わかってない
問題を起こすことなかれ。
「終わった……終わってしまった──」
机に伏せて、香月が呻く。
「仕方ないだろ。月日は経つんだよ」
と章が窓を開けて風を入れる。
エアコンはまだついていない。
「終わった……終わったよ──おれの魔王城へ行く旅は……」
秋乃も香月と同様に、机に伏せて呻いていた。
秋乃の高校も休みが開け、学校が始まったのだ。
「あと一ヶ月……せめてあと一ヶ月あれば、魔王を倒せたはずなのに……」
「お前は現実から離れ過ぎなんだよ」
と章がゲーム脳と化した秋乃にツッコむ。
「だって……、村人救うって、村長と約束したんだよ……」
約束は守らなきゃじゃないか! と秋乃は机から起き上がる。
「これから、変わり映えのしない毎日が始まるのかと思うと、つまんな過ぎじゃん──」
と今度は香月が顔を上げる。
「行事とかあるだろ」
「そういうんじゃなくて、もっと普段からさぁ、何かないのかね?」
「自分で起こせばいいだろ」
と章はうだうだしている香月に答える。
「そうか! なるほど! じゃあちょっと起こしてくるわ。秋乃も行こうぜ!」
「村人救いに?」
「ちげーよ。とりあえず行くぞ」
「えー……わかったよ……」
と渋々秋乃は香月の後をついていく。
章は教室を出て行った二人を見てから、問題起こさなければいいか。と思うのだった。
*
廊下に出た香月と秋乃は、とりあえず歩いていた。
途中、忍者と会った。
「忍者さん、お久しぶりです」
「おお。舛田殿に田端殿。今日は平井殿は一緒ではないでござるか」
「まあ。そういう時もあります」
と秋乃が答える。
すると香月が、忍者に向かって言った。
「忍者さんは、素顔出さないんですか? いつも目しか見えないけど、実際忍者さんってイケメンなんですか?」
「確かに。顔見せてくださいよ」
と秋乃も忍者を見る。
忍者はそんな二人を見て、口を開いた。
「残念でござるが、イケメンなのかはわからないでござる。ただ、顔は出せないでござるな。かたじけない」
と忍者は頭を下げる。
それでもやっぱり気になるのが、人の性。
「一瞬だけでいいですから、お願いしますよ」
「見せてくださいよ、忍者さん」
「無理でござる」
と忍者はきっぱり断る。
「…………あっ、UFO!」
と香月が窓の外を指差した。
「そんな初歩的な引っかけには、引っかからないでござる」
「くっ……仕方ない。こうなったら──教室戻るか」
と香月が秋乃に言う。
「そうだね。まだ授業あるし。じゃ、忍者さんまた」
「さいならー」
と二人は戻っていく。
忍者はあまりにも呆気なく戻っていく二人を見て、少し戸惑う。
「え、いや……まあ、見せないけど……」
もうちょっと何かあってもいいでござろう? と忍者は遠くなる二人の背中を見ながら思った……。
*
「ただいま」
「戻った〜」
と秋乃と香月が章に言う。
「何か起こしたのか?」
と章が二人に訊く。
「いや、特に。やっぱり、起こせる事にも限度があるなと思って」
「それな〜。忍者さんの素顔見ようと思ったんだけど、見れないし、時間もあれだから戻ってきた」
と二人は窓に寄りかかる。
そんな二人に、章が言う。
「……だいたいさ、起こしたら怒られるんだから、自ら起こすもんじゃなくね?」
「確かに」
「そうだな」
と二人は頷く。
「……じゃあ、黒板消しをドアに挟むとか、小さいことから始めよう。退屈な毎日から脱出だ! やるぞ秋乃!」
「ラジャ──」
と前に行く二人を見て、
「お前らわかってねえのな!」
と章はツッコむのだった──
そのあとちょうど山井先生の授業で、二人は山井先生に怒られました。
休日投稿です。




