善意と悪意
結局何も食えなかった。
「腹が減った」
腹が減った。えっぐい腹が減った。腹が減った腹が減った腹が減った。お腹減ったぁ……。
洗脳なんて選択肢を取れるほど、自分はまだ落ちぶれてはいない。
人として越えてはならない一線なのだそれは。
たとえ限界であろうとも、守り抜かねばならぬのだ。
「洗脳すればよかったのに」
神様が悪魔の囁きをしてくる。
実は邪心だったりしないんですかねこの神様は。
「神様がそれでいいんですかそれで」
「世界を救うための必要経費と思えば問題ないでしょう」
「ないわけないでしょう。倫理ってやつを捨てちゃいかんのですよ」
「では野宿するんですか?」
「……なんでそうなるんですか」
「いえ、お金もないのにどこに止まるのかな……と」
……あ。
そうだったぁ~お金ないから宿にも泊まれないじゃん。
とりあえず今日は野宿……嫌すぎるんですけど地べたに寝転ぶとか。
というか、どうやってお金稼げばいいの?
「あの!お金ってどうやって稼げば……」
「作物を育てて売る……とか?」
「いえそういうんじゃなくて、日雇いというか即日入金的なのは?」
「……ああ、そういえばありましたっけそういうの。紹介所で受けた依頼をこなせば賃金が貰えますよ」
それだ!
「その紹介所ってどこに?」
「この村にはありません。ここから北に歩いたところにある国にならあります」
「北?」
村の入口を指差す神様。
反対側じゃねぇか……!
その場にバタンと倒れこむ俺。
終わった……俺、このまま飢え死にするんだ……野風に吹かれながら固い地面に寝転んで、たぶん風邪になって死ぬんだ……もうダメだよこんなのさぁ……やっぱ捨てるか倫理。
そうだよ、捨てなきゃ勇者なんてやってられんよ。そもそもなんの知識もない状態でこんな変な村につれてこられたってのに、なんのズルもしちゃいけませんなんて方がおかしな話なんだ。
それに、倫理だなんだって言うのを気にするんなら、後で払えばいいだけだし。
そう考えたらなんだか気が楽になってきた。
このままさっきのレストランに戻って、メニュー全制覇でもやってやろう。
そう思って起き上がろうとしたその時だった。
「あの……大丈夫ですか?」
声を……かけられた。
生娘のような可愛らしいその声に、固まってしまう俺。
人の道を外れようとした直後に突然ふりかかってきた善意に、顔を上げられない。
「あの……」
推定彼女の第二声。
この善意は……今の俺には甘すぎる!
顔を上げることもなく、その優しさに助けを乞うように、しかし葛藤しながらも、俺は懇願した。
「食べ物を……くださいっ……!」




