13話「宣戦布告」
スキル獲得の授業を終えて、昼休みの時間になった。
私とユラネとアゲコとコネミの四人組で、食堂でそれぞれ注文して好きなものを食べる。
食事中、コネミが呟いた。
「他のクラスは知らないけど、少しずつ人間っていう種族が受け入れられている感じがするにゃね」
初めは人間というだけで疎まれていたが、その空気感が改善されつつあるというコネミの感想だった。
私は返す。
「ん、コネミもそう思う?」
「にゃ。獣人目線でもたしかにそう見えるにゃ」
「へえ……。この学園、単純に実力主義な人が多いから、実力さえ証明できたら素直に賞賛してくれるんだよね。そう考えると、私達のクラスの人間は全員レアスキル以上の強力なスキルを持ってるから、時期にクラスに馴染めるようになるかも」
「ふむ……。あれ、ナキネちゃんもレアスキル持ってたにゃ? 自己紹介のときは言ってなかったにゃ」
「あ」
やばい、忘れてた……。
ユラネ以外にはレアスキル、ましてやレジェンドスキルの存在を明かしていない。
しかも、バレてはいけないスキルしか持っていないので、気軽に披露することもできない。
どうしよう……。私は、アクシデントで固まり、頭が真っ白になってしまった。
「どんなスキルか教えてほしいにゃ! 気になるにゃ」
だが、コネミは構わずぐいぐい聞いてくる。
「え……っとぉ……」
答えなければ変に怪しまれてしまう。でもどうするのが最善なのかが分からない。
私がどうしようもなく困っていると、
「は、発動条件が厳しいんだったよね……? ナキネちゃん……!」
ユラネが咄嗟にフォローを入れてくれた。
思わぬ助け舟だった。
「あ、うん……! そうそう……!」
私は首を縦にブンブン振りながら肯定する。
なぜわざわざ他人に言わせたのかなど、多少ぎこちない部分は残るが、コネミは理解はしてくれたようで、
「ああ、スキルを披露したいときにできなくて、嘘つきだと思われたくなかったってことにゃね? それなら大丈夫にゃ。私は友達を信じるにゃ!」
「あ、ありがとう……」
自分でいいように解釈してくれたおかげで、その場は何とかなった。
焦った。ひやひやさせられた。まさか、こんなくだらないことで墓穴を掘ってしまうとは……。
次からは発言にも気を付けていかなければならない。ありがとう、ユラネ……。
私は反省して、次の話に移る。
「そういえば、クラス内でもグループが固まってきたけど、コネミは私達といて窮屈な想いはしてない? 大丈夫?」
「にゃ?」
「えっと……。私達が人間で、一人だけ獣人だから心細くなったりしてないかなって」
コネミは答えた。
「ああ、それなら問題ないにゃ。むしろ、他のグループにいたほうが窮屈な想いをしてたと思うにゃ」
私はそれに返す。
「え、どうして? 同種族とかのほうが親しみやすいと思うけど……」
コネミの答えは、実に衝撃的なものだった。
「それはにゃね……。語尾ににゃをつけて喋るのが、同種族内でもあまりいいイメージがないからにゃ」
「……はい?」
「前に、この語尾は高校デビューで始めたものって言ったのは覚えてるにゃ?」
「うん……。あくまでキャラ付けなんだよね?」
「そうにゃ。イメージチェンジのために、意図的に猫の語尾を真似始めたにゃ。そんでここだけの話、語尾ににゃをつけて喋ると周りから変人扱いされてしまうのにゃ……」
「ええ……」
「だから私、実はクラスでもちょっと浮いてるにゃ。アゲコちゃんと二人組でいることが多いから、類は友を呼ぶ的な扱いを受けてたり……」
「自ら破滅の道に進む高校デビューって一体何なの……?」
少なくともイメチェンではないだろ。私はそう思った。
やがて歩いていると、自分達の教室までたどり着いた。
私達は、鞄の中から着替えを持ってすぐに教室を出る。
午後の授業は訓練だった。基本的には五時間目に剣術の練習を行なって、六時間目に獲得したスキルを練習したり、クラスメイト同士で実戦を交えたりする。
激しい動きも行うので、体操服に着替えて行う必要があった。私達は更衣室へと向かう。
「前回は説明だけだったから、緊張するな……」
ユラネが呟いた。
「大丈夫だよ。みんな初めてだし、最初からできる人なんていないよ」
私は、少し萎縮しているユラネにそう声をかけた。
「それにしても、前世では考えられなかったなー……。魔法の授業とか、剣術の授業とか。創作物でしか見たことないから」
今度はアゲコが呟く。
「魔物とかいないもんね。逆にこっちでは、魔物のいない世界を想像して描かれた本がベストセラーになったこともあるんだよ」
「え、そうなの?! 想像できない……。お互いないものねだりしてるんだね……」
「そうそう。私からすれば、アゲコの世界のほうがよっぽど羨ましいんだけどね……。まあ、憧れる気持ちも分からなくはない」
私も、向こうの平和な世界で産まれていたら、愚かにもこの世界で産まれることを望んでいたのだろうか。
異世界という概念が実在すると分かってしまった以上、その世界について考えずにはいられない。
魔物がいないということは、もしかしたら言語を有する生物自体が数少ないのかもしれない。一つの種族が自然界を支配していて、文化を築き上げたり……?
夢が膨らむ話だ。可能ならば一度でもいいから訪れてみたい。日本とやらを。
そうしてしばらく歩いていると、更衣室へとたどり着いた。
私はドアノブに手をかける。
「……?」
ドアノブに手をかけると、私はちょっとした異変に気が付いた。
「中から何か聞こえる……」
それは、泣き声のようなものだった。
更衣室の中から話し声が聞こえるのは日常茶飯事だが、それとはまた違う雰囲気だった。
穏やかとは言い難い声が聞こえ、私は開けるのを一瞬躊躇した。
「ん、大丈夫にゃ。開けてもいいにゃよ」
「……うん」
私はコネミに言葉をかけられて、開ける決意をした。ゆっくりと扉を開き、中に入る。
中に入ると、その泣き声の正体がやっと分かった。
「……!」
それはいじめだった。
同じクラスメイトの鬼の女子グループが、三人組で一人の人間の女の子の胸ぐらを掴んで、暴言を吐いていた。
泣き声はその子のもので、涙を流しながら相手に怯えていた。
リーダーらしき人物が、その子に言う。
「あんたさ、何にもできないくせにこの歴史ある学園にいるけど、恥ずかしくないの? 私ならすぐに自主退学するんだけど?」
「ひっ……。ごめんなさい……」
「はあっ? 何謝ってんの? 私、当たり前のことしか言ってなくない? 事実をありのままに述べただけなんだけど。もしかして私が悪いの? ねえ!」
「違っ……! ごめんなさっ……」
「だから謝ってんじゃねえよ!」
明らかに度を超えた行動だった。私は、すぐに止めに入る。
「ちょっと……! 何やってるの? 少なくともやっていいことではないよね?」
リーダーが私に返す。
「何? 文句でもあるの? 私はただ、ここにいるべきではない無能に優しく教えてあげてるだけなんだけど」
私も返す。
「いや、いるべきだとかいるべきではないとか、そういう話じゃないでしょ。じゃあ逆に聞くけど、他者を思いやれずに脅迫するような子が、この学園にいるべきだと思うの?」
「うん、私は実力があるもん。ちゃんと選ばれてこの学校に入ってきた。でもこいつやあんたらは違う。牢獄の中にいた元犯罪者のくせに、試験も受けずに学園での生活を約束されてる。おかしいでしょ?」
「…………」
やっていることは間違っている。だが、言っていることは間違いではなかった。
元犯罪者という鼻につく言葉は置いておいても、私達は事実として試験をパスしている身だ。それをおかしいと思うのも無理はなかった。
だが私は、このタイプの者が聞き分けが悪く、何を言っても理解できないことを知っていたので、反論せずに一旦黙っておくことにした。
「え、何黙っちゃった? そっちから突っかかってきたくせに、正論言われたら黙るんだ。気持ち悪いね?」
(清々しいほど救いようがないな……)
さて、どう咎めるべきか……。
言って分からないなら、実力で示すしかないわけだが、正直に言えば示したところで得られるリターンは少ない。
これらを片して『いじめをするな』という口約束を結んだところで、このタイプの者がそれを守れるとは到底思えない。
最初のうちは守ってくれるかもしれないが、時期にいじめではないと言い張って再び嫌がらせを始める可能性がある。
せめて、何かもう少しメリットがあればいいんだけど……。
そうしてしばらく私が黙っていると、ユラネが私の背中に隠れながら私にぼそっと提案してくる。
「ね、ねえ……」
「ん、どうしたの?」
「六時間目のときにアゲコちゃんと実戦させるのはどうかな……? 誤解も解けて、圧力もかけられるから一石二鳥だと思うんだけど……」
「その手があったか……」
たしかにそれなら十分なメリットが見込めるし、ユニークスキル&レジェンドスキル持ちのアゲコが圧力をかけることで、下手に向こうも行動しづらくなる。
(いや、さらに一石三鳥にできるかも……)
だが私は、ユラネの提案のおかげで、ある策を思いついた。
いじめっ子を封じて、アゲコの誤解を解いて、さらに私のクラス内での地位を高められる私にとっての最善な選択。
私は、思わずにやりと下卑た笑みを浮かべる。
「な、何よ……。まさか、暴言吐かれて気持ち良くなってんの? やっぱり人間って気持ち悪いわっ……!」
私は口を開いた。リーダーに向けて言葉を吐く。
「いい加減黙ったら? 人間の入学によって学園の格が下がるのを気にする前に、慎ましさを覚えて学園の品位を下げないことを気にしたほうがいいと思うよ」
「はっ? 私は貴族の生まれなんだけど? 品がないのはどちら様で? 囚人さん」
「やっぱり短絡的だね……。生まれた地位なんてどうでもいいでしょ。大事なのは生まれてから何を成し遂げるかだよ。それとも、あなたは親の威を借りないと虚勢も張れないのかな?」
「はいはい、かっこいいね? 口だけは達者なようだけど、それを下民のあんたが口にしたところでまったく響かないんだけど? 貴族になってから言えよ罪人風情が」
私は返す。
「ああ、言い忘れてたね。たしかに私は囚人だったけど、囚人になる前は王女だったんだよね」
「……は?」
「知らないかな? オトナシ王国のオトナシ家。魔王軍に乗っ取られる前は人間界において最も地位の高い家柄だったんだけど」
「う、嘘……。まさか、あんた本当にオトナシ家の人間だったの……?! オトナシ家の人間は全員殺されたはずじゃ……?」
「いや、本当だよ。今生きてるかは分からないけど、私を含めた四人の兄弟姉妹は温情で殺されずに済んだんだ。もちろん、魔王様もまだ私が生きていることを当然把握しているだろうね。だから、べつに隠された真実でも何でもないよ。ただ、私がオトナシ家の王女だったという事実があるだけ」
「……っ!」
リーダーは、完全に何も言えなくなっていた。
それもそうだろう。唯一自分が優位に立てる地位ですら、負けてしまっているのだから。
まあ、私はもう王女でも何でもないのだが、今さら『でも今は王女ではないでしょ』なんてつらつら述べても、完全に言い訳にしかならない。
さすがにそこまで惨めな姿を晒すほど、落ちぶれてはいないらしい。私は、彼女に言う。
「あれ、黙っちゃったね。ご先祖様が築き上げた栄光にすら縋れなくなったけど、それであなたには何が残るのかな?」
「……」
「うん、言えないよね。だって、あなた自身は何もすごくないんだから。何もできないくせに、この学園にいて恥ずかしくないの? 私なら、自主退学しちゃうな……」
先ほど彼女が別のクラスの子に吐き捨てた言葉を、私が彼女自身にそのまま返す。
自分でもなかなか性格の悪いことを言ってしまったなと自覚はしている。
うまく言いくるめられて何も言えなくなったリーダーは、屈辱そうに地面を睨んでいた。
私は、一石三鳥になるその策を実行するために、あえて彼女を挑発した。
「見下している人間に品位と格で負けちゃったね。ここでは、たしか実力がないと無能扱いされるんだったっけ。なら、真に無能なのってあなたじゃない?」
「……は?」
「だってそうじゃん。人間が底辺とかどうのこうの言ってるけど、少なくともこのクラスの人間は全員実力者だよ。わざわざこんな所で他クラスの子をいじめてたのって、私達が優秀すぎて手を出したらボコボコにされちゃうからでしょ? 雑魚だね」
「んなわけねえだろっ!」
リーダーは、怒りを抑えきれずに拳を私に目掛けてまっすぐ振るってくる。
私は、横から彼女の手首を勢い良く掴んで、攻撃を防いだ。攻撃が届かなかったことに驚く彼女に対して、私は提案をする。
「そう思うなら戦おうよ。六時間目では実戦の練習ができるし。クラス全員の前で実力を示せるんだから、受けないはずないよね?」
リーダーは間髪入れずに答える。
「は? 当たり前でしょ。人間ごときに負けるほど私は弱くない。受けてたってやるわ」
「うん、威勢がいいね」
「それで、勝負の細かい内容は? 後ろのビビりと嘘つきとやってもつまらなさそうなんだけど」
「んー、そうだね……。ちょうどここには三人の人間と鬼がいるから、一対一なんてどうかな。スキルの使用は先生の説明に合わせた通りに行う。勝利条件は勝った数が多いほうの勝ちってことで。どう?」
「ふん、全員泣かせてやるわ。覚悟しておくことね。行こっ? 二人とも」
「あ、うん……」「おう……」
リーダー達は、そう言って更衣室から去っていった。その場には、私達といじめられていた子だけが残された。




