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12話「魔法」

「問題がまったく分からなかった……。ナキネちゃんは結構ペンが進んでたよね? どれくらい正解できたの?」

「いや、全問不正解だね……。多分やったことはあるけど、全部忘れちゃってた。新たに勉強し直さないとね……」

「大変だね……」


 休み時間。廊下を歩きながら、私とユラネはそんな会話をしていた。

 勉強は学生の本分なので、できなくてもいいので真面目に取り組む必要がある。

 どうにかついていけるレベルにまで頑張らなければならない。気合いで頑張ろう。


「あ、次の授業ってスキル獲得だよね? 今回はどんな授業があるんだろう……」


 ユラネがそう訊ねてくる。


「さあ……。いくら国内屈指の冒険者育成校でも、そんなすぐに難しいスキルを扱うことはないと思うけど……。前回が基礎スキルの習得だったし、次は防御スキル辺りがくるかもね」


 私はそう返した。


「あ、ありそう……! この学園、ダンジョン攻略の授業とか多いみたいだし、早いうちに実用的なスキルは全部教えてくれそう……」

「うん。まあ、生徒のペースに合わせてゆっくりやるし、心配する必要はないよ」

「だね……!」


 私達は、スキル獲得のための専用教室まで向かう。

 専用教室とは言っても、基本的には教室とあまり変わらない。強いて違うところがあるとすれば、スキル獲得に必要な資料がたくさん並べられていたり、スキルを試す際に危険にならないように、広いスペースが確保されていたり。それくらいだ。

 私達は、専用の教室へと入り、教室と同じように椅子に座る。授業が始まるまで少し時間があったので、少しの間談笑を楽しんだ。

 やがてチャイムが鳴り、スキル獲得の授業が始まった。


「はい、では始めましょうか。今日の授業では、基礎的な防御スキルを覚えていこうと思います。防御スキルの中でも初歩の初歩。『シールド』という、無属性の通常スキルです。詠唱すると、自身の目の前に小さなシールドを発生させることができ、打撃も魔法も簡単なものなら受け止めることができます。では試しにナキネさん。私に何でもいいので通常スキルを放ってみてください」

「はい」


 私は、席から立って手を虚空にかざし、先生へと向けてスキルを発動する。


「通常スキル発動《火球(かきゅう)》」


 私が詠唱を終えると、小さな火の玉が手のひらから一直線に先生へと向かっていく。通常スキルとはいえ、触れれば熱いし火傷を負う場合がある。

 先生は、私の火球を防ぐために、同じく手を翳してシールドを発動した。


「通常スキル発動。《シールド》」


 先生が詠唱を終えると、人間の顔くらいの大きさの半透明なシールドが、先生の目の前に現れる。

 そこに吸い込まれるように私の火の玉が飛んでいき、シールドに当たった。当たった瞬間、火の玉は形を崩して散っていった。


「とまあ、こんな感じですね。注意しなければならないのは、ナキネさんが放った『火球』は一定量の魔力を凝縮したものを、瞬間的に放つのに対して、この『シールド』は形成し続けている限り、魔力を持続的に消費させることになります。シールドを出しすぎて魔力が枯渇こかつし、本当に必要なときに相手の攻撃から身を守れなくなる。なんてことがよくあるので、そこは気を付けてくださいね。では、このスキルを獲得していきましょう」


 取得するスキルについての説明が終わり、ようやくスキルを獲得する時間になった。

 私達は、『シールド』について説明が書いている紙が配られたので、それを熟読し始めた。

 前にも軽く説明したが、スキルを獲得するのには条件がある。条件の達成難易度は通常スキル→レアスキル→レジェンドスキルの順でどんどん上がっていく。

 今回獲得を目指す『シールド』は、その中でもとくに簡単な通常スキルだ。通常スキルは、基本的には簡単な内容を覚えてイメージするだけで獲得することができる。

 火球なら、『手を翳して魔力を込めて、火の玉を放つ』という内容を理解して、頭の中でそれが思い浮かべればすぐに獲得できる。

 シールドもそんな感じで、『手を翳して魔力を込め続けることでシールドを形成する』というイメージが頭の中で描ければ、それだけで獲得することができる。

 魔法はイメージが大事。なんてよく言うが、まさにそれだ。スキル自体が詠唱を短縮した魔法のようなものなので、スキル獲得にもイメージ力が大切になるのだ。

 まあ、殺意を一年間持続させ続けることで獲得できる『荒れ狂い』という通常スキルもあるので、同じカテゴリーであっても獲得難易度に大きな差が出ることはあるのだが。


 少し紙を読み込んでいると、脳内にある音声が流れてきた。


【通常スキル『シールド』を獲得しました】


 ちゃんとスキルが獲得できた証拠だ。

 初めてスキルを獲得したときも、こんな感じで無機質な機械的な音声がこうして流れた。

 スキルを獲得するときは、みんなこんな感じの音声が脳内で流れているものだと思っていたが、以前ユラネにそのことについて訊ねてもまったくピンときていなかったので、この謎の音声は私の脳内でだけ流れていることになる。一体何のサービスなんだろう。

 スキルが獲得できたので、私は手を挙げて先生に報告することにした。


「先生、獲得できました」

「あら、早いですね。では見せていただけますか?」

「はい」


 私はその場で手を翳して、目の前にシールドを形成した。ちょっとした衝撃なら、これで防ぐことができるようになる。

 私のシールドを見て、


「ふむ……。ちゃんとできていますね。素晴らしいです。前回の授業でも一番乗りで獲得していましし、ナキネさんには冒険者の才能があるのかもしれませんね」


 確認をするのと同時に、めちゃくちゃ褒めてくれた。


「いえいえ……。まだまだ基礎の範囲ですので……」

「この授業内でシールドの使い方をマスターしてもらうので、全員ができるまで練習をするか、他の人にも教えてあげてください」

「分かりました」


 やっぱり、褒められるのは嬉しい。

 幼い頃は厳しい教育で己の心を鍛え続けていたが、こういった伸び伸びとできる環境も必要なのだと実感する。

 私は席に座ってシールドの活用法が他にないか調べ始める。調べている途中、後ろの席から『あの人間、早すぎじゃね……?』といった声が聞こえてきた。少しは私の存在感をアピールできているようだ。


 クラス内での人間へのイメージは相当悪い。レアスキル持ちのユラネは、その高い実力から賞賛を受けたし、全員からドン引きされたアゲコも、自身の持つユニークスキルを発動して自身の強さをいつでも証明することができる。

 だが私は、『荒れ狂い』や『闇堕ち』、『暴走信者』といった、他に誰も持っていないあろう特殊すぎるスキルしか持っていないので、気軽に使うことができない。

 もしこの先、復讐を果たすためにこのスキルを使用すれば、生徒としての私と暗殺者としての私を比較されることで、万が一にもバレる危険性が出てくるのだ。


 なので余計な心配を減らすためにもレアスキルやレジェンドスキルで実力を証明をすることはできない。

 実力を証明する方法はなく、証明ができなければ悪目立ちして、証明をすれば復讐の道が閉ざされてしまう。ならば、どうすればいいのか?

 そうして私が取った選択肢はこれだった。それは、飲み込みの速さでクラスメイトを圧倒すること。つまりスキルの強さではなく、スキルを獲得する速度で優等生であることをアピールするというものだった。


 私は、おそらく人並み以上に感受性が豊かだ。普通は、両親が殺された程度で五年以上殺意を一秒たりとも忘れることなく持続させ続けることはできない。

 仕事をする。ご飯を食べる。トイレに行く。お風呂に入る。どんな人間や魔物も、これらの作業を行ううちに、一秒くらいは殺意を忘れるだろう。

 だが私は片時も忘れたことはなかった。復讐を遂げるという未来《答え》にたどり着くまでの道《式》を、脳内でイメージし続けた。

 なので、頭の中でイメージをするという一点においては、私は他の誰よりもずば抜けていることになる。

 悪く言えば、感情に囚われ続けている制御不能の愚図でもあるが、それは置いておく。

 私は、このイメージを強く描けるという強みを活かして、スキルの獲得やスキルの使用に応用していこうと考えたのだ。


 その結果がこれだ。覚えたのが初歩の初歩のスキルなので、クラスメイトに対して優位性を示すにはまだまだ足りないが、一目置かれてはいるだろう。

 私は無能であるというイメージを少しずつ払拭できていることを実感した。これからもこの路線で頑張っていくことにする。


「ねえ、ナキネちゃん……。ちょっと教えてほしいかも……」

「ん、いいよ。どこで苦戦しているの?」

「イメージがよく分からなくて……。どうすればいいの?」

「そうだね……。まずは、血液が体内を流れる感覚をイメージして、その血液を魔力だと思うように……」


 私は、ユラネにスキルを獲得するコツを教えながら、時々シールドを形成して時間を潰した。

 途中から先生役に回ってほしいと頼まれて、関わったことのないクラスメイトにもひたすらコツを教えまくった。

 私に対する印象は元々良くなかったようだが、優しく教えることを繰り返していくうちに、少しずつ打ち解けていったような気がした。

 このままいけば、クラスに馴染むのも不可能ではないだろう。そう思いたい。

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