61 ブランチ村を綺麗にするようです
久しぶりの無双です。
『お馬のお宿』は、夫婦と娘1人で切り盛りしている小さな宿屋だ。旦那さんは、元冒険者だったが、魔物に片足を喰われ引退、奥さんの実家であるこの旅館でシェフをしている。
「あの表にいる男達は何ですか?」
「あいつらは、この辺を根城にしているゴロツキどもさ。他の宿屋は皆、それなりの金を払ってんだけど、うちの亭主が訳のわかんねえ金は払えねえって言って断ったもんだから、あんな嫌がらせをしてんのさ。すまないねえ、嫌な思いをさせちまって。」
前の世界で言うところの反社会勢力のみかじめ料か。今時、聞かなくなったが、この世界では普通にあるんだな。この村は、元々は王家領だったところに、王室政府が旅の利便性を考慮して作らせた宿場町で、村長などは住民の互選で決めている。国からは若干の衛士が派遣されているだけで、治安維持には体制も能力も不足しているのだろう。それどころか、無頼の輩が国から村の防護の委託を受けて、役人と共に甘い汁を吸っているなどと本当に江戸時代の二足の草鞋みたいな事もあるらしいのだ。貴族領では、税収に関わるので、そんな事はないが、ブランチ村のような官製集落では国の役人の見回りも殆どないので、こんな輩が蔓延るのだろう。
宿帳には『アスラン・キャピタル市セントラル区 フィレ 7歳』
と書いておいた。
「へー?セントラル区かい。いいとこ住んでんだね。もしかするとお貴族様かい?」
「えーと、3男なんで。」
「そうかい、それで、そんな小さいのに一人旅かい?口減らしもあるんだってね。おっと!ごめんね。個人の事情に立ち入って。」
「いえ、まあ、そんなもんです。」
平民では、7〜8歳で奉公に出ることもあるそうだ。義務教育のないこの世界では、15歳の成人まで子供を育てていく親は、王都でも中流以上の家庭だ。多くの家庭の子は幼年学校を卒業する12歳で働き始めるが、その殆どは支度金を貰っての3年間の年季奉公だ。しかし低層階級の子は、6〜7歳で奉公に出される。確か、昔の国民放送の朝ドラの中の話で、女の子が6歳で米1俵と引き換えに奉公に行った筈だ。
貴族も、流石に7歳の奉公はないが、王立学院に入れなかった子は、12歳で商人や職人に弟子入りしたり、行儀見習いとして住み込みメイドになると聞いたことがある。
さっきの女の子は、もう8歳だと言っていたが、メイちゃんと言って、幼年学校に通いながら午後は、宿の手伝いをしているらしい。メイちゃんに案内して貰って部屋に入ったが、メイちゃん、なかなか帰ろうとしない。あ、そうか。メイちゃんに小銅貨1枚をチップとして渡した。
ニコッと笑って受け取ってから、あっという間に階下に降りて行った。8歳の子が7歳の子からチップを貰うのもどうかと思うが。
部屋を見るとベッドと椅子があり、窓際に小さな机が置いてある。部屋の隅には流しがあり、蛇口がないので、汚れた水を流すだけなのだろう。
部屋着に着替えて、裏の馬屋に行く。ホワイトに飼葉を上げるためだ。宿で準備しているのはその辺の雑草と麦藁を混ぜたものだ。私は、それに『ストレージ』から出した豆や大麦を加えてやる。ホワイトは、ものすごく嬉しそうに食べてくれた。部屋に戻って、お湯を貰い、体を綺麗にしてから食堂に降りて行った。
食堂に降りて行くと、7分位の入りだった。これからお客さんが入ってくるそうだ。初めのうちは泊まり客や食事だけのお客さんだが、段々お酒を飲みにくる客が多くなるとのことだった。
今日の食事は、小麦のパンと肉のトマトスープ、それと肉の塊がゴロゴロしている煮付けだ。味は良いのだが、量が多い。この煮付けは半分でいいな。残すのも悪いので、口を付ける前に半分返そうと思い、メイちゃんを探している時、さっきの奴らが乱暴にドアを開けて入って来た。
「兄い、ここが空いてやすぜ。おら、どけい。死にてえのか。さ、どうぞどうぞ。」
あ、あのお客さん達、可哀想。先に座っていたのに、追い出されてしまった。まだ食事中だったらしく、テーブルの上には、コップや料理が並んでいた。
ガシャーン!
さっきの男が、テーブルの上を腕で払って、食器などを全て床に落としてしまった。
「おい、早く片付けねえか。おせえぞ。」
うーん、どうしようか?厨房からシェフつまり旦那さんが出てきた。片足は、樫の木の義足だ。コツンコツンと歩く音がする。
「ジョバ、いい加減にしねえか。他のお客さんに迷惑だろう。」
「てめえ、兄いに向かって呼び捨てなどふざけるな。」
さっきの若い男が、旦那さんの胸をドンと突いた。たまらず尻餅を付いてしまっている。食堂の隅では、メイちゃんと女将さんが青い顔をして旦那さん達を見ていた。他のお客さんも帰ろうと急いで料理を片付けている。
はあ、まあ、しょうがないよね。知らんぷりをすると言う選択肢はないと思うんだ。私は、ゆっくり立ち上がって、まだ腰をついている旦那さんのところへ行く。
「大丈夫ですか?」
旦那さんの右腕を掴むと、ひょいと立ち上がらせてあげる。旦那さん、一瞬のことで吃驚していた。
「貴方達、他のお客さんの迷惑ですよ。帰ってください。」
「はあ、何だ、てめえ。あ、さっきの生意気なガキか。なんでてめえの願いを聞かなくっちゃ何ねえんだ。」
「え、お願い?そう聞こえましたか。それは失礼。お願いではなく、命令だったんですけど。」
「何で、てめえに命令されなきゃならねえんだよ。!」
男は、そう言いながら殴りかかってきた。7歳のいたいけな子供にグーで殴りかかるなんて、大人気ないったらありゃしない。
軽く相手の水月に掌底を当てた。
ドガーン!ガラ、ガッシャーン!
「それは、貴方達より圧倒的に強いからですよ。」
残心を示しながら、静かに言ってやった。食堂の中がシーンとしている。それはそうだ。どう見ても80キロはありそうな大男が壁まで吹き飛んだのだ。7歳児の一撃で。
もう遠慮はいらないだろう。もう1人の若い男の顳顬をチョンと突いて、意識を奪う。コメカミは、骨が薄いので、衝撃がそのまま脳に伝わりやすい。まあ、時々、永遠に意識を失ったままになるけど、それは本人の運次第だ。
私は、最後に『兄い』と呼ばれていた男に声をかけた。
「さあ。行きましょうか。」
「ど、どこに?」
「決まっているでしょ。貴方達の事務所、えーとアジト?」
「い、行ってどうするんでえ、いや、どうするんですか?」
「決まっているでしょ。潰すんです。」
嫌がる兄貴分を引き摺って外に出る。通行人にこいつらの本拠地を聞くと村外れの無人の廃屋に住み着いているらしい。うん、もしかしてちょうど良いかも知れない。
そのアジトはすぐに見つかった。中では、誰かが酒を飲んで品性のない言葉を大声で叫んでいる。玄関ドア付近を小さく小さく爆破して中に入って行く。勿論、さっきの兄貴分は未だ引きずっている。ま、気を失っているけどね。
玄関ドアの延焼はすぐに消火しておいた。中から、いかにもと言う風体の男どもが出てきた。うーん、3斤でいいか。気を失っている兄貴分を屋内に投げ飛ばしてから、3斤の木刀を取り出す。こう言う対人戦では、ダメージを少なくしようと2斤の木刀を使っていたが、結果が大して変わらないので3斤を使うことにした。その方が、自分のためだからね。基本、寸止めをしようとは思うけど、どうも衝撃だけは抜けて行くようで、相手へのダメージがとんでもないことになることがあるのだ。
1人の男が、大剣を振り下ろしてきた。その下を掻い潜り、胴を抜いて、そこで止めようとしたのだが、反対側の背中から大量に血や何か見たくない物が飛び散っている。次の男には、面を打ち抜いたが、頭の反対側から砕けた頭蓋骨と脳漿が吹き上がってしまう。
これなら大丈夫かとと、軽く腕に小手を当てても、変な風に折れ曲がってしまうし、そんな感じで家の中の男達を次々と片付けて行く。最後に残った男がボスなのかと思い、声を掛ける。
「貴方がボスか?」
「ち、違います。ボスは入り口で死んでます。」
あ、いけない。知らないでボスもやっちまったみたいだ。ま、過ぎたことは仕方がないです。そのうち衛士さん達が5人ほどきたが、家紋が入ってないけど侯爵徽章を見せたら、ならず者が貴族に無礼を働いたということで、今回のことは不問にしてくれた。
反社会勢力は、殲滅しか選択肢がないみたいです。
次話は、明日6:00に掲載予定です。




