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誤算に誤算を重ねて友達に至る誤算

ともだち

「——あら、こんなところで会うだなんて奇遇ですわね。わたくしのことを避けて無視してぞんざいに扱う不届き者の朝霧ハクさん」


「っ……」


 振り向くとそこには北条花蓮がいた。

 

 放課後までの辛抱だと思っていたのに、こんな場所に来るなんて……絶対何か裏があるだろ!


「どうしてここに……?」


「あら、本日は言葉を返してくれるのですね? 嬉しいですわ」


 真顔だから多分嬉しいって思ってないだろ。

 内心ブチギレ案件だろ。


「……あの、隣に座られても困るんですけど」


 なぜか花蓮は俺の隣に腰掛けた。


 やだもう、何この人……


「狭いですわね。もっとそっちに寄りなさいな」


「は、はい」


 俺は拳二つ分くらいの間を開けて花蓮と並んで座った。

 意味がわからない、この状況。なんだこれ?


「……あの、どうしてここに?」


 意を決して声をかけた。

 

 無視作戦は失敗した。

 1週間もかけて頑張ったのに、負けず嫌いの花蓮には逆効果だったみたいだ。


「どうしても何も、あなたがわたくしを無視するからですわ! あれほどぞんざいに扱われたのは初めてですのよ! あなたのために費やしたこの一週間の無駄な時間! どう責任を取ってくれるんですの!」


 顔も声も可愛いんだけど、ですわ/ですのよ/ですの/って、古典の三段活用か? 

 めちゃくちゃ怒ってる。


 よし、作戦変更だ。無視がダメなら、構う価値のない男を演じてみせる。


「すみません。この通りです。だから見逃してください」


「……あら、意外にもプライドがないのね、つまらない男」


 俺が深く頭を下げると、花蓮は溜め息を吐いて呆れ返った。


 先ほどのような感情を込めた言葉ではない。本当に俺に対して呆れているのがわかる。

 もしや自分と張り合えるかもしれない俺、朝霧ハクに期待していたのか? 


 だとしたら危ないところだった……

 無視を続けていたら、タフで強い男だと勘違いされて狙われるところだったぜ。


 (冷や冷やした……何はともあれ、ここはもうナヨナヨしたクソザコ男を演じれば乗り切れそうだな)


「朝霧ハクさん、あなたにはがっかりですわ」


「へ、へい、すんません。ほんとに、えへへへっ……」

 

 空返事と空笑いは花蓮のことを失望させることができる。

 いわゆる三下ムーブだ。


 俺ならこんなやつに構いたくない。


 さあ、どうする、北条花蓮!



「ほんとうに、ええ……ほんとうに、がっかりですわ……わたくし、わたくし……」


 ん? あれ? なんで泣いてるの? 花蓮さん?


「あ……」


 なぜか泣き出した花蓮を見ると、妙な罪悪感を覚えてしまった。


「……あなたはわたくしと学力で張り合えるお方だと思って、この一週間、あなたのことが気になっておりましたの。あの難易度のテストで70点を取った殿方のことを、知りたくて知りたくてたまりませんでしたわ。しかも、わたくしを無視するだなんて他の殿方ではあり得ませんから……」


 花蓮はしゅんとしてしまった。


 待て待て待て。俺はこんなしおらしい北条花蓮を知らないぞ?

 誰だこいつ、偽物か? 


 早く俺に罵詈雑言を浴びせてこいよ。


「あの、北条花蓮さん?」


「なんですの……」


「俺は君が思ってるほど大それた男じゃないよ? 見ての通りナヨナヨしてるし、細くて弱っちい体つきだし、顔も中性的で男らしくないし……」


 俺はネガティブを押し付けて乗り切ることにした。


 朝霧ハクは男の娘的な見た目だからあながち間違っていない。しかも、確か和樹とのBLエンドでは総受けだったはずだし。


「……見た目なんて関係ありませんわ。そんなこと言ったらわたくしはどうなりますの? 皆さまから慕われる立派な淑女を目指しているのに、蓋を開ければ冷たい目で見られることばかりですし、お友達なんて1人もできたことがありませんの。朝霧ハクさん、あなたはわたくしのことをどうお思いで?」


「あー、うん……えーっと、そうだなぁ……」


 普段は高飛車で傲慢な花蓮が落ち込む姿は、はっきり言ってクルものがある。

 なんかこう、庇護欲というか、守りたくなるんだよな。


 でも、それを伝えるわけにはいかない。


 だって、ラブファン!のチョロインにそんな言葉を吐いたらどうなるかはわかりきってるからな。

 恵梨香の件で俺は学習したんだ。


 心は痛むが優しくはできない。


「はぁぁ……やっぱりあなたも他の殿方と同様なのですね。わたくしの地位や権力、見目麗しいこの姿しか見ていないのですわ。せめて、お友達にでもなれたらそれでよかったのに……」


 なんか今にも死にそうな雰囲気になってんだけど。

 花蓮にはヤンデレ要素なんてないはずなのに……あー、でも言動でなんとなくわかった。


 ゲーム内では高飛車で傲慢なドMの変態としか認識されてなかったけど、このリアルな現実世界では人間的な部分も現れてくるのかな。


 つまり、今の北条花蓮は本当にブルーな気持ちになってるってことだ。

 心の底から友達が欲しいのだろう。

 だから俺に目をつけた。

 俺の学力だけではなく、その無視を決め込む大胆な態度を見て、俺となら対等な関係を築けそうだと思われたんだ。


 誤算だ。誤算すぎる。誰がこんなことを想像できる?


「……北条花蓮さん」


「はい……も、もしかして、お友達のお誘いですの?」


 名前を呼んでみたら、花蓮は金髪の縦ロールを指でクルクルしながら、もじもじとした態度で見つめてきた。


 やはり本気で俺と友達になろうとしているらしい。

 恋人やSMのパートナー探しじゃなくて?


 (極度のドM女と恋人になって腹上死するのはごめんだが、友達になるくらいならいいのでは……?)


 しかも、友達になれば利点もたくさんある。

 俺が和樹を誘って三人で遊ぶこともできるし、花蓮と和樹を近づけて意図的にイベントを誘発することもできる。


 自由自在じゃないか?


 よし、賭けに出よう。

 イベント以外の選択がどうなるか未知だが……


「北条花蓮さん」


「はい……」


「友達になろうよ」

 

「……よ、喜んで! 嬉しいですわぁ! お友達なんてできたことがなかったので、はぁぁ……こんな感覚なのですね。胸がポカポカして、ドキドキして、なんだか嬉しいですわ!」


 花蓮は俺の右手を自分の両手で包み込んできた。

 あったかいし、ぷにっとしてて気持ちいい。


「あははっ……そ、そりゃよかった」


 弾けるような笑顔の花蓮は初めて見た。


 俺の知る花蓮はギャグボールを口にはめて恍惚の表情を浮かべてるか、和樹に尻をしばかれて「あひゅんっ///♡」って気持ちよくなっているか。そのどっちかだ。


 (ゲームよりもずっと女の子らしくて可愛いな。友達として付き合うなら全然ありかもしれない。まあ、その先が怖いから和樹に押し付けた後はフェードアウトさせてもらうけど)


「じゃあ、もうチャイム鳴っちゃうし教室に戻ろうか」


「ええ!」


 こうして俺は北条花蓮と友達になったのだった。


 屋上から立ち去る時も体を寄せられていたのは少し気になるが……まあ、和樹に尻を叩かれたらすぐ忘れるだろ。



ハクくん、どうなっちゃうの…?

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