触れた温もり
ハトバさんは救急車で運ばれ、近隣住民や学校帰り、仕事帰りの人たちで騒がしかった十字路も普段の落ち着きを取り戻し、俺は母さんとアイラとともに家に帰ってきた。
言葉に出来ない緊張、不安、動揺と気疲れ、そんな精神的な疲労を伴っていた俺は、自室に戻る、と母さんに言って早々に二階の自室へと向かう。
トボトボとした足取りで自室に入ると、窓に西日が差し込んでおり、明かりの点いていない自室は茜色の光と薄暗い影が映えている。
――静か。先ほどの騒がしさが嘘のように思える。
一息大きく息を吐き出し、俺はベッドに向かって崩れるように倒れこみ、大の字でベッドに沈む俺は呆然と部屋の天井を無意味に眺める。
なんというか、大したことしていないのにホント疲れた。今はもう、動く気力が湧かない。
そう思い、夕飯まで眠るか、と思案していると、ドアをノックする音のあと、ドアが開いた。
「レンちゃぁん? 入っていい? 入るわねぇ? お邪魔しまぁすぅ?」
いや、もう入ってるじゃねぇかっ。疑問文で訊くなよっ。
母さんへの心のツッコミで俺はバッと起き上がった。
「どうしたのぉ、慌てちゃってぇ? あぁー、もしかして男性特有のアレ? 思春期ですもんねぇ」
唐突に何を考えて言っちゃてんの、この人?
「でもぉ、妄想だけじゃ大変じゃあなぁい?」
「待って。待ちなさい、母親」
俺が{ピー}していた前提で話を進めるな。
テクテクとこっちに近づく母さん。
「お母さんねぇ、レンちゃんのお部屋からエッチなものが見つからないからぁ、ちょっと心配なのよぉ」
聞いちゃいねぇ……。ダメだな。躾された犬より確実に出来が悪い。とりあえず喋らせるだけ喋らせてみよう。
「レンちゃんが学校に行っている最中に、お掃除してそういうイケナイものを見つけてぇ、それを口実にレンちゃんに教育的指導をしたいなぁ、って願望があるのぉ」
そんな願望、砕け散ってしまえよ。
「でねぇ、お母さん、こう言うのぉ。こういうものを使うよりぃ、お母さんのを使いなさいよぉ、って」
――……オエェッ……。吐き気が出てきて、思わず口を手で塞ぐ。
「そしてその翌日からレンちゃんはぁ、お母さんの下着が入ったタンスをこっそり物色するのでしたぁ。めでたし、めでたし」
「めでたくねぇよ」
「えぇ? でもぉ、お話の終わりにはぁ、めでたし、めでたし、って言わないとぉ?」
「気色の悪い願望が、めでたし、めでたし、で終わらせるな」
「えぇ? お母さんで欲情しない?」
「消える、キミ? 社会的に消える、キミ?」
ホント、家族バラバラになるけど、それも已む無しって思えるよ?
「あらぁ、物騒ねぇ」
「お前がそういうことを言わなければ、そういうことにはならない」
「そうねぇ。冗談はこれぐらいにしておこうかしらぁ」
消えろ。消えてくれ。光の素粒子となって今すぐ消えてくれ。
「怒らないでぇ、レンちゃん」
はあ……。喋らせた結果がこれだよ。どっと疲れたわ。こうなったら早々に用件聞いて終わらせよう。
「で、何なの? ん……?」
母さんは俺の左隣に座り、いきなり俺を抱き寄せると頭に頬を擦りつけた。
「母さん?」
左耳、左頬が母さんの胸に当たる。
暑くもなく、冷たくもない妙に心地良い体温。脈打つ鼓動音は落ち着きを与えられ、ほんのりと鼻先に漂う安心を感じる匂いが身体を包み込む。
「ありがとおぉ、レンちゃん」
「え?」
「ハトバちゃんのためぇ、ケンシンくんのためぇ、マリナちゃんのためぇ、今日はたくさん頑張ってくれてぇ、ありがとおぉ」
「――……」
こんなことを母さんに言われたのは初めてだった。というか、こうやって温もりを感じる距離で抱かれて言われること自体が初めてな気がする。
「ひっく、ぐす……」
――泣いている。頬を頭に擦る母さんから漏れる今日二度目の泣き声。
どうして泣くのさ? 逆だろ? ここは俺が感動して泣く場面じゃね?
「母さん……?」
「ごめんなさいねぇ……。レンちゃんがぁ、こんないい子に育ってくれたからぁ、お母さんホント嬉しくってぇ……」
いや、さっぱりいい子じゃない。今さっきも心の中でツッコミ出たし。
「レンちゃん、小さい頃から妙に大人っぽいっていうかぁ、自立しているっていうかぁ、子供っぽくないっていうかぁ、可愛げがないっていうかぁ、愛くるしさがないっていうかぁ」
どんなけ『ていうか』を付け足すの?
「そおぉ。幽霊が視えちゃうからぁ、ちょっと変わった子だったわねぇ」
まあ、母さんも視える人なんで……。そんなあなたの息子なので確実におかしいです。結論、変人の一言で纏められます。あ、変人は言い過ぎかな。
うーん……。{ピー}? あ、ダメダメ。これはもっと言い過ぎだ。
「そんな力、子供には理不尽で仕方ないわよねぇ」
まあね。幽霊の言いたいことは俺にはさっぱりわからないもの。
苦しいだの、憎いだの、助けろだの、殺すだの。その一点張りがほとんど。俺から言わせれば、何が? て話。ホント、わけがわからん。
何がどう苦しいの? 何がどう憎いの? 何をどう助けるの? いきなり何故俺は殺されなきゃならんの?
こういう風に、俺に何か言いたいならそのための趣旨を説明しろと言いたい。
どうして説明ができないのか? 俺がよほど賢いのか、それとも幽霊がよほどアホなのか?
俺は賢くないから後者だろう。とまあ、今まで見てきた幽霊の九割九分八厘が後者なので理不尽。
ケンシンくんとマリナちゃんの二人を見習え。
「お母さんねぇ、正直、レンちゃんが人として大事なものを持たずに大人になるんじゃないかってぇ、心配していたの」
ん? 人として大事なもの?
「レンちゃん、他人に対して無関心に近い態度を取っていたからぁ」
「無関心って、どういう事?」
「お母さんにはそう見えたのよぉ。でもぉ、これは勘違いだったわぁ」
「あ、そう」
「レンちゃんは我慢しているだけだった」
それ、前に聞いたな。
「それを知ったのはごく最近。レンちゃんが、モモカちゃんとフェルくんの二人とちょっと拗れた仲になってぇ、お母さんとスミレお祖母様と話した時」
ああ、あの時。
「レンちゃんは自分の筋違いに怒るっていうことが、昔から変わっていなかったんだなぁ、って」
いや、筋を通さないと、おかしいだろ? 通すか通さないかで変わってくるんだから。でも……、
「それがどうして、無関心だったと勘違していたの?」
俺は昔から大して変わっていないと思う。
「それはねぇ。小学生、中学生と、大きくなるにつれて我慢していることが、表面的に人と接しているように見えたからぁ」
――……思い当たる節が多々とある。
「他の人が筋違いのことをしている、けど、それが多すぎてレンちゃん自身には全てを正すことができない。でぇ、レンちゃんはどうでもいいと思うようになる」
いや、それは今でも思うよ。最近だとアイラのこととかで、何度もそう思ったもん。
「なんて言うかぁ、ちょっとした世捨て人みたいな雰囲気を感じたのぉ。お母さんは、そう思っちゃったのよぉ」
なるほど。俺と母さんの間でお互いの理解不足があったのか。
「だからぁ、アカネちゃん、モモカちゃん、フェルくん、スミレお祖母様、そしてぇ、今回のハトバちゃん、ケンシンくん、マリナちゃんのことに対してぇ、人としてぇ、思いやりを持ったいい子に育ってくれていたことがすごく嬉しいのぉ」
「だけど俺はそんないい子であるとは、自分では思わないよ?」
むしろひでぇ奴だと。
「それはレンちゃんが思うことだからぁ、それはそれでいいと思うわぁ。レンちゃんはぁ、そういうことに対して目標が高いっていう証拠。人として自分がぁ、より良くなりたいという理想の表れだと思うわぁ」
「あ、そう」
あまり深くそう考えたことはないな。
「だからぁ、レンちゃん、ありがとおぉ」
――……。何故だろう? 俺的に『ありがとう』と言われることが腑に落ちない。そう思い、
「母さん? ごめんだけど、俺は『ありがとう』と言われることはしていないと思う」
率直に言う。
「だって俺は、ケンシンくん、マリナちゃん、ハトバさん、困っている人にできることがあったからやっただけだから」
母さんから『ありがとう』と言われることは何一つしていない。
「ううん、それは違うわぁ。あ、でもぉ、お母さんの方にも言葉足らずがあったわねぇ」
「ん?」
「ハトバちゃんの先輩、友達としてと、レンちゃんを産んだ母親としての二つの意味よぉ」
どうして二つ?
「ハトバさんのことに対してはわかるけど……もう一つは?」
「母親として子供を産んで幸せなこともあった。けど、悩みもあったわぁ。今さっき言ったような心配事とかねぇ」
「うん」
「でもぉ、今日のレンちゃんの姿を見てぇ、母親としてすごく嬉しかった。だからぁ……」
母さんは一呼吸置き、
「〝お母さんの子供として産まれてきてくれて、ありがおぉ〟」
そう言って、俺を抱きしめる力がさらに強まる。
母さん……。
陽が落ち、部屋に明かりがなくなる。静けさにポッカリ隙間が空いたような、そんな冷たさが部屋の雰囲気。けど、
温かい。母親として子供を思う気持ちと、抱き重なって衣服を通して伝わる人肌にそう思う。
「ホント、親は子供を見ているものだけどぉ、子供も親をよく見ているものだとレンちゃんを見ているとつくづくお母さん、そう思うわぁ」
そういうものかなぁ。まあ、これは俺が親になったことがないからそう思うんだろう。
「でもぉ、レンちゃんはお母さんの考えなんて簡単に飛び超えちゃう。寂しい気もするけどぉ、堪らなく嬉しい」
「いやいやいや。母さんの考えは俺より難しいよ。遥かそびえたつ大きな壁じゃないかと」
「そうかしらぁ? うぅ~ん。まあぁ、レンちゃんもまだまだ成長途中だもんねぇ。最近のレンちゃんを見ていればぁ、そう思うわぁ」
「へぇ……。ねぇ? 最近の俺ってどうなの?」
母さんは俺のことをどう思っているのか、少し気になった。
「そうねぇ。表面的なものが取れてぇ、表情や感情が豊かに見えるのぉ」
「そう」
自分自身じゃさっぱりわからんわ。
「こう何かねぇ、内心は怒り爆発だけどぉ、表面的には当たり障りのない言動だったのぉ。最近はぁ、レンちゃん自身の様々な想いを色々と伝えてくれるのよぉ」
うーん、言われてみればそうであるような、ないような。
確かに瞬間的に怒ることは無くなった。我慢できるようになったぐらいとしか思ってなかったけど、それをちゃんと伝えるよう努力ができているのかなぁ。
うーん、難しい……。
「あっ!」
「え、何?」
母さんがいきなり声を上げる。
「あとぉ、とぉっても大事なところも最近発見したわぁ」
「え?」
何だろう? 大事なところ?
「レンちゃん、ツッコミが上手いと思うわぁ」
「ツッコミをさせるようなことを言うな」
「ええぇ? それだとぉ、おもしろくないわぁ」
「おもしろさは追求しとらん」
お前、芸人か? 違うだろ。クソッ、真剣に考えて損したわ。
「でもぉ、とぉっても大事よぉ」
全然、大事じゃねぇよ。
「こういうのぉ、一つのこみゅにけーしょんですものぉ」
その発音力の無さ、やめれぇ。
「アイラちゃんとのやり取りなんかもぉ、見ていてとぉってもおもしろいとお母さん思うわぁ」
いや、アイラはどちらかというとツッコミタイプで、その時俺はボケになるのか、って、そんなこと考えさせんなっ。
「ツッコミ同士の応酬でぇ、お母さんがいないとボケが始まらない、みたいなぁ」
「やかましい」
「キツイわねぇ。芸人も楽じゃないわぁ」
「いつ? いつなったの、キミ? 間違いなく売れないよ」
「と、まあぁ、こういう豊かな表現を口に出してくれるようになったのよぉ、レンちゃんは」
――……。お、なるほど。昔はこういうことを家族や周りに言った覚えはない。
全部、心の中で怒りとともに爆発させていた。
「そうだったのか」
「そうよぉ。それはお母さんにとって、すごく嬉しいことなのよぉ」
そんなことで嬉しがるのか疑問であるが、親っていうのはそういうもんなんだろうな。
「ありがとう、母さん」
「ううん。お母さんもまだまだ成長途中。人としてぇ、一人の人としてぇ。でもぉ、今はそう言ってもらえることが何より嬉しいわぁ」
俺は、フリーになっている両手を母さんの背中に回して抱き返した。
親っていうのはすごいものだと思う。この母親がそうなんだから、あの父親もすごいところがあるんだろうなぁ……。
「さてぇ、そろそろアカネちゃんが帰ってくる頃だからぁ、お夕飯の支度をしないといけないわねぇ。きっとぉ、お腹を空かして帰ってくるわよぉ」
「そういえば、アイラはいいの?」
俺と同じで動揺と気疲れのアイラは、腹ペコちゃんになっているぞ。
「ああ。アイラちゃんならお家に帰ったわよぉ」
「えっ? 帰ったっ?」
こりゃまた急だなぁ。何かあったのか……?
「ええ。帰りますって言ってぇ、帰ったわぁ。家族に会いたくなっちゃったんじゃなぁい、たぶん?」
えらいアッサリしているねぇ、母さんも。家の子にしていた癖に。
「まあぁ、そのうちまた会えるわよぉ」
今度はあんなアホな登場の仕方に遭遇するのはごめんだけどね。
「レン! たっだいまあぁっ! ねえ、母さん知らな……って、何しているんだよっ、二人ともっ!」
声に振り返ると、部屋のドアの前に姉貴の姿があった。
何って、母さんと抱き合っている。
あっれぇ……。これって、すごく危ない状況に見えるんじゃないだろうか……。
すると、母さんが俺を抱いたままベッドに倒れこんだ。
え? 何?
「ああぁ、ダメよぉ、レンちゃん。いけないわぁ、こういう関係。お母さんたち、親子なのよぉ」
死ね、ロリ声ババァ。そういう関係、誰が求めるか。
「レン! キミはボクにあんなことを言っておいて、母さんとそういう関係だったのかっ!」
「そうよぉ、レンちゃん。あっ、でもぉ、逞しいわぁ、レンちゃんの身体。これも一つの親子の関係ねぇ」
キモい。手を離せよ。俺はもう離したぞ。どフリーだ。
「レン……キミって奴は……。許さないっ!」
「どうしましょうぉ、レンちゃん? 愛の逃避行でもするぅ?」
「――……」
勘違いで怒り狂う姉貴。楽しんでいるおかしい母。その相手をすることがホント疲れることこの上ない。
もう理不尽極まりなく、且つ面倒くさい。けど、長い説明をしなきゃならんのだろうなぁ……。
――数日後。
期末テストで早く学校が終わり、モモカとフェルとテストについて話しながら一緒に帰っていると、十字路に人が集まっているのを見つける。
母さん、先に帰ってきていたのであろう姉貴、ケンシンくん、マリナちゃん、そして、両手でしっかり赤ちゃんを抱きかかえたハトバさん。
あの赤ちゃんって、もしかして……。
「おかえりぃ、レンちゃん」
「ただいま」
【おにいさん、みてっ。マリナのおとうとだよっ】
マリナちゃんからそう聞いた瞬間、あ、そっか、と納得した。
【見てあげてよ、お兄さん】
「私からもお願いします」
「うん」
俺はケンシンくんとハトバさんに言われて赤ちゃんを覗き込む。
穏やかな寝顔――目がまだ見えないのだろう、閉じたまま瞼。頬が少し赤くなっているけど、肌はものすごく柔らかそう。
「可愛いですね」
「ありがとう」
安心しきったその表情、どことなくケンシンくんに似ている。
兄弟だからか。そりゃ、似るよなぁ。
「私にも見せてください」
「俺もいいですか?」
「ボクももう一回見せてよ」
モモカやフェルも興味津々なようだ。姉貴も混ざって赤ちゃんについて何やら話しをし始めた。
それを眺めていると、
「どうぉ、レンちゃん」
離れていた母さんが話しかけてきた。
「どうって何が?」
「ひと時の間でもぉ、レンちゃんのお腹にいた子よぉ。感慨深いんじゃなぁい? 母親としての母性本能が疼くとかぁ?」
いや、母親としての母性本能なんてねぇよ。男だし。それに、
「あの子の母親はハトバさん一人。俺が母さん子供であるように、母さんの子供が俺であるように、ね」
「大人ねぇ、レンちゃん」
さあ、どうだろうねぇ。自分自身じゃホントわからん。
「そんな大人なレンちゃんに、お母さん惚れちゃいそうだわぁ」
「鳥肌が立つのでやめてください」
あの時のような面倒くさいこと、二度としたくありませんし。
「ケチねぇ。もう少し、レンちゃんのお腹の大きいところが見たいわぁ。デブなところぉ」
「いや、太っ腹っていうの、そういうの」
「知っているわよぉ」
今日もいつもの母さんワールドが展開されている。逃げたい。
「ところでぇ、赤ちゃんの名前は訊いた?」
「いや、訊いていないけど」
「訊いたら驚くわよぉ」
驚く名前って何だよ?
「ねぇ、ハトバちゃん? レンちゃんに赤ちゃんの名前教えてあげてぇ」
ふと、フェルと目が合った。
もしかして、あえて外人風の名前を付けたとか?
――……。我武利江流? 路戸利下須?
いかん、いかん。どんだけ失礼なこと考えているんだ、俺。一昔、二昔前の不良の当て字みたいになっとる。
「この子の名前は、〝レンヤ〟」
レンヤくんかぁ……なぬ?
「レンヤくん、あなたのお名前を頂いたの。レンヤくんのように、良い子に育つようにと願いを込めて」
そういう経緯? マジですかぁ……。
「ふふふ。驚いたぁ、驚いたぁ。お母さんの思った通り、レンちゃん驚いちゃったぁ」
母、マジうぜぇ。
「ダメだったかしら?」
「いえ、名前をつけるのはハトバさんの自由です」
あんな願いを込められたら否定なんてできないし。
「そう。それは良かった。あの時のことも含めて、ありがとう」
「気にしないでください」
もう赤ちゃんの名前のことも気にしていませんから。
「そうだ。子供を産めば、その子にレンの名前をつけることができる」
そこのアホ姉、キモい妄想を始めるな。お前の子供だと不憫ということで同情の余地しか残らんわ。
「あ~、いいなぁ。子供にレンくんの名前をつける。うふふ。いいなぁ」
あのモモカさん? つけたら区別するためにジュニアと呼ぶことになるよ?
「レンヤの名前かぁ……」
おーい、フェル? お前も考えなくていい。
「レンヤくん? 良かったら、この子の名前を呼んであげてもらえないかしら?」
ハトバさん? 俺が混乱しそうですよ、それ?
【おにいさん、よんであげてぇ】
【お願いします】
「あ、う、うん」
うーん、ケンシンくんとマリナちゃんに言われたら断ることができないため、思わず頷いてしまう。
けど、しょうがねぇか、と気持ちを切り替える。名前を呼ぶぐらいだから。
俺はレンヤ、もとい赤ちゃんに近づき、
「レンヤくん、こんにちは」
あやす様な感じで軽く赤ちゃんに触れた。
すると、赤ちゃんの小さな、小さな手が俺の手を掴んだ。
温かい……。
掴んだといっても、力も無く触れるような手。けど、しっかりと温もりを感じる手だった。
「この子も、レンヤくんに挨拶しているわ」
ハトバさんが微笑みながらそう言う。
その時、初めて実感した。
この子が魂だけとは言え、俺のお腹にいたことを。
小さな、小さな命が、この手で触れることができるようになったんだと。
僅かの間だけど繋がっていた魂。今度は人の肌で触れ合うことができた。
色々とあったけど、この小さな命が生まれてくれて、ホントに良かった、そう思うと何だか……、
とても、嬉しかった。
ちょっと個人的にグダグダになったような気がします。
が、とりあえずこれでString LinkⅣは終わりです。
で、物語はまだまだ続くのですが、都合によりちょっと投稿がいつできるかわかりません(年内には続きを投稿しようと思う←オイッ)。
では、すみませんが、しばし休憩ということで。
最後に拝読して頂いた方、ありがとうございました。




