58 領地がもらえるようです
7歳の少年に何をくれるんですか?
ウインチェスター砦の危機は、傭兵達が引き上げたことで収束した。エイボン皇国からの申し立てにより、破壊された国境の跳ね橋の修復はルース帝国の負担で、エイボン皇国の工兵が行うことになったようだ。ルース帝国の言い分は、あくまでも傭兵と一部の冒険者がやったことで、わが国は関与していない。しかし、悲惨な事故を看過した我が国から衷心よりお見舞い申し上げることとし、跳ね橋の修復費用を負担するとのことだそうだ。自分たちで壊したのだから、直すのは当たり前だろうと思うが、その点は、大人の事情で言わない方針らしい。
まあ、私としては、何もなくて良かった。良かった。
父上から手紙が来た。今すぐ、王都に戻れとのことだ。何だろう。急ぎなら鳩を飛ばすだろうし。でも、戻るのにいやも何もないので、いつものとおり、ゆっくり『飛翔』スキルで帰ることにする。スザンヌさんは、シュナちゃんと留守番ね。そういえば、シュナちゃん、ちっとも大きくならないんですけど。この前、鑑定を掛けたら
犬のような魔物(精霊かも)
何、これ?人を馬鹿にしているでしょう。結局、何も分からないのね。でも、ワンコでないことは最初から分かっていたので、不思議でも何でもないのだけど。もし精霊なら嬉しいのに。まだ、精霊の知り合いはいないし。
◆
王都に戻ってみると、すぐに父上に呼ばれた。最近、父上は太り気味の様で、私がモグモグ食べているスナック菓子をうらやましそうに見ていた。父上の威厳が減ってきたような気がするのは私だけだろうか。ウホン!
父上の用件は驚くべきものだった。ダメンズ侯爵の後任に、私を据えるらしい。え、私7歳になったばかりですよ。まだ子供ですよ。あなたの子供なんですよ。現侯爵の3男を別の侯爵にするなんて、過去に例がありません。まあ、7歳の子供が国境線を防護したなんてこともないでしょうけど。聞けば、ダメンズ元侯爵がルース帝国と内通していた嫌疑で、ダメンズ元侯爵の職務をはく奪したが、その後、西側のツーリ王国に違法奴隷を輸出していたことが発覚、爵位と領地は没収し、国王陛下の名においてギロチン刑となってしまったそうだ。もちろん、犯行に関係した騎士団も幹部達は絞首刑となったとの事だった。没収した領地は王家直轄地とし、侯爵位は空位のままにしていたらしいのだ。もちろん、今すぐ、外務卿の仕事や領地運営ができる訳ないのだが、とりあえず爵位授与と領地の封土について、国王陛下からの勅書と領主としての印綬それと侯爵徽章を授与されることになったらしい。
2日後、久しぶりに王城に登城した。門番の衛士の方も見覚えのない方だったので、中に入るのにちょっと苦労したが、とりあえず、第二後宮の方に顔を出してみることにした。確か、建直し中だったはずだが、もう出来上がったかな。いつものように森を回って、第二離宮があった場所を見て驚いた。御殿が建っていた。白亜の殿堂。世界遺産。世界三大宮殿。まあ、それ程ではないけど、3階建30LLDDKの総大理石作りの御殿だ。以前の2LKとは雲泥の差だ。
玄関で案内を求めると、可愛らしいメイドが出て来た。
「あのう、どちら様でしょう。」
「あ、フレデリックと言います。ブルーム殿下の御学友をしています。」
「ちょっとお待ち下さい。」
メイドが下がって暫くすると、誰かが走ってくる気配がする。あ〜あ、そんなに走ると転ぶよ。ほら、転んだ。ブルーム殿下がめげずに走ってきた。もう泣いている。それじゃあ転んで泣いているのかどうか分からないじゃないですか。今回の帰省は、突然だったし、王城に寄るつもりもなかったのでお土産もないけど、許してくださいね。
リビング兼応接サロン(本当にサロンと言うくらい広いリビングです。)に入ると、シンシア様が相変わらずのおっとりした様子でソファに座っていらっしゃる。ご挨拶をすると、ご自分のご両親とご兄弟のことを聞かれた。うん、皆、元気そうでしたよ。まあ、今回のルース帝国の件については、あえて何も言いませんがね。ブルーム殿下は、今回の叙爵の件は知らないようで、もう帰還が許可されたのかどうか必死になって聞いてきた。別に帰還も何も、うるさい問い合わせが嫌だったのでエイボン皇国に逃げていただけなんですけど。
2階の殿下の部屋に行くと、新たに指定されたご学友が3人、ソファに座っていたが、殿下が部屋に入ると、すぐに立ち上がった。何か固いな。皆、侯爵家や伯爵家の子息でブルーム殿下と同い年だそうだ。将来、王立学院に入学するときに、その方が都合がいいとのことだった。
侯爵家は、7大侯爵家といわれているが、ダメンズ侯爵がいない今、6人しかいない。
ランカスター家
北のリンガー家
南のブレイン家
南東のジョイント家
東のデュラン家
北東のメンデル家
となっている。廃止されたダメンズ家の領地は西から西南にかけての広大な領地で、一部大きな川の河口に接しているところから、大きな港もあり、交易も盛んと聞いている。しかし、現在は天領となっているそうだ。あれ、そういえば、ゾリゲン団長やシュリンガー団長が拝領した元ガンズ伯爵領って確かダメンズ侯爵領と接していたはずだよね。えーと、まあ、いいか。あとで考えよう。
この部屋にいる3人のうち、侯爵家出身の子息は1人だけ。
ロベルト・フォン・ジョイント
という、小太り、いやかなり太めの男の子で、ジョイント侯爵のお孫さんだそうだ。2人目は、身長がすらっと高いけど、絶対すらっとしすぎているガリの
オルム・フォン・ライオネッツ
君だ。伯爵家の2男だと言っていた。最後は、
タリーズ・フォン・ドトール
君で、どう見ても6歳児以下にしか見えない。かわいい顔をしているが、少し発育が悪い気がする。まあ、小さく生んで大きく育てるということなのだろう。それぞれに自己紹介をしたが、私が
「フレデリック・フォン・ランカスターです。ブルーム様の御学友兼警護を仰せつかってます。」
と言ったら、吃驚していた。皆は警護任務を命じられていないので、帯剣もしていないようだ。
「あのね、フレデリックはとても強いんだよ。悪い人攫いや魔法使いをやっつけてしまうんだから。」
3人が、ますます引いているのがまる分かりなんですが。今日の午後は、魔法の実技が授業らしいけど、ブルーム殿下は、きちんと魔法が使えるようになったのだろうか。あ、いけない。これから王城に行って、叙勲のための拝謁をしなければ。ここはご挨拶だけにして、また、午後、寄ることにして第二後宮を後にした。
◆
王城に入ると、そのまま国王陛下のいる執務室に案内された。この部屋も2回目になるかな。確か、魔物討伐が下知された日だったような気がする。まあ、今回もメンバーは変わらず、あ、ダメンズ外務卿がいないね。それに騎士団長達もいない。本当に内政の僅かな方たちだけって感じだ。
ザイン宰相が立ち上がると、国王陛下以外の全員が立ち上がった。
「フレデリック・フォン・ランカスター卿。これへ。」
指定された場所まで進み、左ひざを床について臣下の礼を取る。国王陛下が勅詞を述べられる。
「フレデリック・フォン・ランカスター。」
「はい。」
「侯爵に叙する。我が国西方のウエスタン地方を領地として封ずる。心して受けよ。」
「はい、有難き幸せ。必ずや勅命を果たすことをお誓い申し上げます。」
「これを。」
典礼官が、お盆に乗せた勅書と、侯爵位徽章を私の前に持ってきた。お盆事有難く受領し、中腰に立ち上がって、その姿勢のまま、後退する。本当は、部屋から出ていくのが慣例なのだったが、誰かが途中で転んで骨折してしまったので、ある一定のところまで下がったら、それでいいことになったらしい。
その後、執務室にいる皆とお茶の時間になった。話題は、私の叙爵とは関係なく、この前のエイボン皇国との防衛戦の話だった。
「で、フレデリック卿、お主が大型バリスタを全て破壊したと聞いたが、どうやって破壊したのだ。」
「はい、これを使いました。」
私は、『ストレージ』の中から、9mパラベラム弾を数個出して、皆さまにお渡しした。
「この鉛の弾を、高速で飛ばして、バリスタの心臓部である発射装置を破壊したのです。」
「しかし、あの砦の前の川は、幅がかなりあるぞ。どうやって飛ばしたのだ。」
「はい、川幅300m程度でしたので、射程範囲でした。飛ばしたのは魔力を使用しての念動力と風魔法の応用です。」
「ほう、それで、その魔法は誰でも使えるのか?」
「いえ、 ダンドール主任教授も使えないと言っておりました。」
これは、実験済みだった。ダンドール主任教授では、回転させながら横に移動させると、極端に速度が落ちて使い物にならなかった。それと、一緒に風魔法を使おうとしても、集中できなくて風魔法が発動しなかったのだ。
弾を生成することは、なしとしても、弾を空中に浮かせ、高速で回転させ、水平方向に移動させ、風魔法で追い風を作り、そして狙った個所に誘導するということを瞬時にさせるのはかなり難しいらしいのだ。まあ、毎日練習することが大事だけどね。
この話をすると、国王陛下をはじめ、皆さん、黙り込んでしまった。
7歳で侯爵家の当主になってしまいました。
次話は、明日6:00に投稿します。




