156 進級試験があるようです
フレデリック君、13歳になりました。
王国歴471年2月14日は、私の13歳の誕生日だが、ゆっくり誕生祝をしている暇はない。
学院の2月から3月は、試験シーズンとなる。2月末は在校生の進級試験や卒業試験があるし、3月は入学試験がある。貴族専科クラスは、入学試験こそないが、進級試験は普通にあり、すべての学科で合格点を取らないと侯爵家といえども進級できない。あと、この試験で1学年の序列が決まるので、卒業後の王室等への就職を狙っている学生にとっては、最初の試練となる訳だ。まあ、例年は、文官専科生が学科のトップを取って首席となることが多いのだが、今年は、私とアレックス君、ビビイ嬢、それとカトレア嬢がいるので、文官専科生にとっては厳しい競争になるだろう。
私は、欠講もあったので、学科試験に自信がなかったが、一応、教科書に書かれていることはすべて理解することができていると思っている。まあ、数学や理科、社会などの基礎学科は元の世界の知識で何とかなるが、地理、歴史それと魔法学概論や内政学など、この世界独自の学科については、かなり頑張らなければならないだろう。実技については、剣術や魔法は特に問題はないが、貴族礼式や楽器演奏などは受けてみなければ分からない状況だ。後期中間試験での結果は、学科数が少なかったこともあるが、首席を維持することができたが、進級試験は、試験範囲も広く、楽観視していると酷い結果になるだろう。
そのような中、試験が近づくにつれ、ダイン君の顔色が蒼くなってきており、大分、無理をしているようだった。
「ダイン君、大丈夫?」
「フレデリック様、私、もうダメです。試験勉強、もう諦めます。」
え、何?諦めるって。あの試験って、受けないこともできるのかな。でも、よく聞いてみると、どんなに勉強しても覚えられないらしいので、進級を諦めるらしい。でも、1年生の授業で、そんなに難しい科目なんてなかった筈なんですけど。というか、基本的なことが分かってないみたい。数学なんて、公式さえ覚えれば、誰でも解けるはずなのに、その公式が覚えられないみたい。あと、足し算、引き算で指を使うのはやめようね。
「ダイン君、『九九』言える?」
「馬鹿にしないでください。2の段と3の段、あと5の段は完璧に言えますよ。」
「ふーん、それじゃあ、他の段は?」
「少し難しいかな。」
「それじゃあ、君の馬が25分で5キロ走れるんだって。時速何キロで走れるの?」
「えーと、25分で5キロだから、大体10キロかな。」
いや、大体じゃダメでしょう。ダイン君、もう一度、幼年学校からやり直そうか。
「ダイン君、君、1日にどれくらい勉強しているの?」
「はい、1日に5時間は勉強しようと頑張っています。」
「ということは、夜中の12時位までは勉強しているの?」
「いやあ、そのつもりなんですが、勉強を始めると眠くなってしまって、毎日、午後9時には寝ています。」
「それじゃあ、ほとんど勉強できないじゃない。」
「はい、クラブ活動と自主練を終えて、寮に戻るのが午後7時位で、それから風呂に入って夕食を食べると、もう眠くなってしまって。」
「えーと、クラブ活動って、午後5時には終わるよね。」
「いえ、最初に乗馬クラブに行って、それから剣術クラブに行き、午後5時からは居残りで自主練をしています。」
「今でも?」
「はい、頑張っています。」
ダイン君、ニコニコしているけど、今の時期、試験勉強をしようよ。それじゃあ、いつまでたっても覚えられないよね。ダイン君には、試験が終わるまでクラブ活動を禁止し、前日勉強したところを私に見せるようにお願いした。何故か、周りの子達がこちらを見ているのが気になったが、とりあえず無視ということで。
翌日の放課後、ダイン君が昨日の勉強の成果を見せてくれた。昨日は、数学と理科の勉強をしたようだが、数学の問題を解いたノートを見せて貰ったら、すべて不正解。まず、解答の式をまったく書いていない。ノートの隅に、コチョコチョと計算式を書いているだけで、式がないから、正解に至った経緯がまったく分からない。図形に至っては、どう見てもこんな数値が出る訳がないので、理由を聞いたら、問題の図形の線分の長さを定規で測ったらしい。どおりで、小数点第2位までの長さになっている訳だ。
進級試験は、100点満点中60点以上を取らないとだめだが、1科目だけなら40点以上で、補習付きの合格となるそうだ。2科目の場合は、50点以上が合格条件とのことで、とりあえずダイン君は数学だけが赤点確実だそうだ。試験まで、あと1週間、基礎から勉強している時間はない。非常手段だ。過去問から傾向と対策を立て、集中して予想問題のみをこなしていくことにした。まずは、分数と少数の加減乗除だ。これは数をこなすしかない。教科書の末尾にある演習問題を繰り返し説いていくしかない。あと、図形については、三角形の面積の問題、それと円の面積と外周との関係などの問題を解いていく。とにかく、基本的に九九をしっかりと覚えていないので、計算がとても苦手で、特に割り算が壊滅的にダメなようだ。あと、文章題から連立方程式を立てて計算することができない。
「ダイン君、君、幼年学校を卒業したはずだよね。」
「お恥ずかしい話ですが、6年次は、ほとんどお情けで卒業させてもらいました。見かねた父上が家庭教師をつけてくれたのですが、王立学院の入学試験問題だけを集中的に覚えさせられたのです。でも、未だに数学だけは苦手で。」
ダイン君、君のレベルは数学だけが苦手というレベルではないよね。しかし、そうも言っていられないので、進級試験において、必ず出題される分数と少数の加減乗除、三角形と台形、そして円の面積の公式を集中的にこなすことにした。もう、文章題は後回し、連立方程式は出たとこ勝負だ。他の教科については、もう間に合わないので、運を天に任せるしかないだろう。
それと、ベス嬢が、貴族専科のほかに家政専科も併願するとのことで、その受験勉強も見てあげなければいけない。私が、貴族専科と騎士専科を併願して首席合格したことが彼女のやる気に火をつけてしまったようだ。もともと地頭がいいだけに、術科の成績次第では首席合格も夢ではないだろう。
放課後、午後4時から6時までは、ベス嬢の受験勉強を見てあげて、夕食後の午後8時から2時間はダイン君に試験勉強の指導をしている。自分の勉強をする時間がないけれど、出題範囲で分からないところはないので、後は術科を頑張ればなんとかなると思う。
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進級試験は、2月の26日から3日間かけて行われた。科目が終わるごとにダイン君の顔色が赤くなったり青くなったりしていたが、それでも概ね最低点は取れたようだった。まあ、追試、補習はしょうがないとして、留年や退学はないだろう。・・・・と思いたい。私自身は、それなりにできたつもりだが、成績上位の常連でアルフレッド君やビビイ嬢、それとクラスは違うがカトレア嬢あたりがトップを狙っているみたいだ。まあ、成績は、3月1日に発表になるが、日本のように、試験が終わっても授業をするようなことはなく、そのまま学年末休みに入っていしまう。全生徒の成績は、大きな紙に貼りだされるのだが、学科毎の成績と追試、補習の有無については、担任の先生から各生徒に渡されることになっている。
ちなみに、私は、今回も学年1位をキープすることができた。2位は、カトレア嬢、3位がアルフレッド君、4位がビビイ嬢だった。カトレア嬢の成績は、私と5点差だったが、アルフレッド君とは20点以上も差がついており、平民ではないが、準貴族という身分で家政専科の生徒が2位は、学院始まって以来らしい。あ、ダイン君は、数学と理科が追試、歴史が補修となったので、実家に帰るのは3月の中旬以降になってしまうみたいだ。
成績表を貰ったら、学院には用がないことから、一旦、王都の屋敷に帰り、次の火、ウエスタン領に帰ることにした。まあ、特に問題がある訳ではないが、ウエスタン鉄道の延伸状況とか、領都拡張工事の進捗状況を確認しなければならない。あ、そう言えば、領地内の貴族や周辺の寄子貴族と、そのご家族が一堂に集まるパーティがあり、そのパーティにはベス嬢も参加することになっている。以前の約束では入籍式をすることにもなっていたようだが、やはり学生のうちに夫婦になるのは遠慮したいので、学院卒業後ということになった。ベス嬢が残念そうにしていたが、急ぐ必要がないと思うんですけど。
フレデリック君、学院で学ぶ必要がないような気がするんですけど。




