39 ご学友のお勉強は大変なようです
王城でのお勉強が始まります。
次の日からは、スケジュールに沿って授業が進められる。1日4時間、午前10時から2時間は学科か文芸、午後1時からの2時間は術科となっている。後は自由時間なので、ブルーム殿下はピアノの練習をしたいみたいだ。勿論、先生はシンシア様だ。
私は、朝5時に起床し20キロマラソン。それが終わってから1000本素振り。朝食後、すぐに王城に向かう。午前9時から1時間、形の稽古だ。ブルーム殿下は、足運びの練習、私は形を繰り返し練習する。魔力で自動制御されている木刀相手に模擬剣で形を練習するのだが、なかなかシュールだ。
午前10時からは、それぞれの先生のスケジュールに従って勉強だが、ブルーム殿下はピアノ以外の勉強はお嫌いのようで。しかし社交ダンスのセンスが良いのには驚いた。解せぬ。
私は、学科については、地理・歴史以外には興味はないが、ドーチェ専任教授が私の数学と物理の考え方に物凄く食い付いてくるので、参ってしまう。二次関数の問題で解の公式を使ったら、もうダメだった。延々と解の公式の解説をしなければならなかったのだ。物理については、もっと酷く、授業が終わる段階では『宇宙の深淵が・・・』などとブツブツ言っていた。そんな大それたことなど言ってません。ジュールの法則とかボイルの法則を使って課題を解いただけなんですが。
ベローチェ伯爵夫人は40過ぎの貴婦人という感じの女性だが、鬼です。見た目に騙されてはいけません。私も、大概の事には耐性があると思ったのですが、この先生の指導は常軌を逸しています。延々と室内を歩かせられるんですが、貴族特有の姿勢が有るらしく、全くOKが出ません。結局、2時間近く、第二後宮の狭い室内をグルグルさせられました。勿論、シンシア様は2階に避難されていました。ヂグジョー!
授業が終わった午後3時からは自由時間なので、ブルーム殿下は大体ピアノの練習、私は練兵場に行って、王城守備騎士団の方々と打ち込み稽古をする事にしています。騎士団の方々は、ランカスターの王都騎士団よりは少し強いかな。でも領地騎士団とは同じくらいかなと言うレベルだ。それでも、相手にかかわらず、実践形式で打ち込むことは剣の稽古には欠かせないので大切だ。
稽古をしてみてわかったんだけど、シュリンガー団長の実力は別格、2人いる副団長は、ランカスター領地騎士団の隊長レベルだと思われた。でも、副団長も騎士達の人気が高く稽古をお願いする行列ができているので、なかなか相手をして貰えない。仕方がないので、私と稽古をしても良いという方と稽古をしている。
今の相手は、若い騎士の方で、15~6歳位に見えるので、新隊員だろう。基本、彼らの装備は右手にショートソードを模した木刀、左手に木製の盾となっている。私は、ショートソードの木刀を両手で持って向かっていく。
青眼の構えから、間合いを縮める。相手の方は、急に間合いを詰められたのでビクッとしているが、それじゃあ打って下さいと言っているようなものだ。でも、それで打ち込んでは、すぐに終わってしまうので、あえて打ち込まないで、彼の右に回り込む。構えてる盾では防御しにくい方向だ。私の動きに合わせて、彼も私の正面になるように右回転している。さあ、次の足を踏みかえるときを狙おう。今だ。彼の左足が回転するために、右足とクロスした瞬間、彼の右手の小手に軽く打ち込む。全く反応できず、何故、私の剣が当たったのか不思議な顔をしている。
「小手、入りましたよね?」
「あ、ああ、うん、見事な小手だった。」
「もう一本お願いします。」
このようにして、相手の動きを見極めての打ち込みと、相手の打ち込みを見極めて最小の動きで躱すという、ブルーム殿下との稽古ではできない稽古を重ねていた。
今日の午後、シュリンガー団長の剣術の稽古が始まった。ブルーム殿下には、取り敢えず駆け足をしていて貰う。全ての武術の基本は体力だ。ブルーム殿下に圧倒的に足りないのは体力だ。そうですよね。シュリンガー団長。
私は、模擬剣を持っての形の練習をさせられている。片手剣の形だが、すぐに私が両手剣の使い手だとバレてしまった。どうしても相手に対して正対しがちなのだそうだ。それでロングソードの模擬剣を持って、ロングソードの形の練習だ。剣の形についてはゾリゲン団長とルッツさんに習っていたので、すぐにできたが、振り下ろして剣を止めた時、右腕のウエイトバンドが少しずれてしまった。袖口から出て来た黒いバンドが見つかり、直ぐに確かめられてしまった。
「フレデリック、このオモリは何なんだ。」
「えーと、体力増強のためのオモリです。」
「これ、何キロあるんだ?」
「1箇所2キロです。」
「と言う事は、両方で4キロか。」
「いえ、足にも付けています。」
シュリンガー団長は、頭を抱えてしまった。
「フレデリック、お前は今までどんな稽古をして来たんだ。」
「このオモリは、お風呂以外では寝る時もつけっぱなしです。朝、5時に起きて約20キロのマラソン、その後1800グラムの木刀で500本素振りを2セット。朝食後はゾリゲン団長かルッツさんと1時間の打ち込み稽古をしています。あ、夕方時間があれば軽く駆け足か素振りをしています。」
「フレデリック、お前、今幾つだ?」
「今年2月で5歳になりました。」
「じゃあ、一体幾つから稽古を始めた?」
「1歳3か月位からですかね。」
私の訓練メニューは、シュリンガー団長との打ち込み稽古になった。
◆
7月になった。ここは大陸性気候のためか、乾季と雨季に別れ、夏は雨季に当たるようだ。しかし、その割には雨量が少ない。これは大陸のいたるところに森林と山岳地帯がひろがっているので、全体的に温帯の気候になっているようだ。
ブルーム殿下の鍛錬は順調に進んでいる。食事も改善されたようで、しっかり食べているせいか、肉付きも6歳の少年らしいものになっている。剣の腕はそれなりだが、ピアノの腕は、練習を始めて僅か半年とは思えない程の腕前になっている。こればかりは、私では全く太刀打ちができない。でも、王族にこんな才能っていらないような気がしないでもないな。
今日、父上から、王城内の会議室に来るように言われた。ブルーム殿下も一緒だ。えーと、二人で王城内に行くなんて、初めてのことだよね。第二後宮前まで迎えの馬車が来ていて、ぐるっと大回りして、側面にある通用門から城の中に入った。侍従さんの案内で、会議室に向かった国王執務室の隣の会議室で、結構大きめの会議室だった。会議室の中には、ザイン宰相、軍務卿である父上、内務卿であるブレイン侯爵、財務卿のグリード伯爵、外務卿のダメンズ侯爵、あとメルボルン公爵をはじめとする3公爵がそろっていた。
後席や壁際の席には、3軍の将たちが座っている。シュリンガーさんをはじめ、各騎士団の団長や副団長それと大隊長達だ。
指定された席に座る。ブルーム殿下は国王陛下が座ると思われる玉座以外では最上席に座り、私は入り口そばの末席に座った。暫くすると国王陛下が登壇してきた。皆、立ち上がり、右手を左胸に当てての貴族の礼をする。カインズ公爵は女性なのでカーテシーで礼を示す。国王陛下が着席すると、そのまま皆も着席をした。
会議の趣旨も何も分からず、私達が参加する意味も分からないまま、会議が進められる。進行は軍務卿である父上だ。
「本日、皆様にお集まり頂いたのは、最近、被害が目立っている東の森の魔物についての討伐遠征についてです。」
ふむふむ、父の話を要約すると、東の森で魔物が大発生し、街道のみならず周辺の村まで迫って来ており、今回、大規模な討伐作戦を実施する事になったらしいのだ。その討伐部隊の総指揮官に、ブルーム第三王子殿下が任ぜられるとのことだった。今回、全く知らされていなかったので吃驚したが、ブルーム殿下の方は顔面蒼白、何故か身体が震えている。
それから、部隊編成や遠征日程などの細かな詰めに入るのだが、その前にダメンズ侯爵から異議が入った。
「少々お待ちを、遠征軍の総指揮官にブルーム第三王子殿下とお聞きしたのですが、アンドレイ王太子殿下に任命されないのは、何か意図があってのことでしょうか。」
うん、尤もな質問だ。誰でもそう思うだろう。この問いには父上が答えるようだ。
「アンドレイ王太子は、前回の遠征の際、失敗なされているし、まだ体調もすぐれないとのことだったので、今回は見合わせていただいた。」
「前回の失敗は、想定以上の魔物が出現したためと聞いている。それに体調も回復に向かいつつあると聞いているが。」
アンドレイ王子が魔物討伐に失敗したという話は初耳だった。また、体調を崩しているというのも今回、初めて知った。何があったのだろう。
それよりも、私などは発言できる立場にないのだが、ここはぜひ聞いておきたいことがある。
誰にでも、得て不得手があるようです。フレデリック君、ダンス頑張れ。
次話は、明日6:00に掲載予定です。
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