第8話 その滝は(とにあさんからいただいたお題「滝」)
その滝をあなたは知っているだろうか?
勇者が魔王と戦ったけっして癒えぬとされた傷を癒し、聖なる乙女が異世界から召喚されたとされるその滝を。
噂はそれだけではない。
木こりがうっかり斧を落とし困っていると「お前が落とした斧で怪我を負った」と滝つぼから血まみれの女神が現れたとか、水辺で遊んでいた美しい子どもを水妖が攫って水底へと連れ去ってしまった。
そんな恐ろしい話もある。
大人から子どもまで知らぬ者はいないその滝の在りかを知る者はいない。
意図的なのか。
はたまたそのような呪いでもかけられているのか。
ただ傷が癒えた勇者が国へ戻り一財産築いた後で、なにかに憑りつかれたかのように狂暴になりその国を滅ぼしてしまったこと。
召喚された聖なる乙女が元の世界恋しさに一つの時代を終わらせてしまったこと。
最後には必ず恐ろしい結末を迎えることを考えれば、その滝の所在を突き止め訪れたいと思う者は少ないだろう。
ただ木こりが責任を取って女神を嫁にもらい幸せに暮らしたことや、両親を失い親戚に虐げられていた美しい子どもが水妖によって救われたことは知られていない。
良いことも悪いことも表裏一体。
上から下へと流れ落ちる瀑布の向こうに秘められている真実を手にしたものに全てが与えられると知ったなら。
あなたは好奇心を抑えきれずその滝を探そうとするだろう。
いいや。
私は止めないよ。
純粋に興味がある。
あたながどちらへ転ぶのか。
幸運を手にするか。
滅びを得るか。
さあて。
楽しみだ。