はじまり
私が生きてきて、私なりに経験したり感じたりした”しあわせの法則”をひとつの小説にしてみました。少しでも、誰かのしあわせに繋がればいいなと思います。
「今日からお世話になります、雨宮なずなです。よろしくお願いします」
できるだけ元気の良い声で、私は挨拶をした。
3月に高校を卒業し、今日から社会人としてこの パティスリー フェリシラ の販売員として働くこととなった。
「じゃあ、雨宮さんは安野さんについて教えてもらってね。」
オーナーの長瀬さんにそう言われ、安野さんらしき人が、じゃあ行こっかと声をかけてくれた。
20代後半くらいに見えるとても笑顔の柔らかい女性だった。
「あ、それと…」
私たちは社長の声に呼び止められた。
「この店で何より大事なのは”気遣い”だから。…じゃ、頑張ってね」
あまりにも簡潔すぎて一瞬ポカンとしたが、販売員としては当たり前のことだと、私は生意気にもそう思った。
これから新しい毎日が始まる。
何かが変わるかもしれないなんて、心の奥底で…しぶとく、期待していた。
目に移るものすべてがフィルターにかかっているように見えるこの世界で。
…私は、心から笑いたかった。