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二十八話。手加減は侮辱とみなします。

私とシリスさんは巣の外に出ました。

巣の中で戦うのはあまりにも狭すぎて周りに被害が及ぶのは考えれば予想できることだからです。


「不肖、このグラシリスがお相手いたしますが、

うーんどうでしょう。私が勝ったら私がしばらく戦い方を教えるということで。」


そういうシリスさんは自分が負けることなんてほんの少しの可能性も考えてないのかもしれません。

それに修行を付けるなんて言い方は明らかに私が強さに飢えていることを見透かした言い方です。


「大丈夫です。負けませんから。」


羽化したばかりの間だ瑞々しさが残る翅を振って強引に乾かし、

世界に(スペルヴィア)がここにあるという羽音(しゅちょう)を響き渡らせます。

倒すべきは私の大切な、そして私自身の否定存在。





VS ウォーターワスプ王族種   RANK B+




シリスさんの攻撃パターンは判りませんが行動パターンならわかります。

『危ないことはしたくない。』

この一点に尽きる筈です。


つまり考えられるのは開幕直後の強襲か、または―――――――――――、

飛び道具。


シリスさんが4枚の翅を互いに交差するように振るうと、

×の形に水の塊が飛んできました。


飛び道具が来ることは予想していたので前進しながら回避することはできました。

相手の行動を読んで回避したとしても相手の行動の余韻が消えるまで待ってしまっては意味がないので一気に仕掛けます。

――――――――そう、思っていた時でした。


続けて幾つもの×型の水が飛んできました。

私はそれをも回避して近づこうとしましたが、失敗し少しだけ被弾してしまいました。

私の翅に当たった水はどうやってか吸着し、翅が少し重たく感じるようになりました。

そのせいで更に×型の水弾にも被弾してしまいました。

致命的な攻撃というには程遠いですが、吸着する水はだんだん大きく私の動きを制限してきます。

それに、速度があるためある程度の物理的衝撃が発生して内側に響いてきます。


しかし、そんな攻撃の中に一つも殺傷力のある効果は発揮されていません。

つまり私は――――――――――――手加減して勝てる相手と思われているということです。


「図に乗らないでくださいっ!!!」


翅の振動を最大にし吸着した水を弾き飛ばし、一気に今出せる最高速で特攻します。

速度に乗った私が尾針を向けるのはシリスさんの中心部。

私は本気でいきますよ。シリスさんと違って。


「手加減したのがあなたの敗因ですっ!!!」


そう言って特攻した私は突如シリスさんの周囲を覆うように発生した巨大な水球にそのまま激突してしまいました。

先程までのそれほど回避が難しくない水弾は呼び寄せるためのフェイクで時間稼ぎ。

あくまで殺傷力の無い攻撃は時間を稼ぎつつも、脅えさせたり注意させたりさせないこと。

その間に周囲に大量の水ができる準備をして――――――――――――――、

そう、気が付いたときにはもう遅かったのです。

先程の水弾同様吸着性が高く、重たく密度が高い水の宮に私は閉じ込められてしまいました。

ぶつかるときに咄嗟に瞑った眼を開けると目の前にシリスさんはいません。

まさかと思って後ろを振り向いてもいません。

そんな中、下から声が響いてきました。



「えぇ?誰が手加減してあげるなんて言いました?

私、そんな余裕ありませんから。決着、付けさせてもらいますね?」

そう言うとシリスさんはその長い翅で何度も斬る付けるように叩きつけてきます。


水の中で水生昆虫に勝てると、思わないでくださいね?


そんな声が聞こえてくる時には既に何度もその4枚の翅で叩き続けられ、

私の意識が飛びそうになっている時でした。



スペルヴィアちゃん。貴女の敗因はただ一つ。私に甘さを期待したことです。


そう言って最後の打撃を受け意識が消えていく中、私が思ったのは、

この虫には強い。

この虫こそ『伝説』に相応しい。

でもこの虫に勝ちたい。世界で一番強くなりたい。

そして、本気で戦ってくれてありがとうございます――――――――――――

という、ことでした。

手加減した方がよかったですか?

…その寝顔を見るに愚問だったようですね。

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