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陽織、国家試験(就職編)

悠人たちが帰ると、下の電気を消して黎人が2階に上がった

(やっぱり!)

部屋の電気がついていて、陽織がベッドの上で問題集を開いている。

「休まなくちゃダメ、って言われたじゃない。」

「だって、わたし歯も磨いてないのに寝られないよ。髪も乾かしてなかったんだから!」

と逆に怒られた。

「それに、なんでみんなしてわたしの監視をしてるの?なんか悪いことしているみたいなんだけど!」

黎人はむっとした顔で

「監視しなきゃならないくらい、自分の体の管理ができてないからでしょう!僕だって東山先生に怒られたから、レイリーの年度末は神北の甥っ子のほうに、全振りしたんだから!」

と言い返す。

レイリーのことを聞かされた陽織は、目を丸くしたが、「あ、そうか」ともう一つ自分がやるべきことがあったことを思い出したようだった。

「レイリー・・・忘れてた。」

「それから、神薙先生からたぶんスマホに連絡が入っているはずだよ。卒論のほうは高樹さん、お義父さんが話していたから。」

「な、父様まで?」

陽織は頭を抱える。

「僕も東山先生から、最優先はなんだ、って怒られたんだからね!」

「うー、その、ごめんなさい。試験だけに全振りします。」

そう陽織が答えると、

「違う!だから怒られるんだよ!」

と黎人が声を荒げた。

陽織がおびえて涙目になるが、そこはちゃんとわからせなければ、と問題集を取り上げて

「陽織のお腹には何がいるの?」

「え、と赤ちゃん?」

だからなんで疑問形なんだ?

「試験は来年でも受けられるけど、赤ちゃんに何かあったら、ずっと後悔するのは陽織なんだよ。一度それを経験しているでしょう?」

「でも、来年受けるのは嫌です。ことし受かりたい。」

「それはみんなが協力する。だから、まずは自分の体と、試験と両方を大事にする!試験に全振りしない!」

陽織はわかったのか、コクコクとうなづいた。

   きっと明日には忘れるんだろうな。

   それに試験の前には悠人の結婚式もあるし。

なんで年度末の忙しい時期に悠人は結婚式をあげるんだ?

黎人は自分のことを棚上げにして、眉間に皺を寄せた。


月曜日、陽織は大学で神薙から、卒論についての顛末を聞いて、憮然とした顔をする。が、すでに提出されたことを知って、さらにガッカリした。

「ねえ、神代さん。もし落ち着いて、黎人さんが良いって言ったら、大学院に進まない?」

神薙が聞いて来た。

考えていなかった選択に、戸惑う。

6年間の医学部が嫌で進んだのに、なぜ大学院?

「研究するの、好きでしょう?」

確かに楽しかった。でも、お金にならないし。

と、迷う。

とにかく、陽織は早くお金を自分で稼ぎたい。

うーん、と考えて、考えていたら

「すぐじゃなくて良いのよ。また、勉強したくなったら、いらっしゃい。」

と言ってもらえたので、ハイと答えた。

   いつか大学院。

   そう言う選択もあるのかー。


3月5日、悠人と祈梨が結婚式を挙げた。

やっと、と言うくらい周りはヤキモキしていた。

出会って9年、今年10年になる。

特に祈梨の母は、美咲に相談したくらいに。

しかし、今日晴れて夫婦となり、夏には親にもなる。

祈梨の母は、ほっとしていた。

元々、分家の分家の、と九条ではすでに術を使える子もわずかな中、祈梨が生まれた。

しかも相手は十神家の中の最頂点にいる神代の次男。

これで長男だったら卒倒してた、と今でも祈梨の両親は思う。今だって、分不相応だと思っているくらいだ。

さらに、披露宴に呼ばれた祈梨の、元上司たちも小さくなっている。

まさか、お相手があの、神代グループ傘下、医療機器メーカーとしても有名なコシロの社長だなんて!

なんでそんな女性が、うちみたいな出版社なんかで、と、空いた口が塞がらなかった。


黎人と双子の悠人は二卵性とはいえ、やっぱり似ている。いわゆるイケメンだ。祈梨も美人。祈梨の友人たちは、美男美女カップルが登場するたびに歓声を上げている。

それでも、どこで見ているのか、陽織や黎人をチラチラ見る人がいて困る。

特に会社関係はどこで知ったのか、陽織が年度末の会議に出ないことを聞いて、やって来たり、その理由を知って声をかけてきたりと、はっきり言ってうざい。

ただでさえ、陽織は今日初めて、美咲に黒の留袖なるものを着せられて、機嫌が悪い!親族の女性、花婿の兄嫁、と散々言われて、嫌々嫌々着た。

「やだ!可愛くない!暑苦しい!お腹が苦しい!二度と着ない!」

と。

「何言ってんの、和嶺くんの式も着るにきまってるでしよ!」

と言われて、ショックを受けていた。


途中、花嫁への花束、と言うことで、鷹人が可愛い足取りで祈梨に花束を渡すと、若い女性から

「可愛いー!」

と言う歓声も上がっていた。


そんな楽しいお祝いの席で、1人大不機嫌な陽織は、ニコリとも笑わす、黎人は正直安心していた。

   来週試験、なのにー。

   変な男がやってこなくて良い!

逆に、会社関係者の社長連中がやたら来ては、陽織のご機嫌をとっている。

「そっかー、お腹大きいのに、着物は苦しいよねー。会長、奥さんに言ってやって下さいよー。」

とか

「え?来週国家試験なの?頑張ってね!」

とか

「会長、いくら親族だって、今どき黒留袖って古いですよー。陽織さんはドレスの方が似合うのにー。」

などと。

黎人は蓮也が彼らをまとめて、陽織のファンクラブを作っていることを知らなかった。


ご馳走の半分も食べられない陽織が、苦しくなって青くなる。

鷹人は湊人と一緒に、なぜか祈梨の友人たちに囲まれてる。

と、そんなこんなで、なんとか無事、披露宴が終わり、黎人と陽織、鷹人の3人は先に失礼した。


そして、その夜から、陽織の追い込みが始まった。

ご飯は食べる。

睡眠も、最低5時間はとる。

家からは出ない。

時々、羽織たちから安全確認が入るが、あちらもみんな勉強している。

そして1週間。

陽織が夢見ていた、管理栄養士の国家試験の日になった。


朝、黎人からお守りをもらった。

「あ、これ。あの時の。」

懐かしい、医学部を受けた時にももらったお守り。

4年と少し前の秋を思い出す。

湊人と一緒に並んで受けた、大学入試。

受験会場の大学の前で、黎人の車を降りた。

「陽織、大丈夫だよ。」

黎人と鷹人が手を振る。

「うん、頑張るね。」


みんなに余裕でしょ、と言われた。

でも、余裕なんて全然ない!

わたし、4年間がんばれた?


試験が始まると、他のことは頭から消えた。

お腹が大きいこと。

この一年、集中して勉強できなかったこと。

たくさん、嫌な思いをしたこと。

でも、嬉しいこともたくさんあったこと。


シャーペンの音と、ポケットに入れた黎人のお守りの温かさだけがわかる。


わたし、なりたい!

今すぐは無理でも、管理栄養士として、いろんな人の役に立ちたい。

節子おばあちゃん。夢子先生。市原さん。

いっぱいいっぱい、陽織に教えてくれた人みたいになりたい!


陽織はただそれだけで、一生懸命答案に向かった。


夕方、黎人の車で家に戻った時は、本当にぐったりして、立ち上がるのも億劫だった。


帰りの車で黎人と鷹人が

「お疲れ様。」

「おちゅかれさま?」

と迎えてくれた。

「今日はパパが夕飯を作ろう!」

と黎人が言う。

黎人が作れるのはパスタだけ。

でも、陽織も鷹人もそれが好きだった。


「もし合格できたら、節子おばあちゃんのお墓行きたい。」

陽織がポツンといった。
















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