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33話「蠱毒-デモン-」

 魔王生誕祭から一ヶ月が経過したある日のことだった。

 月曜日。多くの学生にとって最も憂鬱な始まりの曜日。私は、重いまぶたを開いた。


「……んぅ」


 視界の先。というか目の前には、ぐっすりと眠るユラネの姿があった。

 私は、ユラネを抱くような形で寝ていた。


「朝……か……」


 原因はトラウマからだった。

 誰かを自らの手で殺すというのは思った以上にショックが大きいようで、私は殺害のストレスから、まともな精神状態を保つのが難しくなっていた。

 そんな私の心理的負担を解消するための手段がこれだった。私はユラネと同じベッドで眠ることで、抱える心理的な負担を和らげるようになる。

 いつしか私の中でユラネの存在はとても大きなものになり、ユラネがいないと生活が思うようにできなくなっていた。

 決して恋をしているわけではないが、もはや恋人を超えて家族同然のような扱いになっているような気がする。

 少なくとも友達という言葉でくくるには、あまりに不十分な関係性だった。


 私は抱き付くのをやめて、そっとユラネの体を揺らして起こす。

 ユラネは「おはよう……」と、寝起きで弱々しい声でそう言って、少し間をおいて起き始めた。

 私達はいつも通り準備を済ませて、食堂に行く。




 朝ごはんを取って椅子に座ると、ちょうどいいところにあとからアゲコとコネミが隣にやって来る。

 時間が合わないときや、席が一緒になれないこともあるので、今日は運がいい。私達は四人で談笑を楽しみながら朝ごはんを食べ始める。


 ちなみに暗殺、ミステリアとしての活動はあれからは一切行っていない。

 短い間隔で活動を続けていれば、より一層警戒が高まるだろうし、ひとまずは時間を空けておくのがいいと判断したのだ。

 単にそこまで重要なやるべきことが今のところはないというのも理由の一つだが。


 コネミが私の暗殺に協力してくれるようになってからは、私の代わりにコネミが中心となって計画を練るようになった。

 どういった行動を取れば魔王の暗殺に繋がるのか。これに関しては、私よりよほど頭のいいコネミに任せておくのが無難だ。

 そのコネミが最初に私に言い渡した計画は、


「とにかく鍛錬を積んで強くなることにゃ!」


 だそうだ。

 やはり私の計画は相当杜撰なものだったようだ。正体が発覚する以前に、ムクロガミに勝てるかどうかすら怪しかった。

 普通は勝利を前提とした上でその先々まで考えておくもの。

 よくよく考えるとかなり思い切ったことをしたんだなと今の私も思う。結果オーライが過ぎる。


 そして私はコネミの言う通りに鍛錬を積むことにした。

 この一ヶ月はずっとスキルの練習や苦手な筋トレを頑張って基礎を固めることに集中して、暗殺の成功確率を高めようとしていた。

 その結果、オトナシ流も以前より安定して扱えるようになっている気がする。

 これならいつ戦っても、下級の兵士くらいならレジェンドスキルを使わなくても互角に渡り合えるだろう。暴走信者に頼りすぎない戦い方ができるようになりたい。


 食事が終わると私達は一度寮部屋に戻って、学校の用意をもって教室に移動する。

 寮と学校が離れていればうまいこと抜け出すこともできたんだろうけど、ここは寮が完全に学校の敷地内にあるので不可能。

 この行動制限について何とかするのも課題だなぁ……と思いながら、私は教室に着いて、先生が来るのを待った。




「ホームルームを始めますよ〜」


 先生がやって来ると、話が始まる。

 今日の日程の流れを定型文のように述べたあと、最後にいつもとは一風変わった話を始めた。


「さて、もうすぐあの時期がやって来ますね。学校の中でも一大イベント。異校混合の技。通称デモン。知らない人もいるので一から話しますね」


 そう言って説明されたのは、デモンという学校行事のことについて。

 何でも、世界中にある名門校から代表の生徒を選出して、トーナメント形式で戦いを行うのだとか。

 舞台は魔王城のある王都の中心部。各学年から一人ずつ出て、学年に分かれて磨いた技術を披露する。

 会場はかなり広いのに、観客席がびっしりと埋まってしまうほど。

 いくら子供とはいえエリート学校の代表なので、その盛り上がりは凄まじいらしい。

 続けて先生は、


「ここ、ウラドメ学園もその名門校の一角です。もちろんのことながら、この学年から一人が選ばれて、王都へ赴くことになります。大会自体は一ヶ月後ですが、来週には代表を決める予選が行われるので、心の準備をしていてください」


 それを聞いた生徒の誰かが、質問を投げかける。


「予選って何するんですか?」


 先生は、


「そうですね……」


 微笑みながらただ一言、こう言った。


「蠱毒です!」


     *     *     *


 それから一週間後のこと。

 デモンの予選当日になり、全学年の生徒が体育館に集められる。整列して待っていると、やがて舞台の演台の前に学長が立った。


「皆さん、おはようございます。学長です。今日は待ちに待ったデモンの予選。皆さん、準備はいいですか?」


 そこで生徒の側から一斉に「お〜!」という気合に満ちた声が返ってくる。


「元気があってよろしいですね。では予選の詳しいルールについて説明するので、よく聞いてください」


 ここからは少し長いのでまとめる。

 デモンは、魔王ラムファが直々に作り上げた専用の空間内で行われる。

 内容はバトルロイヤル形式。生徒同士で戦ってたった一人生き残ることができれば、代表として選出され本選に出場するというシンプルものだった。

 空間内では専用のライフが存在していて、攻撃を受けることで削れていき、なくなった時点で敗北して空間内から弾かれる。以上が簡単な概要である。


 一応、棄権を宣言することで空間内から脱出することも可能だそうだが、まあまず行う者はいないだろう。

 生徒同士で協力を組むのが禁止だとか、ハラスメント行為がどうだとか。他にもそういった細かいルールも色々あるにはあったが、これは紳士淑女に反しないかどうかのルールだったので、とくに気にする必要はない。

 説明を終えた学長は、


「では早速ですが始めましょうか。予選の内容はラムファ様に中継、及び共有されているので、気合いを入れていきましょう!」


 再びかけ声をして、生徒もそれに応える。

 準備が整ったのを確認した学長は、どこかに向かって合図を示し始めた。すると、


「何これ……」


 すべての生徒が発行し始めて、体が薄れていく。

 空間内への転送と言ったところだろうか。これだけの大規模なスキルを遠隔から行えるのだから、やはり魔王はとんでもない実力のはず。


(悔しいけど、今の私ではまったく敵わないな……)


 私は一人だけまったく別のことを考えながら、光に包まれてその場から消えた。

 デモンの予選が今、始まった。

他に書く作品がなくなったので連載を再開します。長らくお待たせしました。

毎週投稿ができるかは分かりませんが、ひとまずは日曜日に投稿する予定です。よろしくお願いします。


一章と違って改行が少ないですが、これからはこれでいきます。時間のあるときに一章の文章を二章に合わせる予定です。

更新回数が凄まじいことになると思います……。大変申し訳ありません……

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