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String link  作者: 初瀬姫
String link・Ⅵ
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ミステリーゲーム。ゴーストバスター。ブサイクなバンビ。仲間が増えた。平和なお屋敷。


「料理長が殺されたっ!? どうする!?」

「嫌だわ物騒ね」

「誰が殺したんだ!?」

「へー。晩御飯できたら呼んで」

「えらく長いトイレだとは思っていたけど、まさか殺されていたなんて」

「犯人は源さんを恨んでいる人だって!?」

「おーい! 鍋が噴いてるぞ! 鍋見とけって言っただろ!」

「まだ殺人犯がうろついているの?」

「これで次の料理長はオレだ」

「とても恐怖に歪んだ顔だわ。よっぽど怖い目に遭ったようね。くわばらくわばら」

「掃除する身にもなれよ」

 ……誰もおかしいと思ってないのか? 

 服だけ見える透明人間が増え、騒ぎ散らかすようにべちゃくちゃべちゃくちゃ喋る中、俺はそう思わずにいられなかった。

「ガルルー? 死因は何かなー?」

「切り裂かれたような爪痕があんねん。ワイの手にある爪のような痕がな。おそらくそれやろうな」

 ノブエさんが青い軍服制服を着た虎に訊ねると、コテコテの関西弁のガルルと呼ばれた虎は答えた。

「そうかわかったー。犯人はガルルねー」

「ちょう待ちぃや、ノブエちゃん!?」

「その鋭利な爪が証拠だよー」

「待ち待ちっ。ワシは野球中継見んのに忙しいんやでっ。今もめっちゃ気になっとんねん。そんなん無理やさかいっ」

「あー、それはムリだねー」

「そやそや。無理やねん」

 さて、誰が最初にこの状況にツッコミを入れるんだろう? 

「ひどい惨殺と思われる?」

「複雑骨折三箇所。左腕がもげ、腹が抉られて、首が皮一枚で繋がっている状態なのであーる」

 赤い軍服制服を着た羊が青いメイド、もといタカコさんに報告。

「むごいけんのう」

「むごいわね」

 羊の隣に居た同じ赤い軍服制服を着た蛇が、赤いメイドことリナさんと一緒に遺体(?)をマジマジと見ながら呟く。

「こらぁ、人間業なんべかなあ、ドラァ?」

「わっちの推理では人間には無理だと導かれたでありんす」

「おお! さすがだべぇ、ドラァ」

 黒い軍服制服を着た猪が当たり前のことを蜥蜴とかげと話している。

「何があったでありますか!?」

「どうしたっすかっ?」

「お腹のお腹がペコペコよ」

 先ほど廊下で出会った見回り最中の二匹と一羽が騒ぎに駆けつけて来る。

「大きな変なこと、略して大変なことが起きたんだっ」

「大変!? 何が大変でありますか、ウサウサ!?」

「詳しく言うっす!」

「最初の最初から略してくれない?」

 二匹と一羽は青い軍服制服を着たうさぎに詰め寄る。と、

「料理長の源さんが殺されたでちゅ」

 げっ歯類特有の大きな歯がある鼠が答えた。

「マジっすかっ!?」

「ワンワンの警備中に殺人事件だなんてっ!?」

「あの人あのオッサン、ご飯に鶏肉出すから困るのよね」

 状況これ、どうしたらいいんだろう? そろそろ終わってくんない? あと鳥、次はお前が一皿でいいと思うぞ、俺は食べないけど。

「みみみ、みなさん。も、目撃者、でです」

 オドオドとした赤い軍服制服を着た馬が一声上げる。馬の後ろから、人? が現れる。

「もも、目撃者の……、源さん! しょしょ証言お願いします!」

「困っちまったよっ。いきなり襲われたんでさっ。あんにゃろうめ、次遭ったらタダじゃおかねぇバッキャロー!」

 長いコック帽、血がベトベト付いた料理人服はさっきまで惨殺死体? だったと思われる源さんという幽霊ひとが証言する。透明人間だから服以外の顔や姿がまったくわからないけど。

 あー、困ったぁ。ツッコミもしないままネタがわかり易く表に出てきた。事態の収束という名の終着駅にちゃんと着くのだろうか、状況これ? 喚いて騒いでざわついて(無駄話も多い)、一向に収束しない物の怪の類共に1ミクロンほどの期待できないんだが。

「あのさ、レン?」

 期待が薄い中、姉貴が話しかけてきた。どうした?

「あの源さんって人、殺され……いや、というより、もともと死んでるんだろ?」

 えぇぇぇ……!? まさかの姉貴おまえ!?

「幽霊だし。殺されたっていうのにもう復活してるし。何をさ、みんな大騒ぎしているんだろう?」

 まさかの姉貴おまえか。一緒になってパニックになっているもんだんと思っていたのに。

「お客様!? 今何と言ったでありますかっ!?」

「え?」

「源さん、殺されたのに復活しているのでありますか!?」

 ワンワン隊長、姉貴に詰め寄る。ちょっと何言ってるかわからない、この犬。

「え、うん、そう。だってさ、あそこにいるんじゃ……服しか見えないけど」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「え? 何? 変なこと言った、ボク?」

 周りの視線が一斉に姉貴に向いていた。が、

「なーんだ。殺人じゃないのかよ」

「心配して損したわ」

「これで安心して野球中継が見れるっちゅうもんや」

「巨大な人が逆転してるよ、ガルル」

「何やてぇ、ウサウサ!?」

「だから鍋見とっけって言っただろうがっ、このダボッ!」

「つまみ食いしてくるでちゅ」

「待つでありんす、チュウノスケ。わっちも行くでありんす」

「源さん、トイレ行ったのならちゃんと手を洗ってから料理してね」

「警備室に戻るだべぇ」

「見事な名推理であったのであーる」

「ああ、まままっ待ってくださいよぉ」

「はよお来るけん」

「人騒がせな。まったく人騒がせな。ホントに人騒がせな」

「ワンワンたちは見回りに戻るであります」

「戻るっす」

「お腹がお腹が空いたわ」

「早く仕事してくださいよ、料理長」

 と、ぞろぞろと口々に吐き捨ててその場から立ち去って行った。残されたのは四人のメイドと、そして被害者(?)の源さん。

 ……盛大なイベントだな、これは。わざとなのか? 素なのか? ツッコミさせるためだけなのか? お医者さん。物の怪専門のお医者はいないのか? お薬出してやれ、この屋敷全員に。

「ボク、何か悪いことしたのかな」

 いやいや、ただのイベント消化だろ。気にすんな。

「オイラは〝あの女〟に殺されたっていうのによぉ! 薄情な奴らだなぁ、べらんめぇ!」

 〝女〟とな?

「源さん、〝あの女〟というのは?」

「おお、トモミちゃん! アンタは信じてくれんだろ。そらぁもう凶悪なツラしてやがってさっ。ありゃ、ろくでもねぇ男に捨てられた女だな。間違いんねぇ、コンチキショウ!」

 まずあんたら透明人間ならぬ、透明幽霊たちからその面を見せろ。説得力が無いから話はそこからだ。

「男に捨てられた女ねえ。心当たりある?」

「庭師見習いのカナエちゃんと思われる」

「そうだよー。カナエちゃん、付き合ってた男に酷い仕打ちされて自殺しちゃったって言ってたもん」

「男に酷い仕打ちされたのならノブエもでしょうが」

「犯人はノブエと思われる」

「ちぃぃい。バレちゃーしょうがねー」

「やっぱりと思われる」

「で、源さん。どんな女だったの?」

 赤いメイドことリナさんが訊ねる。なぜ無駄な会話を挟むのか……。

「どんなって言われてもなぁ……。えっと……おっ!?」

 源さんとやらが俺たちの後ろで〝何か〟を見つけ、その〝何か〟の側に駆け寄る。

「ひぃ、やっ……」

 姉貴が怯えて俺の密着して後ろに隠れた。あー、動きづらいなーもうっ。

 その〝何か〟は四つん這いで、高いところにある葉っぱ食べようと首を伸ばす草食動物みたいな体勢。踏ん張る手足は産まれたてのバンビのようだった。

 ただどう見ても可愛いとか癒されるとかの感情が一切湧かない。

 手入れしていないだろうと思わせる潤いを失った乱れた白髪、目潰ししてくれと言わんばかりに限界まで見開いた眼、肌は青白く、ボロボロになった歯と、あなた今夏ですけど寒いんですか? と訊ねたくなるような白い吐息を吐き出し、女の『お』の字も見る影は無い〝女〟らしき人物。

「こいつだこいつ。この〝女〟で間違いねぇぜ!」

「あー。この人かー。誰ー?」

「知ってると思われる人、誰か詳細求むと思われる」

「存じませんね。当お屋敷の者ではないでしょう」

「トモミが知らないってことは部外者ってわけね。不法侵入よ、あんた。さっさと帰りなさい」

 ――……。

「やい! てめぇだろ! オイラを殺した女は! 何てことしやがんだ、バッキャロー!」

「そうだよー。めっ、だよー」

「そうだそうだ! もっと叱ってやってくれ、ノブエちゃん!」

「ざいじょう。キミは無実の源さんを殺したとしてちょうえき三年の刑ですー」

「さっすがだねぇ、ノブエちゃん! 見事な大岡裁き、グェバァァアァァ!?」

「あ、源さん!?」

 血しぶきが舞い上がって廊下を赤く染める。透明幽霊料理人源さん、胴体真っ二つで本日二度目の死亡。コントか? これコントなんだな。長いコントだな。

【……オトコ……ミンナ……コロシテヤル……オトコ……】

「ありゃー? 源さん、死亡ー?」

「聞く耳無しってところね」

「源さんの証言は正しかったと思われる」

【オトコ……コロシテヤル……】

 えらく俺をガン見してるんだけどこのブサイクなバンビ。長いコントイベントはもういらないんだけどなぁ。

【オトコ】

 すると、ガン見していたブサイクなバンビが飛んだ。俺に向かって一直線に。

【オトコォォォォオオォォォォ!】

 ああ、今この場に男は俺だけか。え? 矛先、俺?

「レンッ!? 危ないっ!?」

 姉貴が一層俺にしがみ付く。爪が剥がれて赤く染まったバンビの右手が、俺に差し向けられる。が……、

 クロスカウンターの要領でブサイクなバンビを殴ってやった。

 姉貴がしがみ付いている所為で上手く力が入らなかった。チッ、コントの最中で客を襲うんじゃねぇよ、ボケ。

 殴り飛ばしたブサイクなバンビは上手く地面に着地し、ゴキブリのようにカサカサと逃げていく。その際、一度こっちに振り返った奴の顔は、憎悪に満ち満ちていた。

 うわぁ……ブサイクな面がもっとブッサイクだなぁ。

「レン……? 大丈夫なのか?」

「お前がいなければ一発でブチのめせたはずなのに。あーあ、最悪」

「心配したのにその言い方は何だよ、おいっ」

 そんなもん、何のハンデも無くフリーで体勢が整っていれば追撃してブチのめせたかもしれないってことだよ、タコ。

「どうするのー、トモミー?」

「この場合は〝駆除〟ね」

「やっぱー。だよねー」

「えぇぇぇ。めんどくさーい。あれぐらいの霊なら放置してもいいじゃん?」

「私もそう思う」

 四人メイドは何やら深刻そうな……そうでもないか。

 それにあのブサイクなバンビは、この屋敷のイベントでもなければコント要員でもない、と。もっと思いっきり殴っておけばよかった。これから先まだまだ溜まるであろうストレス解消の一つとして。

「あっ。いいこと考えたー。カ○ン様がいるから問題なーし」

「さっき撃退したと思われる。任せればいいと思われる」

「そっか。あれぐらいの霊なら任せても問題ないわね」

 矛先が俺たちに向いている。ウソん?

「だけどお客様はミステリーゲームの最中よ」

「それも含めてミステリゲームにしようー」

 おい、白いの。

「いい考えと思われる」

「いい考えね」

「でしょー。この屋敷の人たちは殺されても死なないしー」

 さっきの源さんって人が殺された時に早々とツッコめよ。

「おお? 坊主が対峙すんのか? カッコいいじゃねぇか、べらんめぇ」

 もう復活したのか、アホ料理人。

「ねえ、トモミー」

「けど……」

「今日ぐらいいいじゃん。放置していた方がおもしろいよー、きっと」

 おい、白いの。いらんこと言わなくてもよろしい。

「レ、レン……。あの人たち、何を言って……」

 ミステリーゲームにゴーストバスターが追加されましたってことだろ。最悪だわ。

「だーいじょうぶー。もし明日の朝まであの霊が生き残っていたら、その時は、わたしがブッ殺しておくからさー」

 何気なく平然と言っちゃうあたり怖いな、白いの。てか、できるのならお前がやれよ。

「でも、ねぇ……」

「この屋敷にいるあの霊は完全に袋のネズミだよー。途中で〝干支えと警備隊〟に退治されるもよーし。カ○ン様に撃退されるもよーし。私に無残に殺戮されるもよーし。の状況。万全です。えっへん」

 えっへん、じゃねぇよ。白いのの場合だけむごい殺り方じゃねぇか。

「わかったわ」

「さっすが、ト・モ・ミー」

「お客様。そういうことですので」

「はい、了解」

 オッケー、オッケー。追加決定ね。もう好きにイベント乱立してくれ。

「じゃあ、任せようー」

「源さんは厨房に戻って晩御飯の用意してよ。あたし、それまで部屋で寝てるから」

「いっけねぇ!? 忘れてたぜ!?」

「源さん、私も手伝いますわ」

「私も手伝おうと思う」

「わたしはお茶してよーっとー」

 てな感じで四人メイドと源さんはこの場から立ち去って行く。

 どっと疲れた……。

「レンッ!? どうすんだよっ!?」

「警備室に行く。以上」

「マジメに答えろよっ」

 うるさくてやっかいな姉貴だなぁ。疲れてるんだから労われ。もっと疲れるかもしれないんだからさ。

「……マジメに答えてるよ」

「そうは見えないよっ」

「マジメにやってるから警備室行くんだよ。何で逃げたブサイクなバンビをわざわざ追いかけなきゃならん」

「あ……」

「いいか、姉貴。この屋敷ってね、あれぐらいの摩訶不思議は日常なんだってよ。平和なの。平和ならいいじゃん、もう」

「そ、そう」

「はい、そうです」

 本気でマジメにやるのなら、マジメに拒否する。けど、この屋敷においてマジメにやることには限度があるわ。

 と考えていると、腕がギュッと締め付けられた。

 姉貴、いい加減に離れ……、

「ま、守ってくれよ……ボクのこと……」

 怖いの? ブルってるの? あんなどうツッコんでいいかわからない長いコント見せられたのに?

「約束しただろ」

 お前も大概一方通行だな。

 はいはい、できる範囲でがんばりますよ。と俺は頷きだけで返した。

「警備室はこっちなのよさ」

 あ、ドリアングレイの少女。

「いいいいきなり現れるなよっ。驚くじゃないかっ」

「怖がってるコムスメになんかようはないのよさ。あたちはおにぃちゃんに教えてあげたんだかりゃ」

「このっ」

「はい、待ちなさい」

 今日、何度目かわからない姉貴の制止役の俺。

「おにぃちゃん、やさしいのよさ」

「キミ、案内人にでも転職したの?」

「ちがうのよさあ。たすけてあげるってことなのよさ」

 うわぁ、信用値ゼロなんだけど。まあ、離脱の可能性ありの仲間が増えた、とでも思っておこう。

「案内してれる」

「まかせてなのよさ」

 微笑むドリアングレイの少女。彼女の姿が絵から消え、隣の絵へと移動する。

「こっち、こっち」

 誘われるまま俺は歩き出す。姉貴が妬ましさ満開の不服な表情しながら俺にしがみ付いていて、とても、とーっても歩きにくかった。


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