貰った
理科の先生(名前は決めてない)登場。
放課後。
「あー、喉渇いたー」
「確かに──てか香月遅くね?」
教室で勉強をしていた秋乃と章は、自販機に飲み物を買いに行くと言って、出て行った香月を待っていた。
「遅くなったな──!」
と香月が2リットルのペットボトルを持って戻ってきた。ちゃんと紙コップもある。
「それどこで買ったんだよ」
自販にねえだろ、と章が訝しげに香月を見た。
香月は紙コップを並べて机に置き、まあまあ、とオレンジ色の液体を注いでいく。
「それオレンジジュース?」
と秋乃は興味津々といった顔で、紙コップを手にする。
「味はオレンジジュースと変わらないって言ってた」
「じゃあオレンジジュースだろ──」
章も紙コップを手にして、匂いを嗅ぐ。
「飲めばわかるって、理科の先生が言ってた」
「理科の先生から貰ったのかよ」
「理先から? 大丈夫?」
章と秋乃は顔を見合わせてから、香月に顔を向ける。
「大丈夫だって、変なのは入ってないって言ってたし──さ、飲もう飲もう」
かんぱーい! と香月が紙コップを掲げてから口に運ぶ。
章と秋乃も香月が飲んだのを確認して、紙コップを口に運んだ。
「……うん。美味い」
「確かに……」
「だろ──?」
と香月は章と秋乃にどや顔をして見せた。
しばらく談笑してから、ぐだぐだしながらも三人はまた勉強に戻った。
勉強し始めて数分後、香月がふいに言った。
「なんか……オレ、スラスラ頭に入ってくるんだけど」
「……は?」
「おれも……」
と秋乃も口を押さえる。
章は特に変わりないらしく、秋乃と香月を見て首を傾げた。
「べつに変わんなくね?」
「……いや、貰ったジュースを飲んでからだ──勉強した内容がスラスラ入ってくる」
「頑張れば頑張った分だけ、記憶に刻まれる……!」
急にスピードを出し始めた二人を見て、章は不思議な気分になる。章は全く何もない。
「うおおお! はかどるぜ!」
と香月はノートにシャーペンを走らせる。
「わかる……わかる!」
秋乃も香月と同様にすらすらとシャーペンを走らせている。
「…………まぁ、やる気ならいいか──」
いつも写させてやってる身としては、こんなに良いことはないな、と章は一人小さく笑った。
勉強もラストスパートに入った頃、ちょうど廊下を歩いていたら教室から騒ぎ声が聞こえてきたため、ドアを開けた理先(理科の先生)は、少し驚いた顔をした。
「なに、居残り勉強? 偉いね」
教室に入り、三人に近寄る。
「先生! ありがとうございます! オレめっちゃ頭良くなってます!」
「おれもです」
「へえ、そんなにジュース気に入ってくれた?」
理先はほんわかと微笑んで香月と秋乃を見た。
二人は笑って、はい! と頷く。
「はい、めっちゃはかどりました!」
「おれも」
「あ、ほんと? それは良かった。試作品だったんだけどね、上手く出来たみたいだ」
と理先は手をパチンと叩いて笑う。
それから、じゃ、頑張ってね。と一言残して、教室を出て行った。
「やっぱ理先すごい。変わり者って聞いてたけど、良い人」
「ハンパねえわ──」
興奮する秋乃と香月をよそに、ちょっとトイレ、と章は教室を出た。
少し急ぎ足で理先の横に並び、章が訊く。
「先生、あのジュースって普通のオレンジジュースですよね?」
「え? あ、うん。そうだよ」
「じゃあ、なんであの二人は……」
「僕がね、田端くんに言ったんだ。『これには、変なのは入ってないけど、頭が良くなるおまじないをしてある』って」
と理先は人差し指を立てて笑って言った。
「おまじないって……」
「うん、ちょっとした呪いだね。二人にはよく効いたみたいだけど、平井くんには効かなかったか」
ちょっと残念、と理先は苦笑いする。
「呪いって……」
「あ、大丈夫大丈夫。ほんとに呪った訳じゃないし、死なないから。それにほら『人を呪わば穴二つ』っていうし、やらないよ──」
ははは、と理先はほがらかに笑う。
章は、そうですか……と言いながら、やっぱりちょっと変わってるよな、と内心思った──
理先「よろしく」




