第14話 魚にそんな感情はない
「んーーっ…!あれぇ、おかしいなぁ。全然取れない」
イリビアは以前灰色の魚、通称ドブ魚を取りにきた池に、再び来ていた。
池の前に座り込むイリビアは、網を池の中に入れ、壁面にガリガリとこすりつけては網をすくい上げ、網の中をのぞいてみる。
網の中には泥だけがつまっているばかりだ。
「あー、またいない〜。もしかして、こっちの世界にはいないのかなぁ…」
イリビアは先ほどよりも更に前のめりになって水面を覗き込むと、もう一度水の中に網を入れ、壁面を削るようにこする。
そのとき、グイッと肩を掴まれ後ろに引き倒された。
「何してるんだ?!危ないだろ!?」
イリビアが驚いて振り返ると、目の前には息を切らしたアンドレがいた。
「池に落ちるところだったぞ?!ここで何してるんだ!?」
「…そういうアンドレさんこそ、今日はお店をお休みしてたんじゃないんですか?どうしてここにいるんですか?」
「あ…それは…あれだ、イリビアが買って行った植物とゴールドフィッシュの相性はどうか気になって見に行こうとしたところで…。それなのに、こんな所でまた不思議なことをしているから」
「そうなんです、実はここでシュリンプを取ろうかと思って」
「え、なんだって?しゅりんぷ?」
「そうなんです〜、小さいエビのような生き物で、それがビオトープで魚と混泳するのに適してるって本にあったので、つかまえたいなって。池とか沼地にいるらしいので、それならここにいるかなって」
「しゅりんぷなんだか、えびとかいうのか知らないが、ゴールドフィッシュは気が強い性格だ。他の魚との混泳は不向きだ。すすめない。それに、小さい生物だと餌として食べる可能性も大きい。それにしても、なんでまた他の生物を飼う気になったんだ?まだゴールドフィッシュを飼い始めたばかりだろ」
「それは…1匹だけじゃ寂しいかなって…思って…」
「はあ。魚には寂しいとかいう感情はない。そんな気遣いは不要だ」
「…そうですか」
イリビアは少しムッとして、アンドレから離れる。
「寂しい気持ちがないかどうかなんて、お魚さんになったことないんだし、分からないじゃない」
ぶつぶつと独り言を言うと、網とビニール袋を持ちアンドレに軽く頭を下げる。
「色々ありがとうございました。帰ります」
イリビアはアンドレの返答を待たずに、くるりと背中を向け歩き出した。




