喫茶店、蟹、書く
蟹がマスターをしている喫茶店があるらしい。全く意味がわからない。
だが、私は試しにその店を訪れてみた。もしかしたら何かしらの記事のネタになるかもしれない。そう思って。
ガチャンと喫茶店の扉を開ければ、そこにはエプロンをつけた蟹のマスターがそこにいた。
「いらっしゃい」
マスターは案外渋い声で私に話しかけてきた。
「あ、あの、コーヒーを一杯」
「あいよ。イカスミ一杯ね」
「いえ、違います。コーヒーです」
ボケなのかどうかわからないまま、私はすぐさま訂正した。
マスターは少し困惑したように目をぐるりと回転させ、パチンとハサミを鳴らした。
「何言ってんだい? イカは一杯だろう?」
それは数え方の問題じゃないのか?
疑問に思いながらも、私は彼? に気圧されて、じゃあ、それで、とイカスミを頼んだ。
器用にハサミに挟まれてマスターに持ってこられたのは、コーヒーカップに入った黒いイカスミ。
匂いを嗅いでみると、何やら磯の香りがする。
覚悟を決めて、私はイカスミを口に一口含んだ。
「う、うまい……!」
「だろう?」
ドヤ顔をする蟹に、私は深く頭を下げた。きっとこれならたくさんの読者がついてくれる。
「このことを記事に書いてもいいですか?」
マスターは少し不思議そうな顔をしながらこう言った。
「書いてもいいけど、どうやるんだい? ここは水の中だぞ? ノートパソコンも紙も使えないだろう?」




