53 ブルーム殿下は才能があるようです
国賓御一行は、無事王都に到着するようです。
それからの旅は、順調に進んだ。あの魔物の森も、前回、ボスゴリラを殲滅しておいたのが功を奏したのか、スライムと角ウサギ程度しか現れず、アン嬢が非常に残念がっていた。でも、スライムに直接触るのはやめましょうね。お手々が溶けてしまいますよ。まあ、進行速度が遅くなっても、宿泊していた街を早朝に出発すれば、夕方遅くには、次の宿泊先に到着できたので、特に問題はなかった。
ガンズ伯爵領のアル・ガンズ市にも泊まったのだが、何故か宿屋のマスターの機嫌がよさげだった。あの怪我でガンズ伯爵は領地経営に支障があると認定され、領地が王室直轄とされたらしいのだ。ガンズ伯爵と一族は王都においてヒッソリと暮らすことになったらしい。まあ、どんな意図があったか分からないが、あの時、きちんとお互いの役割分担と協力体制を構築しておけば、こんなことにはならなかったと思うんですけど。
私達は、無事、王都に到着したのだが、様子がおかしい。西の城門から王都内に入ろうとしたのだが、城門内には大勢の騎士さん達が整列している。というか、王城までの道の両側に騎士さんと、衛士さんがずっと並んでいるのだ。まるで、国王陛下の戴冠式のパレードのようだが、騎士さん達の表情がとても硬い。父が城門のところまで迎えに来ていた。お話を聞くと、エイボン渓谷で皇太子殿下が襲われたことが問題となっており、これ以上何かがあってはいけないと厳重警戒態勢が敷かれたらしいのだ。
これからの行事計画だが、まず、王城に行き、国王陛下の歓迎式典がある。その後、簡単な会談があるそうだ。私達ランカスター騎士団の任務は、これで終了だが、とりあえず、輜重隊以外は、そのまま王城まで警護していくそうだ。私は、任務解除になったが、その足で、ブルーム殿下のところへ行ってもらいたいとのことだった。
王城内に行ったら、第ニ後宮内はもぬけの空だった。そばを通った侍従に聞いたら、第二後宮を建て直すまで第一後宮で暮らすそうだ。随分、急だと思ったがエイボン皇国の皇太子殿下御一行が襲われた事を受け、シンシア様やブルーム殿下にも身の危険が及ぶ恐れがあり、今の離宮では警備の者も常駐できないために急遽立て直しをする事になったそうだ。
ブルーム殿下に会うために、第一後宮に向かう事にした。第一後宮は、本城から直結しているが、当然、普通の玄関も庭に面して設けられている。後宮は王族以外の男子禁制だが、5歳以下の男子と許可を得た者は例外らしい。まあ、江戸時代の大奥とか、宦官以外の立ち入りを禁じた中国の後宮とは違い、かなり緩やかな決まりみたいだ。
玄関で案内を求めて侍女に従って入ってみると、奥の階段から2階に上がったところにブルーム殿下の居室があった。シンシア様の居室はその隣らしく、ピアノの音が聞こえている。侍女がブルーム殿下の部屋のドアをノックした。
「殿下、フレデリック卿がお見えです。」
侍女が言い終わると同時に、ガチャリとドアが開いた。
「お帰りなさい。フレデリック。会いたかったよ。」
今にも抱きつきそうな勢いで、私を迎え入れてくれた。部屋に入ってみて驚いた。30畳位のリビングに革張りのソファとテーブル、大きな鏡や絵画が壁に掛けられていて、アンティーク美術館のような落ち着いた雰囲気の部屋だった。奥に幾つか扉がある。きっと寝室に勉強部屋にバス・トイレと目的別の部屋に行く扉なのだろう。部屋の隅にはグランドピアノが置かれていた。
「今度ね、第ニ離宮を立て直すんだって。だから、その間、ここで暮らすんだ。」
「それは良かったですね。ピアノもあるようで、お食事は如何ですか?」
「朝食と昼食は母上と一緒だけど、夕食は父上や義母上様も一緒に食べるんだよ。あ、勿論母上も一緒だよ。」
ああ、ようやく普通の王族の暮らしになったようだ。式典以外で、国王陛下と一緒の食事をした事など皆無だったろうし、それが、こんな暮らしができるようになるなんて、本当に良かった。あれ、何だろう。目から水が出てきた。なんだ、ブルーム殿下も同じじゃないか。きっと、この部屋には催涙ガスが充満しているんだろう。
ブルーム殿下とシンシア様にアラモード土産の『プリンアラモード』と温泉宿の名物『温泉饅頭』を買ってきたので一緒に食べることにした。『プリンアラモード』は、『ストレージ』に入れておいたのだが、何と、収納中は傷むこともなく、保存したままの温度を保っていた。冷蔵庫や冷凍庫とも違う原理らしいが、今度、ダンドール主任教授に聞いてみよう。あとは、生物を保存できるかどうかが疑問だが、それは後で実験してみればわかるかな。
第一後宮のサロンに行って、お土産を食べようとしたら、イグノリア第二王子殿下とメルローズ王妃陛下もご一緒された。メルローズ様は、ほぼ密林の国境線が伸びており、領土や主権の争いがない友好国である隣国のデューダ王国の第一王女から我が国に嫁いできた方だそうだ。あのアンドレイ王太子殿下の母君とは思えない程おっとりとし方で、その気質は、この部屋に同席しているイグノリア第二王子に受け継がれているようだ。イグノリア第二王子は、デューダ王国の大公家に婿入りすることが決まっているらしいので、15歳で王立学院を卒業すると、そのままデューダ王国に留学されるとのことだった。
『プリンアラモード』は、20個ほど買ってきておいたので、十分な数があるのだが、シンシア様は、『温泉饅頭』がお気に入りのようだ。何でも、似たお菓子がエイボン皇国にもあり、懐かしい味だそうだ。
メルローズ様からデューダ王国のことを色々聞いていたところ、驚くべき事実を聞かされた。デューダ王国のはるか東、大洋上に浮かぶ島国があるらしいのだ。その国は、どこの国とも交易を結ばず、自国内のみで自給自足をしているらしいが、細かな細工や鍛冶には特別の技術を発揮しているらしいのだ。
「メルローズ陛下、その国の名前を教えていただけませんか?」
「え、国の名前ですか。何だったかしら。『ヤマイ』いえ、『ヤカサ』えーと、思い出せないわ。」
「その国の名前、『ヤマト』と言いませんでしたか。」
「そう、それ、それよ。フレデリック君、よく知っているわね。偉いわ。」
見つけた。日本刀の里、玉鋼の精錬技術、刀鍛冶の卓越した技術、将来、必ず、必ず『ヤマト』に行ってみることにしよう。
お茶の後は、シンシア様のピアノ演奏のご披露だった。曲は、リストの『ラ・カンパネラ』だった。高難易度の曲だということは、素人の私でもわかる。それを楽譜も見ずに、素晴らしい演奏だ。聞いていると、遠く奏でる鐘の音が聞こえてくるような演奏だった。
演奏が終わっても、しばらくは声が出ない。メルローズ陛下がパチパチと拍手をしたので、皆、拍手をし始めた。うん、やっぱりシンシア様のピアノ演奏は素晴らしい。そう思っていると、ブルーム殿下も演奏をするという。え、こんなに大勢の人の前でですか。サロンには、王族のみならず、サービスしてくれるメイドや侍女が大勢待機している。その方たちの前で演奏なんて、よほど自信があるのですね。
ブルーム殿下は、椅子の高さを調節してから、おもむろに演奏を始めた。曲は、モーツアルトの『キラキラ星』だ。この曲は、シンシア様が弾いていたのを聞いていたが、物凄く難しそうな曲という印象があった。久しぶりだったからかも知れないが、シンシア様でさえ、3か所間違えたと言っていた。大丈夫だろうか。
しかし、その心配は杞憂だった。素晴らしい演奏だ。あの良く知っている曲がこうも変わるとは、信じられない。それを楽譜も見ずに完璧に弾いている。ブルーム殿下、才能がおありなのですね。演奏が終わると、万雷の拍手だった。メイドさんや侍女さん達も拍手をしている。うん、素晴らしかったです。
エイボン皇国のフレックス皇太子殿下ご一行は、明日、シンシア様と拝謁というかお会いになるそうだ。本当は、すぐにでも会いたいのだろうが、やはり国賓としての式典なり、会談しなければいけない人たちが大勢いるようで、日程上、どうしても明日になってしまうそうだ。そして、明日の拝謁には私も同席することになっているらしい。え、私もですか?私、ブルーム殿下の単なるご学友でボディガードですけど。それに5歳児です。
ブルーム殿下は、王族でなければピアニスト魔以外なしですね。
次話は、本日17:00に投稿予定です。
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