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シン・科学少女プリティミュー!〜高額バイトから始まる、泥臭い科学ヒーロー生活〜  作者: 秋月キアラ
第13話 ― 正義の味方は、自分で選ぶ!【第1期 最終話】
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第7節 ― 正義の味方は、自分で選ぶ

 黒い観測フィールドが砕けたあと、ホウジュ区駅前広場には、夕方の光が戻っていた。


 ほんの数分前まで、空は黒い膜に覆われ、街のあちこちに過去の戦闘映像が浮かんでいた。蜘蛛男の糸。蝙蝠伯爵の舞台。レイディスコーピオンの毒。ミラクルハニーの蜜。ゲッコウリーパーの月光。復活怪人軍団の影。


 それらはすべて、駅前の空から消えていた。


 残っているのは、折れた街灯、吹き飛ばされた案内看板、ひしゃげたガードレール、避難誘導のテープ、そしてスマホを構えたまま立ち尽くす人々だった。


 誰も、すぐには声を出せなかった。


 あまりにも多くのことが、一度に起きすぎた。


 完成されたプリティミューと名乗る白黒の少女が現れたこと。

 本物のプリティミューが、黒いフィールドの中でそれと戦ったこと。

 街全体が、何者かの実験場にされたこと。

 そして最後に、白とピンクの光が、その黒を叩き割ったこと。


 遠くで救急車のサイレンが聞こえる。


 だが、広場に倒れている人は少なかった。逃げ遅れた子どもも、転倒した老人も、混乱の中で怪我をした会社員も、すでに安全な場所へ運ばれている。


 プリティミューが、最後まで踏みとどまったからだ。

 メグが、避難情報を流し続けたからだ。

 ワトソンが、観測干渉を遮断したからだ。

 アインが、μシステムを奪われないように繋ぎ直したからだ。


 そして、ミユがもう一度、自分で変身したからだ。


「……終わった、よね」


 プリティミューは、ミュー・ハンマーを地面についた。


 ハンマーの先端が、割れたアスファルトに軽く触れる。いつもならそれだけで「やった!」とか「勝った!」とか、なにか一言くらい出てきそうなものだった。


 けれど今は、言葉より先に膝が笑った。


「うわ」


 変身が解ける。


 白とピンクの装甲が淡い粒子になってほどけ、駅前広場の真ん中に、制服姿の朝倉ミユが立っていた。


 いや、立っているつもりだった。


 次の瞬間、膝から力が抜けた。


「……しんど」


 そのまま座り込みかけたミユの腕を、メグが横から支えた。


「先輩!」


「大丈夫。たぶん。いや、あんまり大丈夫じゃないけど、生きてる」


「それなら、記録できます」


「メグちゃん、基準が記録寄りすぎる」


「でも、先輩が生きていないと書けません」


「それは……そう」


 ミユは、そこで小さく息を吐いた。


 足が震えている。

 腕も重い。

 喉は痛いし、背中は汗で冷えている。

 たぶん、あとで全身筋肉痛になる。いや、たぶんではない。確実になる。


 それでも、心臓は動いていた。


 息ができる。

 声が出せる。

 メグの手が温かい。


 生きている。


 それだけで、さっきまで視界いっぱいに表示されていた観測データや適性値や同期率よりも、ずっと確かなことに思えた。


 耳元で、通信が入った。


《ミユ》


 その声に、ミユは目を瞬いた。


「また名前」


《今回くらいはね》


「毎回でよくない?」


《検討する》


「そこは即答してよ」


 いつもの軽口のはずなのに、アインの声は少しだけ硬かった。


 研究所の向こうで、彼がどんな顔をしているのか、ミユには見えない。けれど、さっきまでとは何かが違うのはわかった。


《契約は解除済みだ》


「うん」


《だから、今後はバイトではない》


「時給は?」


《危険手当は出す》


「そこは出るんだ」


《雇用契約ではなく、協力契約になる》


「急に社会人っぽい話!」


 メグが、隣で小さく笑った。


 その笑い声を聞いて、ミユも少しだけ肩の力が抜けた。


 アインは、しばらく黙っていた。


 通信越しの沈黙は、いつもより長く感じた。彼が端末を操作している音も、ワトソンの補助音声も、今は入ってこない。


 やがて、アインは言った。


《もう一度聞く》


「うん」


《続けるのか》


 ミユは、すぐには答えなかった。


 駅前広場の空を見る。


 観測フィールドが消えた空は、拍子抜けするほど普通だった。夕焼けがビルの窓に反射して、オレンジ色の帯を作っている。さっきまで空いっぱいに浮かんでいた過去の映像も、首領Xの影も、X-MUの白黒の装甲も、もう見えない。


 けれど、なくなったわけではない。


 怖かった記憶は、残っている。


 蜘蛛男に襲われた時の、足が動かなくなる感じ。

 蝙蝠伯爵の音で、メグが眠らされそうになった夜。

 レイディスコーピオンの言葉が、クラスの空気を刺していったこと。

 サラセニア・ルージュの甘い匂い。

 マンティスシザーに、言葉を切り取られた怒り。

 カメ・レオンに、誰が本物かわからなくなった不安。

 ミラクルハニーに、子どもに戻りたい気持ちを見せつけられたこと。

 グレイヴコンドルに、倒した怪人の残骸を使われた嫌悪感。

 ゲッコウリーパーに、死を数字にされた恐怖。

 リザードジェネラルに、数で押し潰されそうになった疲労。

 復活怪人軍団に、過去をもう一度突きつけられた痛み。

 そして、X-MUに「あなたは不要です」と言われた瞬間の、胸の奥が冷えるような感覚。


 続けたら、また怖いことがある。


 第1話の自分なら、きっと逃げていた。

 今だって逃げたい。

 逃げたくないわけじゃない。


 戦わなくていいと言われた時、ほっとしたのも本当だ。

 変身を解いた瞬間、もうこれで終われるのかもしれないと思ったのも本当だ。


 それでも。


 ミユは、μブレスレットを見た。


 ただのアクセサリーのように腕に残ったそれは、もう強制契約の証ではない。アインが言った通り、契約は解除された。ここから先は、誰かに押しつけられたバイトではない。


 なら、なおさら。


「続ける」


 メグが、息を呑んでミユを見た。


 アインも、通信の向こうで黙った。


 ミユは、少しだけ笑う。


「ただし、条件があります」


《何だい》


「無茶な実験禁止」


《努力する》


「努力じゃなくて禁止!」


《善処する》


「それ一番信用できないやつ!」


 今度は、メグがはっきり笑った。


「先輩、それは記録しておきます」


「して。赤字でして」


《不当な扱いだね》


「今までの積み重ねです」


 ミユは、もう一度ブレスレットに触れた。


「あと、私をデータ扱いしないこと」


 通信の向こうで、アインが息を止めたような間があった。


《……わかった》


「そこはちゃんと言うんだ」


《ミユは、データではない》


「よろしい」


 ミユは頷いた。


 その言葉を聞きたかったのだと、自分でもそこで気づいた。


 観測対象でも、被験体でも、成果物でもない。

 アインの実験協力者でも、ジョーカーの育成結果でも、X-MUの原型でもない。


 朝倉ミユ。


 怖がりで、文句が多くて、すぐ疲れて、よくお腹が空いて、でも、助けたいと思ったら動いてしまう高校生。


 それでいい。


「私は、作られたヒーローかもしれない」


 メグが、静かに聞いている。


「でも、続けるかどうかは私が決める」


 ミユは少し照れた。


 言葉にした途端、急に恥ずかしくなった。駅前広場で、瓦礫の真ん中で、メグと通信先のアインに向かって、何を宣言しているのだろうと思う。


 でも、ここで言わないといけない気がした。


 さっき、自分で選んだのだから。


「だから――」


 ミユは、少しだけ視線をそらしながら言った。


「科学少女プリティミューは、私がやる」


 メグは、端末を胸に抱えたまま、しばらく何も言わなかった。


 それから、ゆっくり頷いた。


「はい」


「メグちゃん、そういう時は茶化していいんだよ?」


「茶化す場面ではありません」


「真面目!」


「でも、あとでログには書きます」


「それはそれで恥ずかしい!」


 メグは端末を開いた。


 怪人事件ログの入力画面が表示される。これまで、何度も見てきた画面だった。怪人の出現場所。被害状況。能力。対処法。プリティミューの戦闘記録。


 けれど、今回メグが打ち込んだ文章は、いつもより少しだけ違っていた。


《第13話相当の事件において、プリティミュー適性臨界測定と呼ばれる最終観測実験が確認されました》


《ジョーカーは、プリティミューを自分たちの成果物として扱おうとしました》


《しかし、朝倉ミユ先輩は、それを否定するのではなく、選び直しました》


《正義の味方は、作られるものではありません》


《少なくとも、最後に立つ理由だけは、自分で選ぶものです》


 ミユは画面を覗き込んで、顔を赤くした。


「メグちゃん、今回かなり恥ずかしい」


「第1部完結なので」


「メタい!」


「でも、本当のことです」


「本当のことって、たまに一番攻撃力あるよね」


 ミユはそう言って、笑った。


 笑えた。


 そのことに、少しだけ安心した。


 その夜。


 朝倉家の玄関前で、ミユはしばらく立ち止まっていた。


 制服は汚れている。

 スカートの裾には砂埃がついている。

 髪も乱れている。

 膝には小さな擦り傷がある。


 どう見ても、普通に学校から帰ってきた高校生ではなかった。


「……どう説明しよう」


 ミユは小さく呟いた。


 怪人と戦ってました。

 ジョーカーに実験されました。

 白黒の私っぽいやつと殴り合いました。

 自分で正義の味方を続けることにしました。


 どれも、夕飯前の会話としては重すぎる。


 鍵を開けようとしたところで、玄関の扉が内側から開いた。


 かなえが立っていた。


「おかえり」


 その声を聞いた瞬間、ミユの喉の奥が詰まった。


「……ただいま」


 かなえは、ミユを見た。


 汚れた制服。

 乱れた髪。

 疲れ切った顔。

 けれど、帰ってきた娘。


 かなえは、何も聞かなかった。


 叱ることも、問い詰めることも、泣くこともしなかった。


 ただ、いつものように少し首を傾げて言う。


「ごはん、温める?」


 ミユは、一瞬泣きそうになった。


 戦闘中に届いた《帰ってきなさい》というメッセージが、胸の中でまた響いた。


 帰ってきた。

 ちゃんと帰ってきた。


「うん」


「大盛り?」


「普通で」


「本当に?」


「……大盛りで」


 かなえは笑った。


「はいはい」


 その、あまりにも普通の返事に、ミユの肩から力が抜けた。


 リビングへ向かう母の背中を見ながら、ミユは思う。


 帰る場所がある。


 だから、立てるのかもしれない。

 ヒーローだから帰るのではない。

 帰る場所があるから、また立てる。


 それは、X-MUにはなかったものだ。


 一方、ジョーカー帝都支部。


 巨大モニターには、ホウジュ区駅前広場の観測ログが映し出されていた。


 X-MUの活動停止。

 最終観測フィールドの消失。

 プリティミューの再変身。

 自己選択反応の発生。

 μシステム再適合。


 赤い文字で並ぶ報告項目を前に、ゲル大佐は深く、深く息を吐いた。


「X-MU、活動停止。最終観測フィールド消失」


 報告する戦闘員42号の声にも、どこか疲れがにじんでいた。


「またか……」


「ただし、最終観測データは回収されています」


「つまり、モルスは満足している」


「はい。ものすごく」


「最悪だ」


 ゲル大佐は、胃のあたりを押さえた。


 すでに胃薬は飲んだ。

 業務用の箱も開けた。

 それでも足りない気がする。


 そこへ、白いコートの裾を揺らして、ドクター・モルスが現れた。


「素晴らしい結果です」


「貴様の素晴らしいは聞き飽きた」


「プリティミューは、完成を拒みました」


「失敗ではないのか」


「いいえ」


 モルスは、薄く笑った。


「未完成を選んだ完成品です。研究対象として、これ以上ない」


 ゲル大佐の目つきが鋭くなる。


「モルス。貴様は、彼女を何にするつもりだ」


「私は観測するだけです」


「その言葉が一番信用できん」


 モルスは否定しなかった。


 ただ、モニターに映るプリティミューの映像を見つめていた。X-MUの前で変身を解き、そして自分の意思でもう一度変身した少女。


 その瞬間の波形が、モルスの眼鏡に赤く反射していた。


「自己選択反応。外部強制契約解除後の再適合。興味深い。実に興味深い」


「人間を珍しい標本みたいに言うな」


「標本ではありません。生きていますから」


「余計に悪いわ」


 その時、通信モニターが暗転した。


 黒い画面に、赤い仮面のアイコンが浮かび上がる。


 首領X。


 ゲル大佐は姿勢を正した。


「ゲル大佐」


「はっ」


「第1段階は終了した」


「第1段階……」


 その言葉に、ゲル大佐の眉がわずかに動いた。


 十三回もの怪人作戦。

 残骸回収。

 死相実験。

 量産怪人。

 復活怪人軍団。

 最終観測体X-MU。


 それらすべてが、第1段階。


「プリティミューは、自分の意思で立つことを選んだ」


「はい」


「ならば次は、その意思がどこまで保つかを見る」


 ゲル大佐は、表情を険しくした。


「まだ続けるおつもりですか」


「当然だ」


「彼女は、ジョーカーの成果物ではありませんでした」


「そうだ」


 首領Xは、静かに言った。


「だからこそ、欲しい」


 通信が切れた。


 しばらく、司令室には誰の声もなかった。


 ゲル大佐は拳を握っていた。


 それは怒りなのか、不快感なのか、自分でも判別できなかった。


 ジョーカーは敵を倒す組織だったはずだ。

 少なくとも、自分はそういう現場を指揮してきた。

 怪人を送り込み、作戦を実行し、失敗すれば次を考える。


 だが、首領Xは今、プリティミューを倒すと言わなかった。


 欲しい、と言った。


 その言葉が、ゲル大佐の胃よりも深い場所に重く落ちた。


 隣で、モルスは楽しげに笑っていた。


 暗い研究室。


 ドクター・モルスは、X-MUの観測コア破片を透明なケースに収めた。


 破片は、黒と白と赤の光をわずかに残している。すでに活動は停止しているはずなのに、角度を変えると、どこかでまだ観測を続けているようにも見えた。


 モルスは、ケースにラベルを貼る。


《J-13 最終観測実験/X-MU観測コア・プリティミュー自己選択反応データ回収済》


 その隣の巨大モニターに、赤い文字が浮かび上がった。


《第2段階準備中》


《外部接続先:NEUMANN INDUSTRIES》


《WATSON-07 応答確認待機》


《観測者一号 再接続候補》


 モルスは、その文字列を見て、満足げに目を細めた。


「さて」


 黒い手袋の指が、モニター上の《WATSON-07》という文字をなぞる。


「こちらも、そろそろ動きますか」


 同じ頃。


 アイン科学研究所では、非常灯の赤い光だけが、白い壁を淡く照らしていた。


 さっきまで鳴り続けていた警告音は、もう止まっている。


 ホウジュ区駅前の観測フィールドは消えた。

 X-MUの外部干渉も遮断した。

 μシステムも、ミユの意思で再適合した。


 戦闘は終わった。


 だが、アインはまだ端末の前に立っていた。


 画面には、ほんの数秒前まで表示されていた通信ログがある。


《NEUMANN INDUSTRIES》


 その文字列は、すでに消えていた。


 いや、消されていた。


 ワトソンが、アインに背を向けるようにして、研究所のサブ端末を操作している。猫型のボディではなく、今日は人間アバターの姿だった。少年の姿のまま、表情をほとんど動かさずに、通信ログを削除している。


 アインは、その背中を見た。


「ワトソン」


 指が止まった。


《はい、アイン様》


「さっきの企業ロゴ。見間違いじゃないね」


《……》


「ノイマン・インダストリーズ」


 ワトソンは答えなかった。


 沈黙。


 普段なら、何かしら理屈をつける。

 システム上の誤表示です。

 外部ノイズです。

 調査中です。

 今は優先順位が低いです。


 そういう言葉が、返ってくるはずだった。


 けれど、ワトソンは何も言わない。


 アインの顔から、いつもの余裕が消えた。


「どうして、今さら」


 その時だった。


 研究所のメインモニターが、勝手に起動した。


 電源を落としていたはずの画面に、黒が広がる。


 赤いジョーカーのマーク。


 そして、声。


《久しぶりだね》


 アインは動かなかった。


 ワトソンも動かなかった。


 声は、静かに続いた。


《観測者一号》


 アインの手が止まる。


 その呼び名に、彼の表情が一瞬だけ凍った。


 ミユはまだ、その通信を知らない。


 ホウジュ区の別の場所。


 コブラカレーは、すでに閉店していた。


 客席の椅子は机に上げられ、店内の照明は落とされている。厨房だけに、小さな灯りが残っていた。


 コブラは一人、鍋を洗っていた。


 いつもなら、乱暴に見えて手際のいい動きで片づけを終わらせる。だが今夜は、少しだけ手が遅かった。


 シンクの水音が、やけに大きく聞こえる。


 やがてコブラは水を止めた。


 店の奥へ行き、古い棚の前に立つ。


 その棚は、普段は使われていない。カレー粉のストックでも、皿でも、古い伝票でもない。長い間、誰にも開けられていなかったように見える扉だった。


 コブラは、しばらくそれを見つめた。


 それから、ゆっくり開ける。


 中には、黒と赤の蛇型装具が眠っていた。


 埃をかぶっている。

 だが、壊れてはいない。

 むしろ、長い眠りから目覚めるのを待っていたように、暗い光を残していた。


 ジョーカーの古い幹部装備。


 コブラは、それを見下ろした。


 その時、店の電話が鳴った。


 今どき、ほとんど鳴ることのない固定電話だった。


 ベルの音が、閉店後の店内に響く。


 一度。

 二度。

 三度。


 コブラは、受話器を取った。


 無機質な声が流れる。


《旧幹部コード確認》


《コブラ》


《復帰命令を通達する》


 コブラは黙っていた。


 声は構わず続ける。


《第2部隊、再編開始》


《プリティミュー対策班へ合流せよ》


 コブラは、低く笑った。


「……勝手に人の店へ注文入れてんじゃねえよ」


 受話器を置く。


 電話は沈黙した。


 だが、厨房の奥に置かれた蛇型装具は、まだそこにある。


 コブラは、しばらくそれから目を離さなかった。


 その目は、カレー屋のものではなかった。


 かつてジョーカーの中にいた男の目だった。


 夜は、更けていく。


 朝倉ミユは、まだ知らない。


 自分が選び直したプリティミューという名前の先に、さらに深い実験が待っていることを。


 アインが、首領Xに《観測者一号》と呼ばれたことを。


 ワトソンに、《WATSON-07》という名が隠されていたことを。


 コブラに、旧幹部としての復帰命令が届いたことを。


 それでも、今夜だけは。


 ミユは家に帰り、大盛りのごはんを食べる。


 怪人でも、観測でも、データでもない。


 朝倉ミユとして。


 第1部、完。

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