第26話 目を覚ます
カルロは目を覚ました。焦点が合わずぼやけて見える。
「カルロさん! ああ、よかった」ヴァネッサの顔が見えてくる。
俺は、死んだんじゃなかったのか。両手を上げると、元通りになっていた。脚の痛みがない。
それに、ここはどこだ?
ダンジョン内なのは確かだが階段ではない。誰かが魔法であたりを照らしていて、周囲の状況がわかる。壁面が鉱石でおおわれている。ずいぶんと開けた場所だった。
何度か咳き込んでからカルロは尋ねた。
「ここはどこですか? それに、どうしてヴァネッサさんが?」
「私たちのギルドがこのダンジョンを攻略しに来たんです。この場所にダンジョンマスターがいて、先ほど倒したので、このダンジョンは攻略されました。ここに来る途中でカルロさんをみつけて、ここまで運んできたんですよ」
ヴァネッサはルベルを指さした。
「あの方が回復魔法でカルロさんを治してくれたギルド長です。いまは他の団員と話していますが」
「そうでしたか」カルロは両手をじっくりと眺めた。
◇
ルベルはあれから、毎日四人ずつ回復魔法をかけていたが、いつまでたっても終わらないことに気づいて絶望した。広場にいた全員を治さなければならないし、毎日治してほしいと訪ねてくる人は増える一方だった。
効率が悪い。非常に。
しかしある日転機が訪れる。
ルベルは台の上にのぼって、冒険者たちを見下ろしていた。地面には四角い線が引かれている。
「はいはい、今日の回復を行いますよー。そこのガキ、線からはみ出すな。おいシャノン何とかしろ。こいつら俺の話聞いてんのか」
やんややんや。しばらくして、全員が線のなかに入った。
「行くぞー」
領域回復。
ルベルは新たに回復魔法を覚えていた。ある日、目を治した男が提案した方法でルベルはその日に教会に行き、無駄にお布施を払って領域回復を教えてもらった。まあ、それは別の話。
線のなかにいた全員の腕や足が治る。上から見ているとうじゃうじゃ生えてくるもんだから気持ち悪い。そのあとは恒例の感謝の嵐だがルベルはうるせぇうるせぇ言って部屋を出ていく。
ギルド長の部屋に入るとため息をついて席に着いた。大きな机の上には地図が乗っている。カインのギルド時代にあったもので唯一利用価値のあるものがこれだった。
ダンジョンの地図だ。
作らせたのはカインではなく先代だ。正確で、鉱石の産出場所まで記載されている。部屋にシャノンやダラスなど、ランクの高い冒険者が入ってくる。ダラスは広場で腕を治した後、ルベルのギルドに入り働き始めていた。
「ようやくダンジョン攻略ができる」ルベルは言って、地図を指さした。
「このダンジョンは攻略難度が高く、まだほかのギルドに奪われていないものだ。第4層までは難度が低く、鉱石もあらかた持っていかれたが、最下層になると段違いに魔物が強くなる」
「最下層に何かあるんですか?」シャノンが尋ねた。
「いや、たぶん構造的な問題だろ。最下層から上層に魔物が上がって来れる場所がこことここしかない」
ルベルは地図を指さした。
「しかも、両方とも通路が狭い。最下層で巨大になった魔物は通れないんだ。結果的に強力な魔物が最下層に集中して、ダンジョンの成長度が大きくなっている」
「俺たちでも攻略できるのか。以前攻略した時よりこのギルドは人数がずっと少ないぞ」
ダラスは顎をさすって尋ねた。
「できますよ。最下層でも狭い道があって、そこを通れば無駄な戦いをせずダンジョンマスターのところへ行くことができます。狭い道にいるのは顔が鱗でおおわれたオオカミモドキとゴブリンが主です。オオカミモドキは基本突進しかしてこないので俺が盾を作っておけば勝手に死んでくれます。なのでゴブリンだけ対処すれば問題なく進めるでしょう」
「ダンジョンマスターはどうするんですか?」とシャノン。
「……まあ、何人かは死ぬかもな」全員が白い目でルベルを見た。
「ダンジョンの中なら死んでも俺が治すって。今までは新しくギルドに来る人間に4回全部使ってたからできなかったけど、今ならダンジョン攻略ができる」
「それに死ぬのは大抵ランクの低いやつだろう。まあ通過儀礼的なもんだな」
ダラスがそう言って笑った。
この会話の後やってきたのがカルロが潜ったダンジョンだった。
◇
「カルロさん」ヴァネッサはカルロの手を取った。
「私たちのギルドに入りませんか? 今のギルドにいてはだめです。そして、私とパーティを組んでくれませんか?」
カルロは目をそらした。
――しかしこの顔が……。
カルロは顔に手を触れた。
そこに布はなく、なめらかな素肌があった。カルロは両手で顔を覆った。
「なんだこれは!!」
傷がない! ひきつりも、てらてらとした感覚の鈍い皮膚もない! 髪が額まで生えそろっている。
鼻はつぶれておらず、両方の穴が健全に開いている。呼吸が楽だった。
叫び声を聞いたのかルベルが近づいてきた。
「なんだうるせぇぞ。入れ墨でも消えたのか。その手の文句は受けつけねぇからな」
「いえ、文句だなんて、違いますよ。感謝してもしきれません」
「ああ、ああ、いい、いい」とめんどくさそうに手を振ってルベルは戻っていった。
カルロはヴァネッサから小刀を受け取り自分の顔を映した。
「俺はこんな顔をしていたのか」
そこには見たことのない一人の男が映っていた。力強い目はたれ目で、澄んだ青い色をしている。ヴァネッサがカルロの頬をなでる。
「もとの顔でも問題ありませんでしたよ。私は、カルロさんのことを信頼していましたから。パーティに加わってほしいと思っていました」
ヴァネッサは顔を近づけ、口づけをした。
顔を離すと彼女は顔を赤らめて言った。
「私とパーティを組んでくれませんか?」
ヴァネッサは微笑んだ。カルロは身を硬くしていたが、最後には微笑んで肯いた。




