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62 ようやくネオ・ディオール市のようです。

 旧アル・ガンズ市はネオ・ディオール市と改称しました。

 宿屋に戻ったら、もう私のやったことが話題になっているらしい。何人かの野次馬がアジトまで見に来ていたみたいだし、小さな村のことだ。私がした事など筒抜けなのだろう。


 翌日、衛士の責任者の方が宿屋を訪れて、昨日の連中の中に懸賞金の掛かった者がいるとの事だった。総額が多額のため、ここでは交付できないので、この村から東にある旧アル・ガンズ市、現在のネオ・ディオール市にある衛士本部で受領するように言われた。


 あと、昨日のゴロツキどもの親分が、ネオ・ディオール市にいるので注意するようにも言われた。まあ、市民の方々が困っているようなら、それなりの対応をするだろうけど、ゾリゲン団長がいるんなら放置でも大丈夫だろう。


 宿屋を後にする時、メイちゃんが、『また来てね。』と言ってくれたが、こんな一人旅がまた出来たらと心の中で呟いていた。


 ネオ・ディオール市には夕方遅く着いた。城門が開いているのは、午後7時までだったが、少し遅れてしまった。ピッタリ閉められた城門を見てどうしようかと思ったが、仕方がない。城門の脇の通用門の小窓から、中に向かって声を掛けた。


   「すみませーん!」


   「誰だ?もう門限を過ぎているぞ。明日、入り直せ。」


 自分の身分を明かしたところ、大きな城門を開けようとしたが、それを制し、『浮遊』で城門を飛び越えて行く。衛士さん達は、吃驚するやら、感心するやら。今日は、遅いから行政官の所へは案内されず、そのまま、この前泊まった最高級ホテルに案内された。まあ、しょうがないよね。今更、断れないし。また、1泊金貨7枚の3階のスイートルームに泊まることになり、食事も部屋のリビングでメイドさん2人に給仕されながら食べる豪華なディナーだった。


 食事後、この市の行政官をしているフレイズさんが訪ねてきた。50年配の方で、前の豚、いえガンズ伯爵領の時は、市行政庁の助役をしていたらしい。市長がガンズ伯爵共々解任されてしまい、その後を引き継ぐ形で行政庁のトップをしているが、今のところ、税制を他の市と同等の税制に変えただけで、他の業務は完全にストップしているとのことだった。その辺は、ゾリゲン男爵と話し合って決めて貰いたいのだが、『主筋のウエスタン侯爵閣下の御意向が最優先でございます。』と言って、譲らない。


 あのう、7歳児に何を望んでいるんですか。


   「一つ、お聞きしたいのですが、この街に巣食う裏社会のことについてご存じですか?」


   「おお、閣下はそこまでご承知でしたか。はい、この街には、ガンズ卿が治めていた時からの極悪組織がありまして、ボスは『ジャクムシ』という悪党で、この市のみならずここいら辺一帯を牛耳っているのです。主たる稼業は用心棒なんですが、はっきり言って商店などを脅してみかじめ料を巻き上げているゴミ虫です。ガンズ卿が失脚してからも、ヌクヌクと生きながら得ているのですが、何分組織が大きく人数も多いので、衛士隊も手が出ないのが実態です。」


 なるほど、そんな組織ならブランチ村まで手を伸ばしているのも納得できる。


   「その事はゾリゲン団長も知っているんですか?」


   「はい、報告しております。しかし、ランカスター家の騎士団長として任務を放棄できないので、今は動きが取れないとの事でした。」


 ゾリゲン団長は、未だ独身なので、領内のことは家族に任せて、王都へ単身赴任する事も出来ず、現在のようにネオ・ディオール市は行政官に任せきりにせざるを得ないようだ。


   「じゃあ、その無頼集団を何とかしますので、明日、衛士のうち非番の人達を集めておいて下さい。」


 考えてみると、治安が悪い理由は、統治が酷い結果だ。あの豚、いやガンズ伯爵が、領地運営を蔑ろにし、自己の享楽と贅沢三昧を追求した結果が、領民に『塗炭の苦しみ』を与えていたのだ。


 『塗炭の苦しみ』とは、中国の故事に『古代、夏王朝は徳にかけていたため、民は泥や炭の中に落とされるかのような苦痛を味わった。』とあり、執政官が苛政を強いると滅ぼされる際の例に使われると高校の授業で習った記憶がある。


 ガンズ卿がいない今、住民の暮らしは少しずつ良くなって来ているのだろうが、そんな中、社会の寄生虫は生存をかけて己の威を示し続けなければならないのだろう。


 私は、フレイズさんに、明日の朝、ジャクムシ組に寄るので、衛士隊の方々に組事務所に来て貰うようにお願いした。


   「あのう、何時ごろ行けば宜しいんでしょうか?」


   「午前9時30分にしましょう。」


 衛士隊の皆さんが本部に8時30分に出勤して、それから本部を出発しても十分に間に合うはずだ。やはり勤務時間を厳守するホワイト企業でないとね。


 翌朝、午前8時にチェックアウトして、ホワイトに乗ってジャクムシ組に向かう。組事務所は市の南側、スラム街に近い所にあると言っていた。


 以前、この街に来た時は、どんよりした感じの街だなあと思ったが、今回はかなり印象が変わっている。なんて言うか、人々の顔に張りが感じられるのだ。しかしスラム街に近づくにつれ、雰囲気が変わってきた。市政が変わり、酷税が緩和されても、社会の底辺の人々の暮らしが直ぐに変わるはずがないのだろう。


 組事務所はこの辺のはずなのだが、初めての場所だ。直ぐに分かる筈がない。その辺に立っている、いかにもチンピラ風のスキンヘッドの男に聞いてみよう。私は、ホワイトから降りて、男に近づいた。


   「あのう、すみません。」


   「うーん?ガキが何のようだ。」


 ズボンのポケットに両手を突っ込み、右足で貧乏ゆすりをしながら、腰を曲げて顎を突き出す、チンピラスタイルで私の真ん前でイキがっている。7歳児にマウント取ってどうする気ですか?


   「ジャクムシ組の事務所が何処にあるか教えて頂きたいんですが。」


   「はあ、てめえ、事務所を聞いて如何すんだよ?てめえのようなガキが来るところじゃあねえんだよ。」


 そう言いながら、右足で蹴りを入れてきた。バカだな、こいつ。腰を曲げたままの前蹴りなんか威力ゼロなのに。ほら、簡単に払えるでしょ。あれ?軽く払ったつもりだったけど、『ボキッ!』と音がして、脛のところに新しい関節が出来たみたい。


 痛がって泣き喚く男のそばで、もう一度聞いたら、震える指先で通りの向こう側を指してくれた。お礼を言って、指差した方へ行ってみる。


 その先には、明らかに周囲と違う雰囲気の建物があった。木造2階建なんだけど、玄関扉が鉄製のようで、しかも補強の鉄鋲が打ち付けられている。1階の窓は、外から板が打ち付けられて塞がれている。一番の特徴は、建物の色である。黒いのだ。真っ黒。異様な雰囲気だ。


 玄関ドアの前には5〜6人位のチンピラが屯していた。全員スキンヘッドなのが笑える。近づくと、あの特有の威嚇するような細目で睨みつけてくるのが可愛い。無視してドアに近づこうとすると、身長2m位の大男が前に立ち塞がった。私の目の前が、男の鳩尾だ。いかにも打って下さいと曝け出しているので、腰の入った掌底打ちを放った。一瞬で気を失った男を払いのけ、ドアの前に立つ。ドアのノブを持って弾き開けようとすると、ベキベキと大きな音がして、蝶番ごと外れてしまった。あ、いけない。これ押し戸だったのですね。後ろの男達が、腰を引きながら『殴り込みだあ!』と叫んでいる。失礼な。そんな下品な事はしませんよ。静かに、静かに殲滅しに来ただけです。


 後ろの連中には、気配を的に9ミリ弾を軽く当てておいた。死ぬ事はないだろう。威力を落としているので、当たりどころが悪くなければね。


 玄関を入ると、大きな部屋になっていて、ソファや机が置かれている。人間は20人位だろうか?ロングソードを振りかぶった男が近づいてきたが、こんな狭く天井が低いところでロングソードが上手く振れる訳がない。『ストレージ』から2斤の木刀を取り出しざま、ロングソードを叩き折り、返す木刀で男の右膝を打ち砕く。


 今日は、殲滅と言ってもなるべくなら命は奪わず、一生自分のやってきた事を後悔して貰おう。そう思って2斤の木刀にしたのだ。しかし『治癒の魔法』があるので金さえあれば元に戻せるだろうが、まあ半端な金では無い筈だ。


 前に3人の男が立ちはだかった。最初の男の右膝を『突き』で砕くと、右の男の膝を打ち払う。あ、本当に払っただけですから。何故か、切断されてしまっていた。まあ、そんなこともあるよね。左の男の左膝は、見ないで木刀を後ろに突き出した。『べキッ!』と言う鈍い音と共に何かが砕けてしまった感触があった。

 フレデリック君のやることに容赦はないようです。

 次話は、明日6:00に投稿する予定です。

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