失恋
妃彩のことを誰よりも理解していて、妃彩のことを守らなくてはと思っていた。でも、その役目は意図も簡単に数カ月前に出会ったクラスメイトの男子に奪い取られてしまった。
ーー私は十年間、妃彩の側にいたのよ!?
妃彩に紹介された男は確かに見た目が良くて優しそうなやつだった。それでも、こんな、こ~~んな細身のやつに妃彩が守れるなんて思わない。足なんか鶏ガラのように細くて、私が蹴り飛ばしたら折れてしまいそう。
怒りの感情がもくもくと膨れ上がる。
そしてその感情はぶつける先もなく、この日を境に目をギラギラと輝かせ二人の監視、いや、二人のストーカーへと変わって行った……。
私が教室の窓からやつがどんな間抜けなのか見抜いてあげるから覚悟してなさい。……まあ、テニスコートに立ち、ラケットとボールを握る姿は様になっているようだわね。
額から流れる汗、Tシャツの裾で吹くしぐさ。Tシャツの下からのぞくいい感じに割れた腹筋。周りで二人のテニスの練習試合を観覧していた女子達のピンク色の歓声が上がるが私は騙されない。
ーーんんっ? やつが今軽く手を振ったのは、妃彩に? 妃彩、そんな近くで試合を見ていてはだめよ。もし、ラケットやボールが飛んできたら、あなたは逃げられない。
言わんこっちゃない。事態は最悪で、長いラリーが続き相手方が打ち返したボールがラケットの縁にあたり、観客席の女子に向かって長速球で飛んできた。
ーーあ、危ないーー!!!!
「花宮くん!?!?」
それは妃彩の声だった。私は教室の窓ガラスを開けて食い入るように事態を見つめる。
「悪い、花宮! 大丈夫か?」
「ーーおいっ、危ないだろ!? 女子に当たったらどうするんだ!?」
幸いなことに緊急事態に気づいた妃彩の好きな人=花宮馨が妃彩を抱き締めるように庇ったのでボールは馨の右肩に当たった。
「妃彩ーーーー!?!?」
それでも私は妃彩の無事を確かめたくて二階の窓から大声で妃彩の名前を叫んだ。
「あっ、美夜? 美夜が呼んでる」
妃彩は頬を赤らめながら、私に手を振ってくれた。良かった、無事みたい。……ん? 花宮馨がアホ面でこっちをずっと見ているけど、私の声そんなにうるさかった? 失礼ね。私は妃彩のことが心配なの。妃彩を守ってくれたことには感謝するけど、ちょっと触り過ぎじゃない? 大丈夫だったんならその汚らわしい手を早く退きなさいよ。
「ごめんなさい、花宮くん……」
ーーああ、花宮馨。今ので、肩をケガをしたのか……。……ちっ、それにしても、妃彩にボールを当てようとしたやつ、待っていろ。すぐに階段を下りて、側まで行って喉元をわしつかみにしてやる。昨日雨が降ってまだ抜かるんでいる、校庭の片隅の地面に引きずって行って、顔面を泥だらけの汚れた靴で踏み潰して殺るわ。
ーー……ふん。花宮馨。貧弱ものの割には少しは役に立つようね。良いこと? あなたに妃彩の側にいさせる許可を与えるから、あなたはせいぜい妃彩の壁になりなさいな。
ーーっ、だから、もう……!! 妃彩ちゃん、あなたが彼に恋をしてしまったのは分かったから。泣かないで。
男なんて骨の一つや二つ、折れたって死にはしないのよ……!? お願いだから、泣かないで~~……。




