修学旅行 4
覗き、それは男のロマン──……?
「さて……確かここは、男女別の露天風呂があったはずだ──」
香月はスリッパをぱたぱた言わせながら、露天風呂を探していく。
「あれ? 田端くんじゃないか」
「お、イケメンじゃん──」
イケメンって、やめてくれる……? と篠山は香月と合流する。
「……何してるの?」
「露天風呂に向かってんの。篠山も行こうぜ」
「え、でもタオルとか持ってないし──」
「バカ、お前。露天風呂つったら、アレに決まってんだろ」
と香月が篠山にこそこそと耳打ちする。
「……えぇっ、覗き?!」
「でけーよ、声!」
「あ、ごめんごめん──」
と篠山は謝る仕草をする。
「で、ほんとに覗くの?」
「たりめえよ。お前だって、関野の見たくないわけ?」
「なっ……! 何でそこで関野さんが出てくる?!」
「男の勘ってやつ……?」
まあ、見てればわかるけど……と香月は普段の篠山を思い出して苦笑いする。
「……それはさておき、オレは行くぞ」
と香月は歩き出す。
篠山はその後を、はっとしてから追う。
「だめだよ、田端くん! 先生に見つかったら……」
「フッ……先生は今休憩中だ。さっきお茶飲んでくつろいでたからな」
抜かりはない。と香月は得意顔で言う。
「だめだって、変態扱いされるよ?!」
「もう前にそういう扱いはされたよ……だから、気にしないぜ!」
「そういう問題じゃなくない!?」
必死に篠山が説得しようとするも、香月は止まらない。
「外からの方がいいか……」
と香月は裏に入っていく。
篠山は、関野が見られたらと思うと落ち着かない。
「田端くん、だめだって!」
「大丈夫だって──見たいだろ?」
「み、見たくないよ──!」
と言い合ううちに、露天風呂の裏側に着いてしまった。
「温かいね〜」
「そうね」
「うん──」
露天風呂では、ヒナミと柚子、関野、他に数名の女子生徒が入っていた。
その少し離れた裏側で、香月と篠山はもめていた。
「ダメだって!」
「ちょっ、静かにしろよ! バレるだろ!」
「いっそバレろ!」
「何だと──?!」
「……なんか、外で声しない?」
「そう?」
香月たちの近くに入っていた女子生徒は、静かに耳を澄ませる。
「ばっか、お前──っ、何して……!」
「こうしないと、わかってくれないんでしょっ──!」
と篠山は香月の腕を後ろに締め上げていた。
例えるなら、警察が暴れる犯人を押さえつけるような格好になっている。
「おまっ、いっ──たっ! 痛い痛い痛い痛い!」
「静かにしないとバレるよ……っ!?」
「なっ……!」
「ぇ……なに?」
「この裏でなにやってるの……?」
近くの女子生徒は、姿の見えない声に、あらぬ妄想を働かせているのを香月たちは知るよしもない。
「っ、わかったからっ、離せ」
「…………」
仕方なく、篠山は静かに手を離した。
「ふぅ……よっしゃ──!」
と香月は走って、篠山から離れる。不意をつかれて、篠山は少しの間ぽかんとしてしまった。
「……ぁ、待て──!」
そして我に返った篠山は、香月の後を追った。
「……いなくなった」
「ね……なんだったんだろ──」
女子生徒二人は顔を見合わせ、首を傾げた。
篠山から逃げた香月は、隙間を探していた。
「……うーん──お」
そして、覗くにはちょうどいい穴を見つけた。
「じゃ、ちょっと失礼して…………」
香月は高鳴る胸を抑えて、穴を覗いた。
覗いた先には、体を洗う女子生徒がいた。
いい感じに泡が隠しているため、全ては見えないが、胸の膨らみや体型はよくわかる。
「……うはぁ〜、来た甲斐があるってもんよ──」
香月が呟いた時、女子生徒がシャワーに手を伸ばした。
「お、ついにベール──ガッ?!」
「間に合った……!」
と雨の時に使う傘のビニール袋で、篠山は香月の目を覆ったのだった。
もう一つを穴に差し込み、穴を塞ぐ。
「護った──」
関野さん……! と篠山は達成感を得ていた。
目を覆われた香月は、じたばたして暴れる。
「外せよーっ!」
「ここから離れたら、外すから──行こう」
「うわああああ──」
離せーっ! と香月は、篠山に引きずられていった。
その頃、柚子とヒナミ、関野は、マッサージチェアに座り、マッサージを楽しんでいたのだった──
お茶中。
山井「ふう、おいしい……(コーヒー)」
保梨「おいしいです……(ミルクティー)」
忍者「うむ。おいしいでござるな──(天然水)」
次回、修学旅行編最後。




