89 カルチェ領も大変なようです
カルチェ領は、シュリンガー団長が領主として赴任していないので、王国から行政官が領内行政を一任されています。ディオール領都同じですね。
ディオール男爵領のすぐ南西側がシュリンガー団長が納めるカルチェ領だ。しかし、王城守備騎士団長をしているシュリンガー団長が、領地にやってくるのは何年先になるのだろう。
カルチェ領の領都は、カルチェ・ラタン市と名付けられている。元々は、ラタン氏だったが、その上にカルチェを付けただけの安易な名付けだ。でも、どこかで聞いたことがあるような気がする。
幾つかの村や町を通過して、小高い丘の脇を遠ていた時だ。街道に大きな馬車が、横向きになって止まっている。流石に、これでは横を通り過ぎることができない。グレイ団長が、我々の乗っている馬車に近づいて来た。
「領主殿、お気を付け下さい。盗賊が我々の進路を邪魔しているようです。」
うん、盗賊が馬車を狙う時の常套手段だよね。これで停車すると、次は弓矢で御者や護衛の兵士や冒険者を狙うんだよね。まあ、馬車は2台だけだし、騎乗している騎士が10騎だけだから、彼我の勢力から与し易しと思ったんだろうね。
「グレイ、騎士達だけで対処してみて。」
ここで待ち伏せされていたことは、ティムの從魔ハクの偵察で分かっていた。およそ50名、その内アーチャーは6名程だった。騎士達は、飛んでくる矢を剣で叩き落としていたが、御者をしているオートマトン兵は、避けるでもなく矢が刺さると言うか、当たるままに任せていた。表皮は、魔物の皮から錬成した人工皮膚だが、その下は、鉄より高度が強いハイブリッド合金だ。余程強力な弓でない限り、刺さる訳がない。
皆、馬車の陰で下馬して隊列を組む。勿論、戦闘はタンク役のジョリアンナとボブが先頭だ。グレイが、タンクの2人の間から、敵のアーチャーを無力化していく。こちらは威力抜群のクロスボウだし、次矢の装填はスカウトのベントとミロが行っている。敵のアーチャーがおとなしくなって来たところで、敵本体が姿を現した。槍や長い棒に鉈を付けた薙刀のような武器を持っている者もいる。剣を持っている者は、全体の3割と言うところか?
直ぐに戦闘になるかと思ったが、盗賊の中から無精髭を生やした首領らしき者が出て来た。特に強度は感じないが、身体だけはクマほども大きい男だ。
「お、大人しくか、金、金を出せ。こっちは100人もいるんだぞ。お、お、おん、女がいたら、こ、こっちへ来い。」
うーん、酷い吃音だ。
それに、あなた達、精々50人でしょ。後の50人、どこにいるんですか?グレイが、クロスボウを背中に背負い、抜剣してから大声で答えた。
「我がウエスタン領騎士団に向かってくるとは笑止、我が剣の錆にしてくれる。命が惜しくなければ、かかって来い。」
「くそう!野郎ども、構わねえ。皆殺しだ。」
えーと、その後の事は、余りにも酷くて、見ていられなかった。うちの騎士達、こんなに強かったかな?と言う位、一方的で、20人位を切り倒した所で、残りの連中が潰走し始めた。まあ、接近戦になったら3m以上もある槍なんか使える訳ないし、敵のナマクラ剣では、バックラーで簡単にパリイ出来ちゃうし。あれ、首領も逃げ始めちゃった。ティムが、ハクに命じて首領の頭を攻撃させている。鷲に顔を引っかかれるなんて、エグすぎるシーンだ。首領は、土下座のような格好で蹲ってしまった。
戦いは終わった。敵の犠牲は23人だった。我が方の被害はゼロ。これから楽しい盗賊アジト見学だ。あ、その前に、敵の死体を処理しなくては。先ず、売れそうな武器が無いかと調べたが、持って運ぶだけ無駄な武器ばかりだった。次に金目の物が無いかと、身体を調べたが、小銭だけしかなかった。
後は、首領の案内で、アジトまで行くことにしたが、私は馬車でお留守番だ。グレイ達10人の騎士達に、アジト内の捜索を任せることにした。臨時ボーナスが出るくらいの財宝があれば良いんだけど。
私とベス嬢達は馬車の外に出てお茶にすることにした。準備は、勿論スザンヌさんとジュリちゃん、それとオートマトン初号機だ。10月中旬といえば、野外の活動には最適の季節です。簡易竈門にポットを置いて、魔石エネルギーでお湯を沸かすので、簡単かつ安全です。テーブルセットを出してベス嬢と二人でまったりとしていた。
「ねえ、フィレ君は、空を飛べるでしょ。どうして、今回は馬車で行きますの?」
「うーん、移動速度だけじゃなく、騎士団の遠征訓練も兼ねているんだ。それとオートマトン兵の燃費も調べたいし。」
「燃費?」
「オートマトンは、魔力つまりエネルギー体である魔素を使って動いているんだけど、体内の魔石に満タンにした魔素でどれだけ活動できるか、単なる行軍とか、夜間の警戒時、それと戦闘時などでの消費量を知りたかったんだ。」
「へえ、それで何か分かったのですの?」
「単なる行軍だけだったら3日間程度は大丈夫みたいだ。戦闘時は、ハッキリとは分からないけど、通常活動時の3倍程度の消費量みたいだね。」
「でも、それじゃあ3日に1度は、魔素を満タンにしなくちゃいけないのではないですの?」
「あ、それは大丈夫。空間収納に魔力満タンの魔石も一緒に入れてると、いつのまにかオートマトンの魔素も満タンになっているんだ。いわば、オートチャージだね。」
「オートチャージ?何ですの?初めて聞く言葉ですわ。」
あ、この世界にはない言葉か。
「自動的に魔力を充填する機能のことだよ。」
「ふーん、変わった言葉ですのね。」
それだけで、興味を無くしたらしい。スザンヌさんが出して来たマカロンをモグモグ食べ始めた。私は、グレイ達騎士団の気配を探索した。最近は、1キロ程度なら所在地がピンポイントで探索出来る様になっている。さらに、グレイ達の様に、魔力の質が分かっている場合には、個別の情報も分かるので、他の人や魔物達と混在していても、間違えることがない。グレイ達は、ここから800m位離れた場所に集まっている。おそらく、そこがアジトなのだろう。
それから1時間位して彼らが戻って来た。勿論、盗賊の首領も一緒だ。彼は、次の街で衛士隊に引き渡す予定だ。手配が掛かっていれば賞金が、手配されていなくても報奨金が貰える筈だ。
そして、お楽しみは戦利品だ。現金は大した事は無いだろうが、直ぐに換金できない宝飾品や魔道具が埋蔵されていた筈だ。グレイ達が、戦利品を並べる数は大したことがないが、それなりに価値があるものばかりだ。適当な街の冒険者ギルドや商業ギルドで売ることにしよう。現金は、大金貨が6枚、金貨が19枚。銀貨が3袋ばかりだった。
この世界では、盗賊から押収した財貨や武器は、押収者の物という大原則がある。これは、シリアルナンバー等の習慣のないこの世界では、一旦自分の手を離れてしまえば、自分の物という証明ができないことと、記銘等があって自己の物と証明できても、謝礼金も含めて相当の対価を支払わなければ返還請求が出来ないという決まりがあるからだ。
まあ、自分の物を誰かに売却させて、購入者に自己の物だと言って無償返還を強いる詐欺が横行したことで決められたルールらしいけど。似たようなルールに、魔物に殺された被害者の所持品は、発見者の物になると言うルールがある。これは、ダンジョンや森の中で遺体を発見しても貴重な武器・防具を誰も持ち帰らなくなるのを防ぐと言う目的があるらしい。
さあ、今日中にカルチェ・ラタン市に到着するだろう。そう言えば、カルチェ・ラタン市の行政官にあった事は無かったような気がする。まあ、ホテルに挨拶に来るだろうから、あまり気にしないでおこう。
カルチェ・ラタン市は、ウェスタン領に行く東西の街道のやや北側に位置しており、立ち寄らずにスルーすることもできるが、ここに立ち寄らないと、宿泊も野営になってしまうので、全ての旅人が立ち寄っている。市の南側には、大きな城門があり、衛士さんが出入りのチェックをしているのも、他の都市と一緒だ。だけど、それからが大違いだった。
「こらこら、お前達、勝手に入ったらいかん。並ばんか!」
私達は、いつものように貴族用の門の前まで進んだところで、年配の狐目の衛士に注意を受けてしまった。
あら、あら市内に入る前に問題発生ですか。」
次話は、明日、6:00に投稿予定です。




