羊飼いの少女と山羊飼いの少年
こんばんは。
雛仲 まひるです。
改定版です。
★からんちゅ♪魔術師の鐘★ ~ グランソルシエールの禁術書 ~の改定版です。
「ちょっと? 九尾」「BWS」の更新をお待ちの読者さまっ!
すんません。><
お待たせしていますっ!
暫く待ってねっ!
抜ける様な蒼い空が広る街中を、ころころ小気味の良い乾いた音色を響かせながら、郊外に敷かれた街道に向って主に誘導される白い群れが、のんびり移動している。
街を囲む石積みの分厚い外壁は石を四角に削り出し、せり上げ式に積んで造られた丸天井のアーチが口を開けている。
白い群れと主が大きめのアーチを潜り、遠くに見える山々の方角に延びる街道に出たところで声を掛けられた。
「おい。羊飼いの少年」
白い群れの主は一瞬、立ち止まりぴくりと肩を震わせたが、再び群れを率いて歩き出した。
「羊飼いの少年聞こえているのか」
再び、旅商人に声を掛けられ、白い群れの主がようやく呼ばれたのが自分である事に気付き、右手に持っている背丈より頭一つ分程長い節くれた杖を左右に振る。
括り付けられた魔除けと獣除けの鐘が軽い間の長い音色を響かせ奏でた。
随分小柄で華奢な羊飼いは旅商人に近付いて喉を振るわせた。
「プラム」
主は深く被ったフードの中から、やわらかい鈴の音の様な透き通る声で、直ぐ側に従えている白と黒の牧羊犬の名を呼ぶと、主の意思を汲で指示を受け取った牧羊犬が羊の群れの前まで全速力で駆けると吠え立て群れを停止させた。
「私になにか御用ですか?」
旅商人は近くまで来た小柄で華奢な羊飼いの声に目を丸くした。
声変わりを控えた少年よりもやわらかく、透き通る鈴の音色の様な声と身に纏っているフード付きの茶色いローブの外からでも分かる程、随分小柄で華奢な羊飼いであることに気付く。
子供の羊飼いだろうとは見て分ってはいたが、それにしても余りにも華奢な身体をしている。
小柄な羊飼いはフードを深く被り、俯いたまま肩を小刻みに震わせると、肩の震えが握っている節くれた杖に伝わり、先端に括り付けられた鐘を揺らして、ころころと乾いた音色を奏でた。
「羊飼いの少年。君に旅の無事を導いて頂きたい」
小柄な羊飼いは更に肩を震わせていたが、その肩を落として「はぁ」と、小さく息を吸い込み小さな溜息を吐き言葉を紡ぎ出す。
「ええ、喜んで」
やわらかい透き通る鈴の音色の様な声で答え、古の放牧者たちから今日まで、放牧を営んでいる者たちの間に、長きに渡って伝わり続けている儀式の準備を始めた。
羊飼いは準備を整えると伝統的な言葉を述べながら、軽い乾いた鐘の音色を鳴らし、杖を見えない魔物でも祓うかの様にして儀式を始める。
旅の章より、守護と導きの祈り。
「kano・of・raido。eihwaz・and・algiz・to・raido・teiwaz。raido・of・wunjo・gebo」
(旅の始めに守護と星の導きを。旅人に喜び満ちる旅の贈り物を)
羊飼いが間の長い音色を奏でながら、その音に乗せる様に古代語が交じった口上を述べ、腰に下げていた角笛の野太い音を響かせ儀式を終えた。
「旅の導きに感謝します。貴方に神の御加護があらんことを」
旅の安全を導いてもらった旅商人は、随分幼く見える羊飼いに向かい、丁寧に感謝の言葉を述べ黒く汚れた銅貨を数枚手渡した。
銅貨を小さな手で受け取った羊飼いは、深く被っていたフードを首の後ろに払い頭を深く下げた。
ローブの中に隠れていた桃色の長い髪が、牧草を撫でている風に持ち上げられ宙を泳いだ。
触れるだけで切れそうなほど細くきめやかで、撫でれば溶けてしまいそうなほどにやわらかそうな髪が、ローブの外に零れ出し風の中を遊んだ。
フードの中から現れた顔は陽の光の下で仕事をする羊飼いとは思えないほど、透き通る様な白い肌をしており、ほんのり上気し赤みを帯び桜色に染まっている。
八面玲瓏な顔立ちに、大きな紫水晶を思わせる瞳が瑞々しく輝き、ころころ良く動く。
整った細い眉の間から瞳を抜け、通った鼻筋から形の良い鼻へ伸び、その下にある薄桃色の小さめ唇が形を変えた。
「ありがとうございます」
羊飼いは礼の言葉を述べ言葉を続けた。
「神の御加護と旅に幸運のお導きがあります様に」
羊飼い小柄な身体を折り常套句を述べた。
その様子を見ていたのか、脇を通り掛った旅人が羊飼いに声を掛けた。
「可愛い羊飼いのお嬢さん。私にも旅の安全を導いて貰えないだろうか」
「はい。喜んで」
小柄な羊飼いは、やわらかく微笑んだ。
桃源郷が広がっていた。豊かに膨れ上がる山々とその間に出来た深い渓谷と視界に広がる山々。その深き男たちの冒険の谷間に――。
「お、溺れるっ……。あれ?」
白銀にブルーマールの映える髪の少年が、跳ね上がる様に草の茂みの中で目を覚ました。
「だ、だれ!?」
やわらかい鈴の音色の様な声が聞こえた。
少年は声のした方に視線を向けると、そこには……。
「……桃、二つ?」
低い滝の下に広がる水面に桃色の物体が見え、桃色の周りをやわらかい日差しが水面に反射し、白金の光を生み出していた。
その中に少年は本物の桃源郷を見た。……気がした。
背中の腰程まで伸びた桃色の髪が、水に濡れしっとりとした艶を出し髪から滴る水は朝露の様に輝いている。
白金に光る水面、整った顔と細い首から小さな肩と綺麗な線を描く鎖骨あたりから、控え目に膨らんだ胸元から曲線を描いた引き締まった腰、すらりと白く細い足が伸び、透ける様に白く見える肌は、体内を巡る液体を透かし赤みを差して桜色に染まっている。
少年の瞳は白金に輝く水面で沐浴を楽しむ女神を映し出した。
少女は固まった生まれたままの姿で。
瞬きを十回程繰り返す間、たっぷり少女は固まった。
止まっていた少女の時間が動き出し、薄めの形の良い桃色の唇がへにゃりとへの字に形を変えた。
細めの眉の先は下がり瞼の奥にあしらわれた紫水晶を思わせる瞳の眦からは薄っすら湧き出た液体が湿り潤ませた。
「……きゃぁーーーーっ! プ、プラムぅぅぅ」
桃色の少女は叫び声を上げ、頼りになる相棒の名を叫んだ。
「なんて言うか……、その、ごめん。んん?」
森の中から茂みを揺らす音と獣の荒い息使いが、背後に近付いて来ている。
少年が振り返った瞬間、茂みを割って白と黒の獣が飛び出した。
「痛ってーーーーっ」
少年は尻に鋭い痛みが奔ると童子に悲鳴を上げて振り向くと、尻に長い毛並みの白と黒のコントラストが美しい見事な尻尾が生えていた。
To Be Continued
ご拝読アリガタウ。
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