極度のドM性癖
「——愚か者ばかりで困りますわね。まさか合格者があなた一人だけとは思いませんでしたわ」
「あ、はい」
なんで? 俺以外の全員、多分50人くらいの奴らが一斉に落とされたんだけど……
広い教室に花蓮と二人きりって嫌な予感しかしないぞ。
空気がピリついてるし、何から話せばいいかわからん。
(いや待てよ……そもそもまともに会話する必要はないんじゃないか? これは作中には存在しないイベントだし、俺が何もせずとも花蓮は勝手に和樹の元に行くはずなんだよな)
心に決めた俺は、手始めに花蓮を無視してみることにした。
「……」
何も発さない。ただ、じっと窓の外を眺めて座り続ける。
少し離れた位置に座る花蓮もまた何も口にしない。
足を揺らし、腕を組み、頬を膨らませている姿が視界の隅に映る。
これでいい。いくらでも不機嫌になってくれ。そして俺のことを嫌いになってくれ。
たかがテスト如きで俺を選抜したことを後悔してほしい。
「ねぇ、あなた」
きた。痺れを切らして話しかけてきた。
「……」
俺は無視を決め込んだ。
北条花蓮と話してはいけないのだ。
理由は彼女の特性にある。
その特性とは——性癖だ。
そう、北条花蓮の性癖はグニャグニャにねじ曲がっている。
どうねじ曲がっているかというと、彼女はドMなのだ。
それも、極度のドMだ。
今はまだ高慢で高飛車なSっ気のあるお嬢様キャラだが、たった一つの些細なきっかけで変貌する。
(勇気が出ずにそのルートは見れなかったが、SMエンドってのがあるんだよな。確か、和樹がラッキースケベで花蓮の尻を教科書で引っ叩いちゃって、そのせいで花蓮がドMに目覚めてしまうんだ。それからすぐに花蓮は「いじめてほしい」と和樹に懇願する。和樹はSMプレイを手伝ううちにドSに目覚めてしまい、花蓮を完全な奴隷として扱うエンドだ。最後にエスカレートしたSMプレイのせいで、花蓮は恍惚の表情で命を落とすんだっけか)
なんちゅうエンドだよ。バカなのか作者は。
主人公は殺人犯に、メインヒロインは亡き者になるなんて、エロゲとは思えない壮絶なエンディングだ。
……とまあ、長々と考え込んでしまったが、とにかく花蓮に関わってはいけない。
変に距離を詰めてはいけない。
ラブファンのメインヒロインは全員チョロインだ。
何がトリガーになるかわからないんだよな。
恵梨香の時は失敗したが、今回こそは成功させてみせる。
「ニヤニヤとして不気味ですわよ」
(ふはははっ! ドMを開花させなければ俺の勝ちだ! 花蓮、君が何をしようとも俺は絶対に口を開かないからなっ!)
「あなた、お名前と学年、クラスは?」
「……」
「ずっと無視するだなんていい度胸だこと」
花蓮は不機嫌そうに目を細めた。圧がすごい。睨みつけられている。
普通に怖い。
でも、こうするしかない。
時よ、早く流れろ。無視を決め込むのは良い選択肢なんだけど、俺はこの気まずさには慣れないから……
結局、委員会が始まった夕方の四時から終了となる五時までの一時間の間で、俺と花蓮は一言も会話を交わすことはなかった。
すっげぇ機嫌が悪くなってたけど気にしないことにする。
来週の放課後には、和樹と花蓮が邂逅するイベントがあるし、それまでの辛抱だ。
実際、SMプレイで亡くなった人はいるのかな




