第21話 オークと呼ばれた男
新たな登場人物 カルロ
とあるパーティがダンジョンに入っていた。
すでにカインのギルドが攻略したダンジョンではあったが、ギルドの崩壊後、権利が失効し解放されたものの一つだった。解放されたダンジョンの中にはカインの父がギルド長であったときに手に入れたダンジョンもあり、質の高い鉱石が取れると評判だった。
「俺らレベルだったら攻略も余裕だろ」パーティのリーダーことジェドが言った。
彼は両脇に魔法使いと弓使いの女を侍らせていた。
先頭を行くのは重装備兵――いわゆるタンクと呼ばれる職のカルロ。しかし、彼の装備はその職の名に似合わない。鎧は革でできた簡易的なもので、兜もつけず、代わりに布を巻いて顔を隠していた。巨大な体だけが、タンクとして職にありつける唯一の理由だった。
「おら、鉱石があるぞ。ちゃんと掘り起こせよ」ジェドは剣の先でカルロの鎧をつっついた。
「はい」
鉱石の場所などすでに知っていた。カルロは返事をすると、ジェドから離れて、つるはしを振り下ろした。これではまるで炭鉱夫だ。掘り起こした鉱石を運ぶのも彼の仕事だった。
そのうえ、魔物が現れれば対処するのもカルロだ。要するに、すべての仕事をカルロが行っており、ジェドたちは後ろをただついてくるだけの使い物にならないパーティメンバーである。
そのくせ、パーティメンバーであるジェドと女たちは、クエスト報酬や鉱石の売買で得た収入を自らの懐に入れ、僅かな分け前しかカルロに与えない。それ故に、カルロはタンクであるにもかかわらず重厚な鎧を買うことができないでいる。
なぜこのような仕打ちを受けなければならないのか。まるで奴隷のように働かされ、どうしてカルロはパーティから抜けないのか。
それには理由があった。
「おいオーク、ちゃんと俺たちを先導しろよ」ジェドはそう言ってケタケタと笑った。
「……はい」カルロは鉱石の入った重い袋を担ぎなおして、低い声で答える。
彼がオークと言われる由縁はその顔にある。彼は幼少期、父親からの虐待によって顔面を焼かれ、ケロイド化した皮膚がひきつってしまっていた。眉はなく、鼻の穴が片方ふさがり、口は奇妙に曲がっている。
この顔のせいでまともな職の見習いになることもできなかったために、カルロは冒険者として生きていくことを決めた。布で顔を隠していれば問題ないだろう。そう思い、冒険者登録をして何とか金を稼いで生活を安定させようとしていた。
あるとき、ギルドのなかで布が外れてしまった。ジェドが面白半分で布を取り払ったのだ。
そのひきつった顔が露呈し、女性たちは悲鳴を上げた。剣を抜く者もいた。
「魔物ではないか」
「きっとオークと人間のハーフに違いない」
そんなうわさが流れたために、一度はギルドを追放されるのではないかとまでささやかれた。しかし、ジェドが待ったをかけた。
ジェドはギルド長の息子である。その権力をもって、カルロを自らのパーティにいれると宣言した。自分が布を取り払ってしまったために起きたことだ。彼はギルドのメンバーである。ただ顔が醜いというだけで追放するわけにはいかない。
ギルド長である父並びにギルドのメンバーに演説した。
ギルドの皆はジェドを尊敬視した。女どもはうっとりとした。あの顔で心まできれいだなんて、うっとり。
ジェドはそんなことをつゆほども思ってはいなかった。彼はただ、奴隷のように扱えるペットが欲しかったのだ。
まんまとカルロを自らの支配下に入れたジェドは、その後、荷物持ち兼自分の盾としてカルロをクエストに連れて行った。ろくに分け前も与えず、疲弊させ、罵倒して暴力を振るった。
うっとりと恋の花を頭に咲かせ脳の養分をがっぽり持っていかれた女どもは、ジェドがカルロに行っている仕打ちに何の関心も覚えず、ジェド様ー好き好きとか言っていた。
「よし、今日もよく働いたぜ」ジェドはギルドに戻ると受付嬢にそう言って鉱石の換金を頼んだ。
働いたのはカルロである。それにもかかわらず、ジェドに渡されたのは今日稼いだ金の一割に満たない大銅貨50枚。
それでもカルロは「ありがとうございます」と感謝して受け取り、ギルドを後にした。ジェドにはクエスト後はすぐに帰るように言われている。
「仕事の後までその顔を見たくないんだよ、反吐が出る」
それが主な理由。
ジェドは不労所得を懐に入れ、女たちと楽しく過ごしているのだろう。
憤りがないと言えばうそになる。しかし、この顔ではほかに仕事もない。顔を隠せば冒険者として生きていける。もちろんジェドのパーティでだけだが。
収入はわずかだがこれでいいんだ、もらえるだけ幸せなんだ。
すでにカルロはあきらめ、毎日を過ごしていた。




