課題やるよ
夏休みに入りました。
課題。
夏休みに入ったある日。
秋乃はある四人にメールを送っていた。
「これでよし」
そう秋乃はフッと笑い、携帯を置いた──
*
それから数分後。四人はやってきた。
「こんちはー」
と気の抜けたように言った香月。
「こんちは」
「こんにちは」
「こんにちはー」
それに続いて、章と犀、朔が口を開いた。
「よく来たな、勇者よ」
秋乃はそんな四人を中に迎え入れた。
「舛田ん家初めて入るよ」
と朔が周りを見回して言う。
「確かに。野嶋と湯川は初めてかも──」
と秋乃は考えるように言ってから案内していく。
「お邪魔します。両親はいないのか?」
朔の後ろをついていく犀が疑問を口にした。
それに秋乃が、ああ──と答える。
「父さんは仕事で、母さんは自治会の集まりだから、今日はおれだけ」
「なるほど」
と犀は眼鏡を押し上げる。
「てか、秋乃エロ本持ってるっけ? 持ってたら見してくんね?」
「エロ本? 香月が好きそうなのは持ってないと思う」
「持ってんの!?」
と朔が驚く。
「……まあ──とりあえず、先部屋行ってて。くれぐれもフィギュア勝手に触ったりしないでね。場所は章と香月が知ってるから」
と秋乃は飲み物を取りに行く。
その間に、章と香月が秋乃の部屋に案内する。
「フィギュアに触るなって言ってたけど、舛田ってほんとにアニメとかマンガ好きなの?」
向かいながら、朔が訊く。
「確かに、レデンツがどうのこうの言ってるが」
「中見れば多分わかるぜ」
と香月が苦笑いして言った。
「そうだな。百聞は一見にしかずだからな──」
そう言って章はドアを開けた。
「「うお……」」
目の前に広がるフィギュアの数々。
小さめのテレビの下には、キレイにつまれたゲームソフト。
ベッドの上には、よくわからない忍者の形をした目覚まし時計がある。
「フィギュアすご」
「確かに──でも、ポスター飾ってないんだな。テレビとかだとよく貼ってあるのを見るが」
と朔はフィギュアの数に驚き、犀は壁を見る。
そこにコップと飲み物を持った秋乃が入ってきた。
「お待たせ。どうかした?」
テーブルに置きながら、犀と朔を見る。
「ポスターだって」
「ポスター? あぁ、あるよ──ここ」
と章に言われて、ベッドの下から箱を出すと、中を見せた。
「ほらね。壁とかに貼りたいんだけど、壁に穴あけたくないし、ポスターも新品同様に保存しときたいから。だから、たまに取り出して眺めるくらいかな」
「どのくらい?」
とポスターを見ながら朔が訊く。
「物によるよ。これは五分で満足かな。こっちは十分。これはいつまでも見てられるね! 全員集合のやつ」
と秋乃はうっとりとポスターを見つめる。
「もういいから。課題やるために呼び出したんだろ」
と章は手でしまえよ、と合図する。
「召還したと言ってもらいたい」
「お前の頭の中、もうゲーム脳じゃねえか」
「よくぞ気づいた。一昨日から始めたものでね……」
「マジかよ。やるぞ──」
としまい終わった秋乃を見てから、章が促す。
「秋乃〜エロ本は?」
と探していた香月が秋乃に訊く。
「勉強終わったら見せてあげるよ。とっておきを」
「マジで?!」
「……やるぞ──」
と目を輝かせた香月に章が一喝する。
とりあえず、テーブルを囲んで課題を広げた。
*
やり始めて数十分。
秋乃と香月の集中力は既に切れかけてきていた。
「……明日の〜未来は〜、我らの〜手のうーちーに〜」
「歌わないでくれ。集中できない」
「歌わないと集中できない」
「……じゃあ、もう少し静かにしてくれ」
「ラジャー」
と犀に注意された秋乃は敬礼する。
すると香月が耐えかねたように口を開いた。
「もうムリー! 秋乃〜、見せてくんね? な?」
「お前全然進んでないだろ」
「章のいけずー。ちょっとだけ」
「お前な……」
「ちょっとならいいんじゃん? そしたら田端だってやる気出るんじゃない?」
と朔が助け船を出す。
「そっちのやる気も?」
「やっぱり今の無し。見せなくていいと思う」
香月がそういうことを言うので、朔は取り消す。
「すいませんすいません。ちゃんとやりますから」
「じゃあ見せようじゃないか。とっておきを──」
と秋乃は立ち上がって棚に向かった。
そして一冊の本を取り、香月に広げて見せる。
「どうよ。このレデンツとデクレのツーショット。珍しいんだ」
「…………えっと、本物はないの? 人のやつ」
と香月が本から目を離して訊く。
「人のやつ? 何言ってんの、この二人だって人だよ」
「二次元だろ! 三次元の話してんだよ!」
「三次元……? そんなものは無い」
と秋乃は本を棚に戻す。
「なんだよ〜つまんねーな」
「大体秋乃に求めるのが間違ってんだよ」
と章がシャーペンに芯を補充しながら香月に言う。
「じゃあ皆持ってんだな? 何派? オレは看護士とか好きだな。章は?」
とエロ本について話し出す。
「俺は、年上とかないから」
「あ、ロリコン?」
「なわけないだろ! 野嶋は?」
「俺は……そうだな、和服とか。犀は?」
「ない」
「またまたぁ、実は熟女好きとか?」
と香月がおどけるも、
「ない」
と犀が真顔で言うので、それ以上ツッコむのをやめ、秋乃にふる。
「秋乃はー?」
「レデンツ一筋」
と秋乃がキランと流し目で答える。
「いや、何も決まってないから。むしろ二次元一筋って言える秋乃がヤバいと思う」
と香月がツッコむ。
そんな香月に章が促す。
「もう無いってわかったろ。続きやれよ」
「うーっす」
「終わったら、ゲームやろう」
と秋乃が思いついたように言う。
この人数なら、マリカーできる。と秋乃はソフトを探す。
「賛成!」
「俺もー」
と香月と朔は手をあげるが、
「僕は遠慮する」
と犀はシャーペンを走らせたまま断る。
そんな犀に香月が挑発する。
「あ、湯川出来ないんだろ~」
「うるさい」
と犀は図星なのか、課題から顔を上げずに言った。
章は本棚を見てから秋乃に言う。
「俺パス。マンガ読みたい。新巻貸して」
「ラジャー」
とソフトを見つけた秋乃に約束を取り付けて、章はシャーペンを動かし始める。
香月と秋乃も、三人が真剣にやっているのを見て、空気を読んでやりはじめた──。
課題終了後、しつこく断る犀に無理矢理コントローラーを持たせてやらせた結果。
犀は、ゲームをやらなかった章以外にボロ負けしましたとさ──
犀「…………」
香月「ブハハハハハハッ!ボロ負け!」
犀「後で覚えておけ(睨)」
香月「すいませんでした(必死)」




