表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/51

事故

 

 もう少しで夏休みが始まる。クラスメイトもどこかそわそわとしていて落ち着かない。夏休み前に学校の許可を得てバイトの面接を受ける者。バイクの免許を取りに自動車学校のパンフレットを眺める者。部活動の合宿。せっかく仲良くなった友達と離れるのが寂しくなり、慌てて連絡先を交換する者。


 そして、長い間会えなくなることで危機感を覚え、好きな人に告白をする者。ふられる者。交際が始まる者ーー……。


 私は、教室の隅でそんな様子を監視していた。


華月かづきお姉様、夏休みはどう過ごされるんですか?」


 変わった変化と言ったら、そうね。()()()()ができたことぐらいかしら。

 助けたつもりはないけれど、助けられたと思った娘達が勝手に私の後ろに着いてくる。正直、休み時間もおちおち乙女小説に没頭出来ないから迷惑な話でもあるのだが、悪くもない。それにこの娘達は、よく気が利いてとても親切だ。


 妃彩と彼の情報もクラスが離れていても、女子特有の伝達網で瞬時に異変があったか教えてくれる。


 この前なんか突然の雷雨で傘を持っておらず、急いで帰ろうとしたら「お姉様が雨にぬれたら大変ですわ」と言って予備の傘を一本渡してくれた。

 水泳の時間に私が二十五メートルを三往復した後、水面から上がるとこの娘達がバスタオルとスポーツドリンクを差し出してくれた。


 それに暇さえあればどうでも良いことを褒められる。ただの学校指定の水着なのに「お姉様、素晴らしいプロポーションですわ」だとか、着ている夏服だって、そう。「お姉様の半袖から覗く二の腕に惚れてしまいそう」だとか「スカートの丈なんか長すぎず短すぎず、お姉様の美脚がますます栄えて見えますわ」だとか……。全くご冗談は止しなさいと言っているにも関わらず、後ろの方で団子虫の集団になってこそこそ話をしている。


「あ、妃彩からメッセージが来ているわ」


 そんなこんなで、高校生活にも慣れてきたと思っていた矢先、事件は起きた。



「美夜、今すぐ屋上に来てくれないかしら?」


 それは突然の妃彩からのSOSだった。


「どうしたの? 妃彩」


 私は慌てて屋上に行く。そこには泣いている妃彩がいた。



 突然のことすぎて何が何だか分からない。

 妃彩に「どうしたの?」と、聞いてもなかなか理由を教えてはくれない。


 ーー思い当たる節は一つ。


花宮はなみやくんに告白したの」


 ーーやはりそうだったかーー……。


「花宮くん……私とは付き合えないって……」


 ーーはあ!? なんで!!?? 妃彩はクラス一、いや……学年一の美少女よ!?!? 性格だって良いし、学業だって……非の打ち所がない程の。プリンセス中のプリンセスなのよ!?!?


「花宮くん……気になる人がいるんだって……」


 ーー全く話が理解できない。そんなうわさは聞いたことがなかったし、こんな解けないなぞなぞがあるはずがないと思ってた。プリンセスを差し置いて、どこのどいつが良いって言うの!? そんなやつがいたら一度拝見してみたいものだわ。


「話は分かったわ。今すぐ、花宮を平手打ちして来てあげる」


「違う。彼は悪くないの……」


 ーーええいっ、プリンセスを泣かせるやつは誰だろうが悪役よ!! そんなやつは許さないわ!!!


()()()()()()好きなんだって……」


 ーー!?!?!? 今、何て言った……?


「テニスコートで見た時から気になっていたんだって……」


 ーーあの時!?!? ちょっと待ってこんな展開は望んでいない!! まさか、妃彩の涙の理由って、全部私のせい!?!?


「……華月かづきさん、ひどいよ。妃彩ちゃんって華月さんのお友達でしょ? お友達の好きな人を奪っちゃうなんて」


 ーー違う。私はいつも妃彩の味方よ! 妃彩は分かってくれるわよね? 私が現実の男なんかよりも妃彩のことが大事だいじなこと。



「……美夜。ごめんね。やっぱり美夜には敵わないよ。今まで言わなかったけど、実は、綺麗で強い美夜の側にいると自分が惨めですごくつらかったの……。


 私たち、もう、友達じゃ、いられないーー……」



 ガタン……ッ!!!


 一瞬、心臓がふわっと宙に浮き、呼吸が出来なくなった。突然目眩めまいを起こしたのか体が後ろに倒れ、引っ張られる感じがする。叫び声を上げる妃彩の声が遠くで聞こえ、全然体に力が入らない。まるで幽体離脱したようだ。


「美夜!?!?」


「妃彩ちゃん、危ない……!!!!」


 妃彩が残された屋上のフェンスに捕まり、必死でこちらに向けて手を伸ばしている。その様子を見て確信した。


 ーーああ、私屋上から転落したんだーー……。


 本来ならば起こるはずのない事故。それは誰かの神様のいたずらなのか。大分劣化していた屋上のフェンスに私が寄りかかったことから崩れ落ちるように落下した。


 端から見れば私が屋上から落下した時間は数秒だったと思う。しかし、私は()()()()()自分を冷静に受け止めていたーー……。


 ーーああ、私。死ぬのね。まさか不慮の事故で妃彩とお別れすることになるとは思わなかったけど、私がいなくなれば、もしかしたら妃彩は幸せになれるのかもしれない。


 本当はずっと側にいて、守ってあげたかったけど、嫌われてしまったら側にはいられない。


 ーー妃彩。どうか、悪役わたしがいなくなっても幸せになってねーー……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ