表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/51

初恋

 

 体育祭実行委員を引き受けたのは大きな誤算だった。妃彩と一緒に帰る唯一の安らぎの時間は体育祭の準備によって大分削られた。

 体育祭開催までのミーティングで活動方針や今年のテーマ、競技の内容、さまざまなことを話し合うこととなった。


 同時に私は文芸部に入部。妃彩は家庭部に入部した。


 二人で過ごす時間はだんどんと減っていったので、家に帰ってからスマホで会話をした。二つ隣のクラスだし、話に行こうと思えばいつだってタイミングはあったはずなのに、妃彩が他の人と楽しそうに雑談しているその中に入っていくなんてできなかった。

 スマホの向こうから聞こえるのは電子音の妃彩の声。それでも、たわいもないお喋りができた夜はぐっすりと眠れた。


 放課後体育祭の準備をしている途中、昨晩妃彩が話してくれた内容を思い出し、人影が写る実習室の窓を見つめた。


 校庭の家庭部の活動内容はとても穏やかなものだった。主に被服室を貸しきって大きな長テーブルをくっ付けて、部員皆でおしゃべりをしながら裁縫をする。

 妃彩は手先が器用なので、この前は皆にパッチワークを教えたりしたそうだ。


 私も家庭科の授業で被服室で授業を受けることがあり、教室の隅に置かれている制作中の作品を見た。一人では到底作ることの出来ない大きなテーブルクロス。これは私が知らない部員の誰かと共同で制作したものなのだろうか。


「妃彩、テーブルクロス見たよ」


「やだ、恥ずかしい……」


 スマホに送られてくる文字の羅列。最近、はやっていると思われる絵文字。絵文字の表情は笑っていても、今では妃彩がどんな表情でこの文字を打っているかすら想像がつかなくなっていた。


 ーー妃彩、どこにもいかないよね?



「美夜!! 体育祭お疲れさまでした!」


 それは体育祭が無事に終わった時のこと。妃彩は変わらぬ愛くるしい笑顔で声をかけてくれた。遠くで見ているのは同じ部活の子達かな? 妃彩の側にいつもいたような気がする。


「調理実習で作ったマフィンを差し入れです」


 妃彩はかわいらしくラッピングされた小さな袋をくれた。触ると少しだけ温かく、とても香ばしいバターの香りがする。


「……食べていい?」


「だめ」


 天使の口からなぜかお預けの言葉が出た。

 久しぶりに見た妃彩は長い髪をシュシュで緩く一つに結んでいて、小花柄のエプロンを着ていた。いつどこで買ったのか分からないローズクォーツのパワーストーンを着けていて、焼きたてのお菓子の香りに紛れて微かにトロピカルパンチの甘い香水の香りがした。


「妃彩、今日は一緒に帰れる?」


 私は胸の奥が締め付けられるくらい苦しかった。


「……まだ、片付けがあるから」


「待ってるよ?」


 マスカラをつけなくても睫毛まつげは十分に長いのに。

 アイシャドウをつけなくても彼女の瞳は宝石のように輝かしいのに。瞬きの回数が増え、視線がズレる。


「やっぱり美夜に隠し事はできないね。いつも全部見透かされてしまっている気がする」



 私はその言葉が衝撃的過ぎて、大切に手に持っていたマフィンを落としそうになったーー……。



「私ね、好きな人がいるの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ