先程の余韻が残ってないでしょうか?
なんとなく、そんな気がしました。
宙に浮かぶ水球の中で水棲昆虫の能力を最大限に生かし嬲り続けるその攻撃を、
客観的にみるととても恐ろしいものです。
あれを自分がされていたと思うとぞっとします。
――――かくして翼竜達は私達のエサになりました。
グラシリスとスペルヴィアはスキル『狙撃』『迫撃』を手に入れた。
「また、行きましょうね、シリスさん。」
「スペルヴィアちゃん、全然懲りてないですね、全くもう。」
中々やるじゃないですか。
あの技、処刑用BGMが流れそうな技ですね。なんとなく。




