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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
仕組まれた偶然と誰も知らない必然
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No.17 歪んだ塔と蒼い剣 - 14

 


「う、うわぁぁぁぁぁぁ、っ!!!」


 何か問題が起きたとしか考えられないような、2人の低く大きな叫び声をソーマ達が聞いたのは、彼らが休息を取っている空間の中央部分でポーションの確認等をしながら、これからについて話し合っていた頃であった。


 一目散にみんなの元へと走ってくる男性。彼は、過呼吸であると言えるほどに乱れた呼吸をしながら、2人が見張っていた道の近くで作戦会議をしていたリーダー達の元に辿り着くとふっ、と気が抜けたかのように地面に膝を落とした。


 ──ゼェ、ゼェッ、 と凄い量の冷や汗を身体中に纏いながら何とか顔を上げる男性。それを見たスウェントルは、一体何があったのかと心底驚いたような顔をしながら彼に状況の説明を求めた。


「どうした...! 一体何がっ!?」


 必死で少年に問いをぶつけるスウェントル。彼のその焦る様子を見てしまっては、優しく宥めるように声をかけることなどよもや不可能に近かった。


「た、助けてくれ... トモヤが、トモヤがデケェ蛇にっ......!!」


 そんなスウェントルの怒鳴りつけるような焦り声に劣らないほどの声で彼に顔を近づけそう訴える少年。

 そんな状況を目にしていたのは決してリーダーだけではなく、辺りで休息を取っていたプレイヤー達も何があったのかと気にかけて来ていた。


 それに伴い、段々とリーダー達に近づいてくる一同。

「何があったんだ?」「どうしたの?」

 そんな声が聞こえ、いつの間にかソーマを含め全プレイヤー達が集合していた中でスウェントルは自身も状況が把握しきれていない状態でも、皆に指示を出そうと少年の目線に合わせる為に下げていた腰をスッ、と上げた。


 左腰に携えていた剣を抜き、いつでも戦闘を開始できる状態にしながらこれからすべきことを詳しく話そうとして、頭を回転させる。

 その時だった。


「シィァァァァァアッ...!!」


 暗闇の中で姿を捉えることの出来なかったその大蛇が、素早く体を動かしながらエルドの光を存分に浴びれるこの空間に訪れたのは。

 それの姿形は、見張りの2人が目を凝らして見た通りであった。

 しかし、異なる点が幾つか存在した。そしてそれらは彼らの衝撃を倍増させるものばかりであった。


 まず、目に入ったのはその蛇の口元であった。

 掠れていながらも人々の耳元にしっかりと恐怖を植え付ける声を発しているために開いていたその口元には、何やら光るものがキラキラと存在感を放っていた。

 そして、その近くには布の様な黒いものが靡いていた。


 これ聞くだけではそれが一体何を意味するのかは分からないかもしれない。

 しかしそれを視覚を利用して確認したプレイヤー達、特に見張りをしていた1人のリョウと言う少年はそれを見た瞬間に涙が溢れ出ていた。

 それほどに衝撃を受けるものが目の前に広がっていたのだ。


「あ、あぁぁ...トモヤ......トモヤぁぁぁぁあぁ!!」


 文字通り、頭が真っ白になる。何も考えられないのに何かが自らを染め上げていく。段々と目の前を黒いモヤが覆い始め、最終的にはアイマスクをした時に起きるような視界の遮断と貧血にでも陥ったような奇妙な感覚に彼は襲われていた。


 そんな彼を見た、人々は大蛇の口元だけに注目を集める。


 大蛇の口元に存在していた光を放つ黒い布は、トモヤが身につけていた服の一部であった。


 その紺色寄りの黒い布で出来た服を身にまとっていた姿が、今にも目に浮かんでくる。

 そしてその光は、共に最後の時間を過ごしていたリョウの空しい声が散るとともに静かに消えていってしまった。


「ごめん、ゴメンゴメンゴメン......」


 取り返しのつかないことをしたと後悔しているのだろうか。

 そうしてそれを見ていたリョウはいつの間にかそのような事しか呟かないようになった。

 もう彼は武器を握る勇気と力すらも持ち合わせていなかった。


 ※


 現在大広場の左側、未開拓の道のすぐ側に集まっている挑戦者達。

 万が一のために逃げ足の早い見張りを付けていたにも関わらず、その片方があっという間に捕食され、もう1人は美しく形を保っていた筈の心を粉々にすり潰したかのように、踏みにじったかのように精神が崩壊しているこの状況。

 明らかに規格外の化物に襲われ、動揺を隠しきれなく身体を震わせるも彼らは逃げる為に走り出すことは出来なかった。


 正確には走り出せなかった、と表現する事が正しいのだろう。

 まさしく「蛇に睨まれた蛙」状態であったのだ。


 そうして半ば放心状態に陥っている一同。それはソーマやアリス、スウェントル達も例外ではなくただただ立ち尽くすことしか出来ないでいた。

 これからどうすべきかを試行錯誤する。偽りの頭を使って脳をフル回転させる。しかし何か思いついてもそれを行動に移せない。


 そんな歯がゆい感情を抱き始めた頃であった。


 蛇が、目の前から姿を消したのだ。


 詳しく言えば、存在自体が消えた訳ではないだろう。

 なぜなら、彼らプレイヤー達の足元から数十メートル離れている場所で浮き彫りにされている太く薄暗い影は、まるで雪の中や砂漠の中で歩いたかのように、足跡のように深く残っていたからだ。


 しかし本体の姿は見当たらない。前も、後ろも、横も、縦も、薄茶色のザラザラとした壁にすらも逃げた形跡は見つからない。

 ならばどこへ行ったのか。奴には瞬間移動と言うような超能力でもあるのだろうか。


 そう思った矢先であった。またもや彼らが衝撃と恐怖を抱いたのは。


「おい、おいおいおいおい...! 嘘だろぉ......?」


 集団の中央の部分。ソーマ達の遠く、スウェントル達の近くで立ちすくんでいた1人の斧を持った男性が、そんな落胆したかのような声をポツリと上げた。


「どうした!? 奴がいたか!!?」


 その声に過剰反応を示して何があったのか確認しようとする別の男性。同じパーティーであろうか。着ている服の肩の部分には似たような紋章が貼り付けられていた。

 そうして彼に激しく唾を飛ばす男。

 しかし、それは愚問であった。

 今何が起きているのかなどと言うことは、肩を落とす例の男の視線の先を見れば分かることだったからである。


「う、わ...」


 唾を飛ばしていた男も生気を失ったかのように、同じ様に肩を落とす。

 何故そこまで皆が虚ろになっているのかは、地面の影を見ているだけでも段々と理解できるようになってきた。

 それでも実際にこの目で確認してみようと皆が上を見上げる。

 信じられない、意味がわからないと言う否定を肯定に変えたくは無いのか、頑なに上を見ない者もいた。



 太く長い1本線に、所々同じ形をしていてパタパタと動いているナニカが確認できる。


 ソーマもとうとう皆に釣られて上を見上げる。


 上空にいたのは、この展開からすれば誰もが予想するかのようにあの大蛇であった。

 しかし何故だろうか。

 ただでさえ強敵であるに違いない、勝てるかもわからない相手の体に、ヒラヒラと自身の体重をも浮かすことが出来るほどの「翼」が付いていたのは。


「シャララララァ......」


 また、怪物が掠れた声を上げる。


 こうして、彼ら初級~中級プレイヤー達は、EXステージ専用上級モンスター ナーガリウス と剣を交えることとなった。

 エルドに照らされながら空を舞う姿はもはや蛇などではない。

 まさしく、龍と呼べるほどの気迫と恐ろしさと美しさであった。



やっと40話になりました!次回から戦闘です!

よろしくお願いしますっ!


それと一つ報告で、アリスのランク設定を4から3に下げさせていただきますごめんなさいm(_ _)m

少しこれからのストーリーに関わってくるので気にかけてみて下さい!w

ではでは。

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