18話 ドワーフとの出会いと、グリフォンの牙
その夜は、貴族が経営している宿に泊まるように言われた。
出された料理は屋敷と変わらぬほど質素で、
食べ物が栄養ではなく形式になっている現実を、シーナは改めて噛みしめた。
日はすでに落ちていたが、ベッドに身を預けるにはまだ早く、
馬車で通り抜けただけの街の気配が頭から離れず、どんな人がいて、
どんな暮らしが息づいているのかを想像しているうちに、
気づけば一人で勝手な情景を膨らませていた。
思い切って二人に話しかける。
「ねー、ふーぴょん、しろっぷ、街に行かない?」
「いいね! その言葉、待ってたよ」
「どこ行こっか」
まるでその一言を待っていたかのように即座に反応を返し、三人は夜の街へと足を向けた。
宿から少し歩くと噴水が見え、そこがウルクの町の中心であることは一目でわかり、
屋根付きの市場へ入る頃には、昼とは違う熱を帯びた空気が満ちていた。
食材を扱う店はすでに戸を閉ざしていたが、装飾品や衣服を並べた店は明かりを灯し、
店主たちが声を張り上げて客を呼び込んでいる。
「奥さん、こっちの方が似合うよ!」
「いやいや、今日はこっちが安い!」
「そこのお綺麗なお嬢さんたち、これなんかどうだい」
その賑やかなやり取りに、しろっぷの耳がぴくりと揺れ、シーナとしろっぷは思わず足を止めた。
シーナとしろっぷは民族衣装を体に当て、気づけば即席のファッションショーが始まっている。
「しろっぷ、それ可愛いよ」
「シーナ、大人っぽい!」
少し離れた場所で、ふーぴょんは頭上に吊るされたお守りめいた
小物を眺めながら、静かに待っていた。
「ふーぴょん、どう?」
「うん……かわいいよ」
「……長いよ」
小さな声で呟きながらも、二人の笑顔を見て、ふーっと息をもらす。
二人はワンピースやドレス風の服を買い、両手に大きな紙袋を肩に掛けている。
ふーぴょんは完全に付き合わされる形で、荷物持ちに回っていた。
「可愛いの、いっぱい買えたね」
シーナとしろっぷはご満悦な様子だ。
「おまたせ」
「じゃ、次行こう!」
「はいはい」
両手に荷物を持たされたふーぴょんが、テンション低めに答える。
「おすすめの武器屋、聞いてきたからね」
市場から少し離れた薄暗い場所に、石造りの外装に細かな彫刻が施された武器屋があった。
実用と誇りがそのまま形になったような佇まいで、
扉をくぐった瞬間、ふーぴょんの空気がわずかに張りつめる。
壁一面に整然と並ぶ武具を前に、その瞳が隠しようもなく輝いた。
「いらっしゃい。好きなものを見ていってくれ」
店主はどっしりと椅子に座ったままで、ちらりとこちらを見る。
しばらくして、ゆっくりと近づいてきた。
「おれはここの店主、カジ・ドランだ」
ずんぐりとした体形に髭を蓄えたドワーフで、
「そこの……いい目だな」
そう言って笑い、三人の動きを見ただけで、
それぞれの今の力量を見抜いたように顎髭を撫でる。
「冒険者ランクは?」
「えーっと、たしかCかな」
「ほんとか? それ、間違ってんだろ」
怪訝そうな顔で、カジドランが言う。
「いろいろあってね」
「そうか。お前ら、レベルに合ったものを選べよ。そんな装備じゃ、すぐ壊れるぞ」
「そうだ! そうだ! ダンジョンで取ってきた素材、持ってきたんだよ」
「これなんだけど、使える?」
ふーぴょんが袋から雑に振り出した素材の中に、いくつかのモンスター素材が混じり、
その中にあったグリフォンの爪を見た瞬間、カジドランの目の色が一段、濃く変わった。
爪を手に取る。
「……これは、いい」
「これをお前さんたちが……やはりCではないな」
カジドランは、何か言おうとして飲み込んだ。
「気に入った! 特殊装備を仕込んでやるぞ」
「ここには、いつまでいるんだ」
二人はシーナに目線をやる。
「一週間ぐらいです」
「よし!」
即断するように、
「そこのうさぎ、名は?」
「おれは、ふーぴょん」
「私は、しろっぷ」
「ふーぴょん、お前さんは、風の加護じゃろ」
「うん」
「なかなかいい風の使い手じゃな。お前さんの素材を合わせて、この弓矢をグリフォンクアロー」
「しろっぷ嬢ちゃんは、土じゃろ。格闘も行けるな、匂いでわかる」
しろっぷが顔を赤らめて、自分の匂いを嗅ぐ。
「わっはは、そういうことじゃないぞ」
「しろっぷ嬢ちゃんには、この鉄甲鉤にお前さんの素材を合わせて、
グリフォンクロウを仕立ててやる」
「楽しみにしてくれ」
あれ、私は……と思ったが、私に武器はいらないので、沈黙したまま店の商品を見る。
多くの武器の中で、紫色に煌めく万能包丁のような……いや、短刀を手に取った。
「おお、シーナとやら。いい目利きしてるな。
それはオリハルコンで出来た短刀だ。きっとお前さんに合うよ。だが高価だから無理だろ」
ヤクスから商売の利益を、しっかりいただいているので、お金は結構たまっている。
「あの、いくら?」
「金貨五枚だ」
「あります」
「あんのかい!」
「選んだ防具数点と、二点の加工賃を合わせて金貨七枚だが、いけるか?」
「ダイジョブです!」
「いいじゃねぇか、あはは!」
「じゃあ、おまけで短刀に、さっきの素材に合った魔法石を埋め込んでやるよ」
カジドランは頭にのせていた眼鏡をおろし、手慣れた手つきで短刀に魔法石を埋め込み、
装飾が可愛い革製のカバーも付けてくれた。
「じゃあな。一週間後の納品だぞ。期待してな。しっかり仕上げておくからな」
宿へ戻り湯浴みを済ませると、どっと出た疲労とともにベッドへ身を沈める。
翌朝、ふーぴょんとしろっぷと食材の市場へ行くと、驚くほど静かで、
活気の薄さはかつての村と重なっていた。
揃えた材料を抱えて貴族の邸宅へ戻る頃には、すでに心の中で献立は決まっていた。
ふーぴょんとしろっぷは邸宅まで送ってくれた。
二人には、あるものを探してほしいと頼んでいたので、ここで、しばしのお別れだ。
「……料理を作ろ」




