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90 カルチェ・ラタン市は人気が無いようです。

王都から、ウエスタン領にいくには、ゾリゲン男爵領、シュリンガー男爵領を通過していかなければなりません。

   「こらこら、お前達、勝手に入ったらいかん。並ばんか!」


   「私達は、ウェスタン領に行く途中です。こちらの馬車にはウェスタン侯爵が乗っておられます。」


 騎士団長のグレイが、自分達の立場を説明する。しかし、この衛士さん、どうもピンと来ていないみたいだ。


   「誰が乗っていようが、並んで待つのがマナーだろう。大体、そんな荷馬車に毛の生えたような馬車に侯爵様が乗っているわけないだろ。」


 確かに、この馬車は侯爵用の馬車ではなく、兵員輸送用の馬車だ。しかし魔改造により、乗り心地が良く重量も極端に軽量化しているため、馬に負担が掛からないようにしている。でも、そのことが、どうやら単なる兵員馬車と見られたようだ。しかし、グレイ達は騎士としての姿格好なのに、一般用の門に並べとは少し変だ。普通、騎士だけでも、これだけの部隊になると、貴族用の大門を開けて通してくれるし、それが騎士達の主である貴族への礼儀でもある筈なのだが。


 一般用の門を見ると、並んでいる人は5人程度なので、ここで変にごり押しせずに並ぶことにしよう。そう思ったら、その衛士さん、馬車の後ろの荷台に乗せられている盗賊の首領に話しかけてきた。


   「ドンキさん。どうしたんですか。何で、縄で縛られているんですか?」


 あれ、この衛士さん、盗賊の首領と知り合いみたいだ。


   「おい、このドンキさんは、この街の有力な商店主だ。一体、何をしたんだ。というか、早く縄をほどかんか。」


   「え、こいつは盗賊の首領だぞ。東の丘の近くで襲われたんだ。」


   「そんなバカな。よし、分かった。この男はこちらで預かろう。処置は追って知らせるので、後で衛士隊本部に来い。」


 グレイは、馬車の扉を開けて、あの男の措置について私に確認を取りに来た。


   「まあ、あいつは衛士隊に渡しておこう。その後、どうなるかは事情を調べてからだ。」


 馬車の後部荷台から降ろされた首領は、部下の衛兵に縄をほどかれ、衛士事務所の中に入っていった。うん、この街の衛士隊、結構腐っているかも知れない。その後は、馬車の中を検査もせずに城門の中に入れた。うーん、中に入れたのは良いが、これでいいのかと思ってしまう。


 誰そ彼時の街は、皆自宅に帰ったのかひっそりとしている。馬車の車輪の音だけが石畳に響いて、もの悲しげな音が聞こえてくる。騎士達は、騎馬から降りて手綱を引きながら馬車の跡をついてくる。町の中心部にある広場に面したホテルの前に馬車が停車した。すぐにスザンヌさんとジュリちゃんが馬車から降りて、ホテルの中に入っていく。今日の宿泊予約をするのだろう。私とベス嬢は、ドアが開けられるのをじっと待っている。すぐに、ホテルの前に立っているドアマンが降車台をセットして馬車の扉を開けてくれた。まず、私が降車する。レディファーストのマナーとしては、馬車のような大きな乗り物に乗る時は、女性から乗車し、降車の際は、男性が先に降車して女性をエスコートすることになっているそうだ。前の世界では、馬車に乗ることなど絶対になかったので、女性がタクシー等に乗ってから腰をずらすことのないように、男性が先に乗車して奥にずれるのがマナーらしい。だんだん、レディファーストが分からなくなってきたが、今回は、私がベス嬢の手を取って、エスコートしてあげることにした。ベス嬢、なんとなく誇らしげな顔をするのは恥ずかしいからやめなさい。


 侯爵家当主として、ドアマンにチップを渡すようなことはしない。それは、侍従もしくは侍女がする仕事だ。そのまま、ホテルの支配人らしい男性の案内で、3階にある貴賓室に行く。いつものとおり、スイートルームだ。支配人が、部屋の中に入ってきて、リビングのソファの前で、膝間づいた。これから挨拶があるのだろう。スザンヌさんとジュリちゃんがお茶を準備している。私は、支配人にもソファに座ってもらって、市政について質問した。この支配人、結構な年配なのだが、緊張しているのか汗をダラダラかいている。うん、何もしないから落ち着こうね。


 支配人の話によると、以前のガンズ元伯爵の時は、この街は賭博や売春、そして違法ドラッグが主な産業で、組織の主だった者達が逃げ出した後は、街がさびれる一方だそうだ。当時の元伯爵配下の連中でうまく立ち回った者は、衛士隊や行政庁の雑用などの職に就いているが、生来の怠惰で粗暴な性格が直るわけもなく、街の治安は以前にもまして悪化しているそうだ。それに、高率だった年貢や税金も、他の領地並みにはなったが、ウエスタン領は、今年は無税だし、来年以降も軽減税率が適用されると聞いて、この街に見切りをつけてウエスタン領に移住する者が後を絶たないそうだ。


 夕食後、部屋で休んでいると、行政庁のミライト行政官が訪問してきた。私の直接の部下ではないが、侯爵としての私の寄り子であるシュリンガー男爵がここの領主であるから、表敬訪問という名の市政説明に来たようだ。詳しく聞いてみると、この領地内は壊滅的な状況らしい。まず、借金が凄まじい。現在、国に治める上納金は免除してもらっているが、それでも、5割の税金、年貢の収入は同じ広さと人口の領地の7割ほどしかないそうだ。これは、風水害の被害があっても復興工事が全くなされなかったツケが今になって響いているのと、広さのわりに耕作面積が狭いことが原因だそうだ。


 高い税金や横暴な領主により領を脱出する農民や商人が多く、結果、農業や産業が疲弊し脆弱になっているのだ。また、公務員特にゴミ集めや土木作業等の刑作業従事者や衛士の給料がバカ高く、領財政を圧迫しているとのことだった。うーん、聞いているだけで問題点ばかりだ。あと、今日の城門での出来事について聞いてみると、どうやら衛士として採用された闇組織の構成員達がそのまま、居座っていたらしい。もともと伯爵領だったころの衛星都市だったこの街は、規模も小さく、衛士隊といっても50名程度しかいなかったそうだ。それがガンズ元伯爵が追放されたドサクサに紛れて衛士隊に入り込み、現在は衛士隊だけで100名、それにごみ収集や道路清掃等の軽作業員が80名もいるそうだ。この軽作業員達は、1日何もしないで事務所で酒を飲んだり博打をして遊んでいて、それで月に金貨4枚も貰っているそうだ。ミライトさんが、何回も賃金の値下げや人員整理を申し入れているのだが、まったく聞く耳を持たないそうだ。


 衛士隊の隊長は、衛士見習いとして拝命してから40年間務めてきた方で、実直を絵にかいたような人だが、ナンバー2に闇組織出身者が就任してから、人事や部隊編成等に関して口出しができない、いわばお飾りのような立場になってしまったそうだ。というか、もう定年ではないのかと思うのだが、ミライトさんの話では、この隊長にやめられると衛士隊の横暴に歯止めがかからなくなるため、なんとか退職を引き延ばして貰っているそうだ。取り敢えず、明日、行政庁に顔を出すことにして今日は解散することにした。




 次の日、行政庁に行くと、ほとんどの職員が1階のホールに集まっていた。およそ120名ほどだろうか。この120名で、領都であるカルチェ・ラタン市と領内にある1市3町7村すべてを見るのは大変だろう。あと、壁際には、作業委をだらしなく来て,ニヤニヤ下卑た顔の男たちが80人ほどいた。こいつらがミライトさんが言っていた仕事をしない軽作業員達だろう。


 私は、この市の直接的な領主ではないので、市政演説などはしないがウエスタン侯爵としての配下にあるこの市の当面の方向について説明する。


   ・今年納められた税金、年貢の半数を納税者に還付し、来年度は税率を2割5分に半減する。


   ・現在の衛士隊、軽作業員は隊長を含め現在時をもって全員解雇する。装備品や資材を返納し、今日までの給与を貰って解散すること。


   ・軽作業は、孤児院や民間の商会に委託するが、商会には年間作業を委託し、競争入札により一番廉価な商会に委託を決定する。


   ・衛士隊については、新規に採用試験を行うが、その間、我がウエスタン騎士団2個分隊が衛士業務を代行する。


 この世界では、退職金という制度はないし、失業保険もない。そのため、衛士隊や軽作業員達は蓄えがなければ明日からの生活もできなくなるだろうが、そんなことは関係ない。もともと市に就職などできなかった連中なのだ。さあ、今日から忙しくなるぞ。

フレデリック君、何処に行ってもトラブル続きですね。

次話は明日、6:00に投稿予定です。

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