86 魔物退治をするようです
今回は、久しぶりの戦闘回です。
ネオ・ディオール市に到着したのは、王都を出発してから2日目の夕方だった。10騎の騎馬に乗った騎士達を見た門番の衛士は、直ぐにウエスタン侯爵家麾下の部隊と分かったらしく、ノータイムで城門を開けてくれた。私達は、まっすぐ市の中心部にある定宿のホテルに向かった。
ホテルは、ネオ・ディオール男爵つまりゾリゲン団長の屋敷に隣接していて、市内一の高級ホテルだ。ホテルで一息ついたところで、早速、行政官のフレイズさんが面会に来た。フレイズさんは、市行政庁に小間使いとして勤め、苦節35年、50才になろうという時に、行政庁トップの行政官になった方だ。行政庁は、男爵邸の真ん前なので、そんなに距離はない筈だが、物凄く汗をかいていて、しきりにハンカチで顔を拭いていた。
応接室で待っていたフレイズさんは、私が入っていくと、直ぐにソファから立ち上がって、臣下の礼をとった。フレイズさんは、最近、王室行政官の職を辞し、正式にネオ・ディオール市の市長になったそうだ。つまり私の寄子であるゾルゲン男爵の部下なので、私に対して臣下の礼をとったというわけだ。まあ、7歳の私としては、苦笑いを浮かべるしかないのだが。
しかし、フレイズ市長は単に表敬訪問しに来たわけではなく、ある依頼があって来たそうだ。
「ウエスタン侯爵閣下、お願いがあります。当市の南の森に魔素だまりが出来てしまい、高レベルの魔物が発生し続けているのです。近隣の村人に被害が出ており、看過出来ない状況なのです。是非、今回お連れの騎士団により鎮圧していただきたいのですが。」
「あれ、王都の騎士団はどうしたのですか?」
「要請は出したのですが、どうも王都周辺での魔物の出没が活発化しているようで、こちらに回ってくるのは早くても今年の冬だと言われてしまって。」
「そうですが、それで魔物の種類は何ですか?」
「報告によると、グリーンラプタとレッドラプタの群れらしいのですが、鱗が固くて遠距離攻撃が全く効かないとのことでした。」
ラプタは、2足歩行の亜竜で、翼は無い。大きさは高さ2m位で、単体では驚異度Cランクだが、群れになるとAランクに跳ね上がる。前の世界で大ヒットした恐竜映画に出てくる、小型恐竜に似ている魔物だ。普通は森の奥深くに生息しているのだが、草原や人家近くに出てくるとなると厄介だ。
「冒険者ギルドに要請は?」
「勿論、早い段階で出したのですが、Aランクパーティーが全滅してから、もう誰も受注してくれなくて。」
「被害は?」
「森の近くの村2つの住民が、当市に避難して来ていますが、まだまだ被害が増えそうです。」
「了解しました。明日、討伐部隊を編成して向かってみます。」
次の日の早朝、行政庁前の広場にウエスタン騎士団全員が整列した。騎士団員10名とオートマトン兵300体だ。騎士達は、騎馬に乗り自分の小隊の先頭を進んでいる。第1、2小隊は槍隊だ。大型の盾と2m以上ある槍を装備している。第3、4小隊は弓隊だ。弓といっても破壊力のあるクロスボウを装備している。第5、6、7、8小隊は白兵隊で、片手剣とバックラーを装備している。残りの2個小隊は遊撃隊として、移動速度重視の軽装備だ。
私達のことは、事前に北の魔物討伐に向かうことが発表されたこともあり、大勢の市民達が見送りに来てくれた。
北の城門を出ると、ずっと麦畑が続いている。私は、ホワイトの馬上から右手を上げ、前後に振りながら、号令を発する。
「第2行軍速度、駆け足、前へ!」
第2行軍速度は、概ね時速10キロだ。オートマトン兵は、盾や槍を小脇に抱えて、やや前傾になって走り始める。
ザッシャッ、ザッシャッ、ザッシャッ、ザッシャッ、ザッシャッ、
金属のプレートが入った安全靴が地面をけっていく。一糸乱れず気持ちが悪いほどの統一感だ。先頭の私の速度、つまりホワイトの駆け足速度に合わせてついてくる。はっきり言って、騎士達の乗っている騎馬が付いてこれるだけの距離が、行軍距離だ。1時間走り続けたら、30分の休みを与えなければ、馬たちがへばってしまう。ホワイトは、ほんのりと汗ばんで来る程度だが、他の騎馬たちは、滝のような汗をかき始めている。うん、この調子だと、今日の行軍は、50キロ程度かな。北の最初の村は、アイル村と言う村で、領都から80キロ程北東に向かったところにある。主な産業は、農業と酪農だと言っていた。普通は、駅馬車で2泊3日の旅程らしいが、私たちの行軍速度なら明日の午後早くに到着するだろう。
今日は、夕方に野営地に到着した。周りは小高い石垣で囲まれており、井戸がいくつか掘られているところだ。大型のテントを2張り設置し、女子組と男性騎士の組に分かれて泊まるのだ。私は、小さめのテントで一人で泊まる。まあ、私と一緒では他の騎士達もゆっくり休めないだろうし。周辺の警戒は、もちろんオートマトン兵だ。こういう時、睡眠をとらなくても済むオートマトン兵は便が良い。
夕食後、皆が寝静まった頃、キャンプ地の外で戦闘音が聞こえてきた。どうやら何かがオートマトン兵と戦っているようだ。騎士達も、ガチャガチャと設営地の外に出ていく。私も外に行こうと思ったが、気配から察するにせいぜい10体位の魔物がいる位だったので、任せることにしてもう一度深い眠りについた。
翌朝、グレイ団長から昨日の戦闘について報告があったが、どうやら腹をすかせたオーク10匹が接近してきたらしい。3匹は、オートマトン兵のクロスボウの餌食となり、残りの7体も槍や剣で殲滅したそうだ。戦闘部隊は、当時立哨していた30体のうち、10体のみで戦ったらしいが、こちらの被害は皆無、いわゆる圧勝だったらしい。オークの死体を検分したところ、クロスボウは、胸や頭の急所を貫通するほどの威力で射抜いており、また、剣で倒されたオークの傷口は、まさしく一刀両断、かなりの膂力で切り下された剣で左右や上下に切断されている。うん、かなりオーバーキルだったみたいだ。
次の日、アイル村に到着するまで、たびたび魔物の群れと遭遇した。ゴブリンやオークのような人型から、ファングボアやマッドベアなどの獣型などいろいろだったが、すべてに共通して言えるのは、こちらが300体以上の大部隊であるにも関わらず、逃げることなく向かってくることだった。特に、ゴブリンなどは、絶対に逃げるはずなのに、なぜ逃げないのだろうか。結局、アイル村に到着したのは夕方近くになってしまったが、無人の村には、明らかに瘴気と思われるものが満ちていた。この感じは、以前、チロル村に行ったときに感じたものと同じだ。ティムの従魔であるシロに上空から監視して貰ったら、かなりの数の魔物が徘徊していることが分かった。魔物は、他の魔物や動物そして人間を襲うが、肉食というわけでもない。奴らの主たる摂取エネルギーは魔素または今回のような瘴気と呼ばれる負のエネルギーだ。
時間的に、夕やみが迫ってくる頃だ。これから部隊を村に突入させると、戦闘が夜間になってしまう恐れがある。そのため、いったん、安全な距離まで下がって、明日の朝、村内に突入することにした。村の周辺を徘徊する魔物達は、接近してきた魔物のみ対応することとし、騎士達は半数ごとに仮眠をとることにした。あ、私は、完全に睡眠をとらせてもらう。なんてったって、未だ8歳なんだからね。
翌朝、目が覚めてみると、キャンプ地の周囲では、まだ戦闘が継続していた。このままでは、ゆっくり朝食も摂れないので取り敢えず、魔物の群れを村まで押し戻すことにする。
「各分隊、3列横隊を作れ。先頭、第1分隊から第3分隊。抜刀、前へ進め。」
オートマトン兵は、10人で1列横隊になり、その横隊が3列で1個分隊、その分隊が3個体、横並びになって前進を始めた。騎士達は担当分隊の後方に位置して、全体の動きを見ながら、適宜、指揮を発している。
凄まじい戦闘が各所で発生している。後続の部隊は、戦闘中の部隊を置いて前に進んでいき、新たな魔物と接敵・戦闘を開始している。相手の戦力が一か所に纏まってきた段階で、両翼の部隊がそれぞれ挟撃するように前進し、魔物達の完全殲滅を図っている。私は、部隊の上空に浮遊し、飛翔型魔物に対する警戒と、地上の魔物に対する9ミリパラベラム弾による各個攻撃を開始した。
「バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ!」
バタバタと魔物達が倒れていく。着弾した際、頭部や体の主な部分が爆散してしまう。もう、ジェノサイドとスプラッターのミックス映像となってしまった。
うーん、本当は一人で処理した方が早いような気がします。
次話は、明日、6:00に投稿します。ストックがなくなってしまったので、ぼちぼち投稿していきます。




