美織、お母さん
10月半ば。美織も母親になった。
男の子だった。和嶺は大喜びで、すぐに陽織たちにも知らせてくれた。名前は和樹。
祈梨、絵梨花、そして美織。
姫花との同級生がまた一人増えた。
それは、陽織にとってすごく嬉しいことだ。
これから先、陽織や姫花に何かあった時、きっと支えになってくれる。
そういう人が1人でも多く欲しかった。
中間決算も終わり、少し落ち着いた黎人と陽織が、2人のお祝いに訪れた。
「美織ちゃん、美織ちゃん、ありがとう!」
陽織は美織に抱きついて喜んだ。
「なんで陽織がおめでとう、じゃなくてて、ありがとうなんだ?」
和嶺が、不思議そうな顔をする。しかし、そんな言葉を陽織は無視して
「美織ちゃん、困ったことがあったら、なんでも言ってね。無理しちゃダメだよ!わからないことは、いつでも聞いて!何かあったら、黎人さんが助けるからね!和兄様は新米だから、頼りにならないから、黎人さんを頼ってね!」
と言う。それを聞いた黎人は
「イヤイヤ、それは変だよ。僕は陽織のことしか助けないよ?美織さんを助けるのは、和嶺の役目だからね?」
と。
和嶺も
「陽織、なんか、この前からすごく失礼なこと言ってるけど、美織の子は僕の子なんだよ?」
と。
と2人に言われるが、陽織はどことなく、不安で不満な顔をする。
「和兄様、赤ちゃんを抱っこする、美織ちゃんを抱き上げられる?」
と、陽織が聞いてきた。
?
赤ちゃんを抱っこ、ではなく、赤ちゃんを抱っこする、美織をだっこ、する?
和嶺は疑問を顔に浮かべたが、黎人はすぐにわかり、笑い出した。
「陽織、それは無理かも。僕がいつもやってるからでしょ?」
そう言うと、黎人は姫花を抱いている陽織を抱き上げた。
コレのこと?と言うように。
それを見て、和嶺は咄嗟に頭の中で計算した。
陽織と姫花は2人合わせても、女性1人の体重よりも軽い。それはできるはずだ!
それに気づいた美織も
「陽織ちゃん、それは無理だよ。陽織ちゃんが細いからできるだけで、普通の女性なら、誰もできないから!」
と、言ってくれた。
陽織はむくれながら、黎人に引っ張られて、部屋を後にした。
「そういえば、黎人さん。美織ちゃんのお部屋、絵梨花さんと同じだったね。いつも陽織が使うお部屋と違うけど、空いてなかったのかな?」
その言葉を聞いて、黎人は陽織を外に連れ出して良かった、と心から思った。
陽織がいつも使う特別室は一日で20万円以上。確実に和嶺の給料が一日で飛ぶ。
悪阻で1ヶ月入院した時は、部屋代だけで600万を超えた。
一日2万円の個室を使っただけでも、研修医の和嶺は頑張ったと思う。
「そう?でも梓沙さんも確かあの部屋だよ?」
そう答えると
「そうなんだ、じゃあ高嶺兄様とお揃いにしたんだね。」
と、陽織は納得した。
それにしても、あの天神の孫なのに。あいつはそう言うところもケチったのか?ほんと、今考えても、クソだな。と、黎人は内心思った。
そのまま、3人が帰ろうとすると、ちょうどエレベーターで東山に会った。
「今日は、お兄さんのところの赤ちゃん見に来たの?」
と、東山にいわれ、
「違います。美織ちゃんの赤ちゃん、見に来ました。」
と、陽織が答えた。
?おなじことでは?
と、2人は思ったが、陽織的には違うらしい。
「美織ちゃんの赤ちゃん、可愛かった、です!美織ちゃん、約束守ってくれて、嬉しいです。」
と、半ば興奮気味に話す。
「約束?」
と東山が聞くと、
「高校生の時約束したんです。ママ友なろうね!って。」
それで、黎人は結婚式に言っていた、美織の約束と陽織の秘密の意味がやっとわかった。
「でも、和兄様、何もやらないのに、大丈夫なのかなー。」
と、相変わらず失礼な心配をしている。
だが、陽織の心配はあながち間違いではなく、和嶺は家事全般が苦手だった。




