命がけの日々。マイナス一日目。
息が……荒い。呼吸しているのに、呼吸できていないような、そんな感じがする。
なんども吸ってなんども吐いて、必死で、必死で、生きるために呼吸をし続けた。
なんで、なんで、なんでなんだよクソ! ただ夜の学校に忘れ物取りに来ただけなのに、なんでこんな目にあわなくちゃいけないんだ!
考えるより先に走り出す足。止まりたくても止まれない。
この足は、とっくに恐怖に支配されてしまった。
少年は逃げていた。
教室であったあの化物から、命がけで逃げていた。
コツン……コツン……
前方から足音が聞こえた瞬間、足は方向を変え、来た道を戻るように走り出す。
なぜ自分がこんな目にあわなければならないのだろう。
ない心当たりを探っては、意味もなくそんなことを考える。
辛い苦しいと思う度、あの男の手元で月明かりが跳ね返ったのを思い出す。
「違う……違う違う違う!」
嫌な想像が頭に浮かんで、その度に否定を繰り返す。別にそうと決まったわけじゃないのに、それでも、そうなると思ってしまうばかりに、俺はそれを否定したくてしょうがなくなる。
だってそうしなきゃ、そうでもしなきゃ、俺は、俺はもう死ぬって、そう思ってるって、認めることになるじゃないか!
嫌だそんなの。俺は、俺はまだ死にたくない!俺はまだ17なのに……人生まだまだこれからなのに……なのにどうして、殺されなくちゃならないんだ!
目の前の教室の扉を開け、その中で息を潜めようと目論む。
が、しかし。
「な……なんだよこれ……なんで俺、屋上なんかに……?」
扉を開けた先に広がっていたのは、屋上。
逃げ道のない袋小路。
そんな場所に、まんまと来てしまった。
錯乱して、こんなところに来てしまったのか。
なんて、そんなことを考えている場合ではない。
はやく、はやく戻らねば。
そうしなければ、追い詰められてしまう。
そう思い、屋上から出ようとしたその瞬間、無慈悲にもあの音がなる。
コツン、コツン、コツン、コツン。
階段を上る音。
もう戻れない。
気がつけば、逃げ場のない背後へと後ずさっていた。
無意味だなんてわかっている。
だが、そうする以外にあるだろうか。
そうするしかなかったのだ。
どうしたって、どうにかなる手はないのだから。
ガチャリ。
扉が開き、中から黒ずくめの男が現れる。
右手には……刃物。
僕の目には、そればかりが目にはいっていて、襲いにくる男の顔なんて見ることせずに、後ろへ、後ろへ、手すりにぶつかって、後ろがなくなってもなお、後ろへ、後ろへと進みたがる体。
もう、いうことを聞かない。
振り上げられた刃物がキラリと光ったその拍子、ぐらり。
体が後ろへ倒れる。
もう、後ろなんてないはずなのに。
これ以上下がるはずがないのに。
世界が、逆さまになる。
あっ……
ひゅー ひゅー どん。
ようやく静かになった。




