侍女の格好もできます
(昨日はロゼート様からお茶会の参加をもらえたのは良かったわ。考えてみたら、今までロゼート様のお茶会でわたくし全然喋っていないのに、どうして親しい者の集まりだったお茶会に呼ばれたのかしら。戦争の話もしていたし一応伯爵家なので情報共有を内々に済ませたかった……というところ?)
サウティナはふと思った。
(そもそもどのお茶会や夜会でも、自分から話しかけることがなかったような。主催としては少々不味いかしら?)
サウティナは、ユタリナがよく利用するサロンへと足を延ばした。
「来ると思っていたわ、サティナ。しばらくは誰も来ないと思うわよ」
前回痛い目にあったからね、とユタリナは呟き座るように促す。
「そうなの? なら手早く話すわ」
サウティナは席に座り、ユタリナが頷くみて口を開く。
「ロゼート様の参加は貰えたわ。それでよく考えたらわたくしお茶会も夜会も、食べたりとかであまり自分から話をすることがなかったのだけど、主催ってどうすればいいと思う?」
ユタリナは額に手を当てて呻くように話す。
「……そうね、そうだったわ。そういう意味では最初のお茶会としては最善の人選かしら」
首を傾げるサウティナを見つつ、続ける。
「貴方がそういう人だって知っていて、なおかつこれ以上ないくらい場数を踏んでいる者たちばかりよ。最悪お菓子出して食べてても場は回ると思うわ」
経験を作るという意味ではどうかと思うけど、と小さく付け加え呟く。
「そういうものかしら?」
「そうね。ただ、その回った場があの4人ではね……」
遠い目をするユタリナ。
「そうそう。ロゼート様、リテラ様のことは驚かれはしたけどわたくしがいいならと仰ってくださったわ。それどころか、侯爵家の方にも伝えておいてくださるそうなので安心して」
(無礼に取られるかと思っていたのに、まさか笑って許してもらい、便宜まで図ってもらえるなんて思っていなかったわ)
「今の話のどこに安心するところがあったのよ? 地獄よ、止まらない地獄」
ユタリナは大きく息を吐く。
「まぁいいわ。それよりお菓子はどうするの? 貴方の家のは食べたことないけど公爵家に出せるものなの?」
「そう言われると難しいわ。昨日も凄いの出されていたし」
(ムースプリン、あれは本当に美味しかったわ。そして後に出てきた抹茶のムースプリンは、わたくしの心を離してくれないし離れる気もないわ)
いきなり恍惚とした表情をし始めたサウティナに、ユタリナは怪訝な顔して首を傾げ、それをいつもの事だと無視して話す。
「なら発注は? 貴方のことだから商人のコネクションたくさんあるでしょう、そちらに手配してもらう方法もあるわ」
(発注、そういうものもあるのね)
「それなら何とかなるかも。ありがとう助かるわ」
「ならひとまずこの辺りで切り上げましょうか、誰か来るかもしれないからね」
あの顔は絶対に脱線するし、と小さく溢す。
ユタリナと別れを告げて、レベナと連絡を取りに馬車に乗った。
フェアリア学園は、社交の経験の場としての意味合いと、経済的に家庭教師を雇う余裕のない子爵家や男爵家の
学びの場としての意味合いが強く、それぞれのシーズン毎の頭にあるテストに合格している場合は授業の参加を免除される仕組みとなっている。
また、専門性が強く教える人材の足りない分野のものを必要とする、学生達が自主的に参加することも出来る。
サウティナの場合はテストには合格しており、王宮使え授業や、兄の勧めでわからなければ情報を拾えもないということで、戦術論や諜報術の授業を習っている。
そのため必ず行く必要もないため、昼からでも帰ることができる。
「レベナ、わたくしこれから喫茶コナマデリンに行くわ。侍女服借りるわね」
「え? あのお嬢様どうしてまた平民の装いではなく侍女服を?」
「今度のお茶会のお菓子の提供してもらおうと思ってね。わたくしがそのまま急に行っても迷惑かかるし、使いを出しても取引は結局わたくし。ならわたくしが侍女として行けば早いでしょう?」
(今後もお忍びとして行きたいからね。サウティナ・ロベルテ伯爵令嬢として行くことは出来る限り避けたいわ)
「おっしゃる通りでしょうけど、わたしとしても急なのでもう少し配慮いただければと思います」
「だからじゃない。あくまで第一候補であって、必ず提供してもらえるとは限らないのだから。うちが準備をするにしても早い方がレベナもいいでしょう?」
自信満々の顔のサウティナにレベナはため息をこぼす。
「ええ、はい。そうなのですが、何一つ間違ってないのですが……他の方にもそのような振る舞いをしてないかと困まってしまいます」
サウティナはきょとんとしてから笑った。
「何言ってるの。レベナなだからこそよ」
レベナはわずかに目を開いた後、細め笑みを浮かべた。
「それは、困まってしまいますね」