95 ウエスタン市は、久しぶりのようです
久しぶりに戻って?来ました。
次の日、朝5:00に起きたら、既にブラウン子爵は起きていて、馬丁と共に栗毛の馬に鞍をつける作業をしていた。朝食までの間、馬の運動を兼ねて領内を見て回るそうだ。領地の北部に1つ、南部に2つの村があり、それぞれ遠くはないが、昼間帯は忙しくてなかなか行けないそうだ。護衛は2騎の騎士だけで、馬の負担が少ないように軽鎧の装備で乗馬している。今日は、10キロほど北にあるナガレ村まで行ってくるそうだ。街道沿いの街や村は、市からそれほど遠くないところにあるのは、農産物や特産品の搬入や生活必需品の購入のために、農村は都市と密接な関係にあるからだ。それが、街道沿いの宿場町の性格を有しているこれまで通ってきた町村と違うところだ。
「ちょうど良かった。私も一緒に行きますよ。」
「はい?そ、それじゃあ馬を用意させますね。」
「いえ、大丈夫です。私は、走りますから。」
「え?走る?あのう、走るって、馬に乗らずに走るんですか?」
「大丈夫ですよ。いつもやっていますから。」
おそらく、人を乗せた普通の馬よりは速いだろう。」
「領主様、私達もご一緒します。」
グレイ達も一緒に走るそうだ。まあ、時速15キロ位なら、ずっと走り続けることができるだろう。北の村まで往復約20キロ、いつもの早朝駆け足の距離だ。
「よし、それじゃあ出発。」
私の号令で、全員が走り始める。市の北門の門番さんは、『ダダダッ』と駆け抜けていく私たちに驚き、その後から騎馬に乗った領主様一行が、追いかけていくのに二度驚いたようだ。
ナガレ村に着いたのは、6時前だ。だいぶ遅れてブラウン男爵達が到着した。ミラの入り口には村長らしき男性が待っていてくれた。領主が早朝に巡視に来るのは恒例なのだろう。
「やあ、村長、変わりはないか?」
「おはようございます。坊っちゃま。村の皆も元気です。今年は、年貢が少なく、収穫祭も盛大にすると張り切っておりますだ。」
村に入らず、門の外で汗を拭いている私達が気になるようだ。そりゃ10人以上の男女が土埃を立てながら駆け足でやって来たら警戒するよね。
「村長、心配しなくても大丈夫、この方は新領主のウエスタン侯爵とそのお供の方々だ。今日は、私の巡視に随行してくれたのだが、町から走って来られたのだ。」
もう、村長は目を白黒している。
「お初にお目にかかる。私は、この地を預かるフレデリック・フォン・ランカスター・ウエスタンです。以後、ご昵懇にお願いする。」
もう、村長さん、その場で土下座をして、頭を下げたまま
「知らぬこととは言え、失礼しました。私は、この村の村長のエイブと申しますだ。力が及ばないことばかりですが、どうかこらえてください。」
「エイブ村長、頭を上げてください。何か、困ったことはありませんか?」
「いえ、とんでもねえです。ほんとに最近は良くしてくれて。もう、見たこともないほどの豊作で。ありがたいこってす。」
「いや、本当に困ったことがあったら遠慮なくいってくださいね。」
さあ、町に帰ることにしよう。帰りは、身体強化を使ってダッシュで帰ろう。私は、全員に身体強化をかけてあげて、平均速度30キロ位で街に向かった。もちろん、ブラウン子爵達一行がついてこれる訳ないのだが、もともと私たちの鍛錬のための駆け足だし、いつもの駆け足なので、遠慮なく走らせてもらった。
結局、ブラウン子爵が戻ってくるまで、1000本素振りと形の練習も終えることができたが、いつもの早朝稽古内の時間に終わったのは勿論である。
◆
翌々日の夕方、私たちはウエスタン市に到着した。ウエスタン市に入る前にすべてのオートマトン兵を『ストレージ』から出し、分隊ごとに3列縦隊で整列させて東の城門から入っていく。もちろん、先頭は私たちの乗った馬車で、続いて騎馬に乗った騎士団10名、それからオートマトン兵300体である。街の人達は、初めて見るオートマトン兵に驚くやら、喜ぶやら。まあ、この領内の騎士団が消滅してから、街の防衛力は衛士隊のみに任されていた訳だがやはり大規模な盗賊団や大型の魔物に対しての抑止力というと騎士団にはかなわないのだろう。そのことを良く知っている市民の方々は1日千秋の思いで騎士団の再編成を待ちわびていたはずだ。
ここに来るまでの間に、ベンジャミン卿とフラナガン隊長にクロウズさんのことを聞いたら、騎士として登用するのは全く問題がないとのことだった。とくにフラナガン隊長とクロウズさんの父親のジオグリア・フォン・ケインズ子爵は、騎士学校の同期で、ケインズ子爵が内乱に呼応した際には、考え直すように説得したが、武門の義理と忠誠を誓ったダメンズ家を裏切られないと言って、泣きながら僅かな部下を連れて出立していったときに、黙って見送ったことを今でも悔やんでいるとのことだった。もう、クロウズさんの処遇は決まった。ウエスタン城に到着し、旅装を解く前に、大広間で、クロウズさんの騎士叙任の儀式を行う。お互いに旅装を解かず、ベンジャミンさん以下、皆は左右に並んでいる。
下座にクロウズさんを頂点として、仲間2人が3角形の形で膝ま付いている。3人とも、頭を下げたままだ。グレイが1人ずつ、名前を読み上げる。
「騎士に叙任される者、クロウズ卿」
クロウズさんは頭をさげたままだ。私は、騎士用のショートソードを持ち、刃体を横にして、クロウズさんの右肩にあてて口上を述べる。
「クロウズ卿、そなたをウエスタン騎士団騎士として叙任し、騎士爵を授ける。以後、クロウズ・フォン・ケインズと名乗り、ウエスタン騎士団団長の任に当たれ。」
クロウズ卿は、そのままショートソードを受け取り、頭を上げて、自分の額に剣をあて、
「クロウズ・フォン・ケインズ、主ウエスタン侯爵閣下の騎士に任じられ、閣下の剣となり盾となることを誓います。」
ゆくゆくは、子爵に叙任して、ケインズ領の領主となるだろうが、それまでは我が騎士団の面倒を見てもらいたい。グレイは、副団長に降格となるが、王都屋敷の騎士団長を任せるつもりなので問題ない。やはり、土地勘のないグレイよりもクロウズ卿の方が騎士団員の募集から領内市町村を回って治安維持をするのにも適任だろうとの皆の意見だった。
久しぶりのウエスタン城だ。ベス嬢は、初めての訪問となるので、やや興奮気味だ。まず、屋敷内で働く執事やメイド、それとシェフなどが挨拶をする。ベス嬢は、手慣れた所作で、挨拶を受けている。それから、執事の案内で場内の確認だ。この執事さん、ベンジャミン卿がダメンズ元侯爵家で働いていた執事全員と面接をしてくれて決めたらしいが、このお城で家令を務めていた方だったらしい。ダメンズ元侯爵の人身売買などの犯罪には全く加担していなかったので、職を解かれただけで処分はなかったらしいのだが、ベンジャミン卿から商業ギルドを通じて執事募集の案内を見て応募したらしいのだ。
名前をチェロスさんと言うそうだが、何故か『セバス』という名前を思い浮かべてしまった。何だろう。知り合いに『セバス』なんて人はいない筈なのだが。このお城には、12歳の時に先々代のダメンズ侯爵に執事見習いとして登用され、それから40年にわたって、侯爵家を守り続けてきたらしい。
チェロスさんから、このお城を侯爵家らしく維持するためには、圧倒的に人が足りないと言われた。そのことは、ベンジャミン卿からも何度もいわれていたのだが、誰もいないお城に使用人ばかりいても仕方がないと思い、放置していたのだ。だが、来客が来た場合や、王族などの賓客が来た場合に、今の人員では全く対応ができないそうだ。うん、まあそうだね。そのことについては、チェロスさんに任せることにしたので、ベンジャミン卿とよく相談して決めて貰いたいとお願いしておいた。
家令は、これで決定したのだが、メイド長をスザンヌさんにお願いした。スザンヌさん、まだ私と行動を共にしたいようだが、その辺はジュリにお願いして、このお城でメイド長として力を発揮して貰うことにした。スザンヌさん、さっそく、城内のメイドとシェフ、それと洗濯や掃除をする下働きの使用人たちを集めて挨拶をするそうだ。うん、挨拶って大切だよね。
ウエスタン市、人口激増中。現在5万3千人です。
次話は、明日、6:00に投稿します。




