キューピッド…ではない
お久しぶりです。
キューピッドにはなれない←
「明日から三連休だああああああ」
放課後、香月が待ってましたと言わんばかりに叫んだ。
幸い、教室にはいつものメンバーである秋乃と章しかいないので、怒られる心配もない。
「うるせえな」
「元気だね」
と章と秋乃に言われるぐらいで、犀のように拳が飛んで来ることもないのだ。
「この連休、君たちは何をするんだい?」
ばっと手を広げた香月に、秋乃と章が順番に答える。
「家でゲーム三昧」
「マンガだな、あとはダラダラする」
「な、なんてことだ……! オレたちはまだ若いんだぞ?! そんなことでいいのか!?」
と香月が拳を作って、熱弁し始める。
「十代は一度きりなんだぞ?! もっとキャッキャウフフな展開がほしくないのか?!」
「いや、どの代も人生一度きりだからな」
「そうだよ香月、やり直しが効くのはゲームの中だけだよ」
と章と秋乃に突っ込みを入れられつつ、香月は続ける。
「そうだよ……、だからこそ! 今、青春を謳歌するべきなんじゃないのか?!」
「いやー、香月が知らないだけで、裏で謳歌してるよ、うん」
「そうだよ、篠山とか、レデンツとか、望みは……まぁまぁだとしてな」
そんな秋乃と章の言葉に、香月はやれやれと首を振った。
「何もわかってない……何もわかってないよ君たち! 自分達が体験しないでどうするよ!」
「えー、ゲームの世界で体験してるよ」
「おい、次元落とすなよ、オレらは三次元に居るんだぞ!」
と秋乃に香月が突っ込む。
「いやー、だってねえ、恋愛興味ないし……」
「草食系男子か! 肉食になろうぜ!」
「香月は肉食になりきれない草食系男子だもんな」
「よくわかってんな章! だが、今それは置いておけ!」
と香月はぐっと胸を押さえる。
それから小さく溜め息を吐いてから、二人に言った。
「それでだ、オレたちが体験するんじゃなくて、キューピッドを体験しようと思う。二人の仲をぐっと近づける役割をする──どうだ?」
「あー、それなら良いかな」
と秋乃は頷く。
章は「邪魔になるだけじゃないか?」と思いつつも、勝手に話が進んでいくので、二人の暴走を止める役として参加する。
「──よし、じゃあまず保梨先生と山井先生に話を聞きに行くぞ!」
「おー」
「また何でその二人だ……」
ノリノリで教室を出ていく二人の後を付いていきながら、章はめんどくさいことにならないといいけど、と一人呟いた。
*
「なんか、いい感じじゃね?」
「確かに」
「だな……」
保健室に向かうと、何やらもう良い雰囲気で、三人は外から見守ることにした──。
「明日から、三連休ですね」
「そうですね。保梨先生は何か予定あるんですか?」
「ワタシですか? うーん、これといってないですね、テレビ観たりするくらいで──」
と保梨は書類を纏めながら答える。
その近くで書類チェックをする山井も、ですよね、と頷く。
「俺は部屋掃除とかしたいですね、そろそろ足の踏み場が無くなってきてて……」
「そうなんですか? 何か意外です。しっかりしてるイメージだったんで」
「そうでもないですよ──」
落ち着いた雰囲気で話す二人を遠くで見ながら、三人はボソボソと話す。
「いや、なんか、普通に『じゃあ片しに行きましょうか』みたいな流れになってもおかしくないぞ?!」
「確かに、これからカップルになる確率高そうな会話だ」
「……保梨先生男だけどな」
と章が一応言うと、秋乃が何言ってんのと章に言った。
「それを乗り越えてのハッピーエンドだよ」
「なんだ、お前ついにそっちの扉にも手かけたのか」
「うん、むしろちょっと入ったよね、新境地開拓的な。ま、おれは別に偏見とかないから」
とさらりと言う秋乃に、ちょっと格好いいなと章は思う。
「……じゃ、とりあえずここは良いとして、別のとこ行くか」
「そうだね」
と歩き出した二人に、章は訊いた。
「次ってどこだ?」
「「生徒会室」」
と二人がニヤリと笑って答えたのを見て、あぁ、と章は納得した。
*
生徒会室には、会長である眞壁の姿はなく、篠山と関野が向かい合って作業をしていた。
「保健室と違ってドア閉まってるから、会話聞こえないな」
「ちょっと開ける?」
「いやバレたら終わるだろ」
と三人は少し離れた所で話す。
「よし、堂々と入るか」
「いいね」
「おい──」
さっきの会話がなかったかのように、香月と秋乃が先を行き、章は後から付いていく。
「失礼しまーす」
「失礼します」
「失礼します……」
三人が入ってきたのを見て、篠山と関野は作業をやめた。
「あれ? どうしたの三人揃って」
「今会長職員室行ってるんだけど……」
と篠山と関野が三人に言う。
「はい、関野に質問です!」
「え、私? 何?」
香月の突然の質問に、関野は戸惑う。
「好きな異性のタイプは!」
「え? ……うーん、仕事をしっかりしてくれる人?」
「好きな異性の仕草は!」
「えっ、腕捲り?」
「異性に言われたい言葉は!」
「労いの言葉、かな……」
それを聞いた香月と秋乃が、篠山にわかったな、上手くやれよとウィンクをして見せた。
「露骨過ぎんだろ……」
と章が呟いて溜め息を吐いた時、眞壁が戻ってきた。
「おー、何だ? 今日はいっぱいいるな──とりあえず、書類さばくか」
と眞壁は腕捲りをして、書類をさばいていく。
それからふと篠山と関野を見て言った。
「お前ら仕事早いな、お疲れ。もう帰っていいぞ」
「でも、まだちょっと……」
「俺も……」
と渋る二人に、眞壁がいいからと手を叩く。
「俺が進めとくから、大丈夫だって。前は一人でやってたんだから」
「……じゃあ、お言葉に甘えて……」
「すいません……」
「ん、任せとけ──」
眞壁は全員を外に出させて、一人生徒会室に残った。
関野はじゃあ、先帰るねと四人を残して歩いていく。
残された四人は、関野の言っていた言葉を思い出し、口に出した。
「仕事をしっかりして……」
「さりげない腕捲り……」
「労いの言葉……」
と秋乃と香月と章が口に出すと、篠山が耳を塞いだ。
「やめてくれ! 聞きたくない!」
「あー、関野の理想は会長かぁ」
と香月。
「これは篠山、勝てるかなぁ」
と秋乃。
「うーん、イケメンか猫大好きかだなぁ」
と章。
篠山は三人を見てから言った。
「いいんだ……そういうタイプが好きなだけであって、関野さんが会長を好きな理由にはならないんだから──!」
そうは言っているが、篠山の目には若干涙が浮かんでいるようにも見えなくもない。
「……ま、篠山ファイト」
「応援してるよ」
「頑張れ」
と三人に見つめられ、篠山はやめてくれ……!と顔を覆う。
その頃生徒会室では、眞壁が書類をさばき終えて『ニャンニャンパラダイス』略して『ニャンパラ』を読み耽っているのだった……
香月「細胞レベルで、恋してる?」
秋乃「廃人レベルで、ゲームしてる」
章「おいやめろ」




