153 水と光のイリュージョンは大絶賛のようです。
いよいよ、フレデリック君の魔法ショーが始まります。
水と光のイリュージョンのBGMは、J.S.バッハ作曲の『G線上のアリア』だ。ピアノはビビイ嬢、バイオリンは王都の伯爵令嬢と西部エリア子爵令嬢の2名だ。後、グリコス殿下がパーカッションを担当してくれた。
ショーの構成は、スモークの中、多彩な噴水が変化する中、虹色の光と揺蕩う炎に照らされた幻想的な世界を演出してゆく。別に高レベル魔法である必要はない。しかし、きめ細かな魔力操作が必要で、素人が見ても、大魔法使いが見ても技術の高さと感動で、納得できるものになったはずだ。
他のクラスの魔法ショーは、難易度の高い攻撃魔法を放ち、それを標的となった生徒が結界魔法で防ぐという構成が多く、いかにレベルの高い魔法を放たれるかを競っていたようだが、私たちのクラスだけ、技術レベルの高さよりも見て楽しいものを目指して、それなりに得点を稼いだと思われる。団体戦では、魔法専科3年のクラスにかなうわけなく、ほぼ出来レースのようだが、驚いたことに、私たちのクラスは僅差で準優勝だった。あとで聞いたところ、魔法ショーだけの評価ならトップだったらしい。試技の部は、魔法専科に1位から3位まで独占されてしまったが、それでも総合で準優勝なんて立派な成績だと思うんだけど。
さあ、いよいよ、私のエキビジョンが始まった。司会のアナウンスのあと、西入場口から、歩いて入場した。しかし、ただ歩くだけではなく、魔力の絨毯を会場中央まで、階段状に伸ばした上を歩いているのだ。それだけでもかなり衝撃的だが、私の足が魔力の絨毯を踏むと赤や黄色、青に光るような小細工をしておいた。そして、中央、高さ10m位のところに円形の台座を浮かせ、その上で来賓席に向かって深くお辞儀をした。胸ポケットから、細身のワンドを取り出し、おもむろに振り上げる。さあ、始まりだ。
BGMは、チャイコフスキー作の『くるみ割り人形』より『花のワルツ』だ。曲の始まりに応じて、まず上空100mに雲を浮かばせる。最初は単に浮かんでいるだけの雲だが、そのうち渦を巻き始め、中心からは稲妻が迸り始める。本当は、雨を降らせてもいいのだが、それはやり過ぎなので、とりあえず稲妻だけにしておくが、単に青白いだけの雷光ではおもしろくないので、赤や緑、青の雷光も混ぜておいて、その光が雲で反射するようにしておいた。
1分後、雷光がやむと同時に雲に切れ目が現れ、太陽の光が差し込んでくる。本当の太陽なら良かったんだが、もう夕方近い時間のため太陽の光はかなり低い位置から差し込んできて、思ったような効果がでないため、光球をかなり圧縮して輝度をました疑似太陽を上空1000mに浮かばせている。
雲が、徐々に上昇をしてしょうめつするとともに、疑似太陽も消しておく。次は、会場全体を結界で包み込む。この結界は、特に防御能力などないが、光の透過率を自由に変えられる仕様となっている。会場全体がほの暗くなった段階で、地上から色とりどりの光球が浮かび上がってくる。もう、何百個という数で、それぞれが明滅しながら、弱い微風で会場をふわふわと漂っている。
続いて、地面からムクムクと人型の踊り子が現れてきた。大きさは、50センチ位、もちろん、きちんと彩色されているので、土くれ人形とはだれも思わない。空中には、大きさが30センチ位の光の妖精が飛び回っている。そして、地上の踊り子と空中の妖精が曲に合わせて踊り始める。
4分後、地上100mの高さに大きな花火を打ち上げる。当然、光魔法と風魔法の応用で大輪の菊が『ドーン』という大きな音とともに花開くのだ。この世界では、火薬が実用化されていないようで花火というものが存在していない。しかし、美しい者は誰が見ても美しいので、それなりに楽しめている。疑似花火の良いところは、煙で花火が見えなくなるということがないところだ。あ、当然、花火の時は周囲を闇魔法で覆って、花火がちゃんと見えるようにしておいた。
7分後、踊り子、妖精、光球の全てを消滅させてから、西の空に向けてワンドを振り上げた。別に、ワンドは必要ないが、演出だね。西の空から、夕日を浴びて水龍が飛んでくる。まあ、日本の龍を模倣した単なる水魔法の造形なんだけど、長い胴体をウネウネさせながら会場上空うに接近してくる様子はかなりリアルだったようで、国王陛下随行の近衛騎士さん達はかなり緊張していたようだ。模擬水龍は、地上10m位のところに浮かんだまま、会場の中をぐるぐる回り始めた。段々、速度が上がっていくとともに、体長も伸びて行って頭と尻尾で大きな円になってしまった。まあ、もう単なる水の輪だね。そのまま、上空に上がっていって、疑似太陽の周りで完全に蒸発して消滅してしまった。
10分後、南の空にワンドを差し伸べてから引き戻すと、今度は大きな鳥が飛んで来た。まあ、鳥と言っても炎の鳥なんだけどね。大きさはかなり大きく、翼長は50m以上はあるだろうね。会場内があつくならないように冷気の結界を貼っておいたんだけど、それでも直射熱がすごくて、皆、汗をかき始めたので、そうそうに消してあげた。さあ、最後は、上空に再度雲を浮かばせて、雪を降らせ始めた。解けないようにしているため、直ぐに会場内は一面の銀世界になった。本当は、雪をテーマにした外国アニメの主題歌をBGMにしたかったんだけど、さすがに古代遺跡には楽譜がないため、それはがまんしつつ、次々と雪と氷を使ってのオブジェを作り始めた。といっても、単にお城を作っただけだけどね。あ、入り口にはニンジンがお鼻の雪だるまも作っておいた。うん、一気に気温が下がったようで、観客が少し震え始めたところで、
BGMも丁度終わりを迎えた。さあ、すべての事象を一瞬で消し去って、私のエキビジョンショーの終了だ。国王陛下に臣下の礼をしてから、空間転移で控室まで移動した。ふう。緊張したがうまく行ったようだ。観客からの割れんばかりの拍手がここまで聞こえてきた。今日のショーに使用した魔法は、ほとんどが初級魔法で、大量の魔力ときめ細かな魔力操作により、かなり高レベルな魔法と思われただろう。
今日の夕方、国王陛下が主催する慰労パーティがあり、優勝と準優勝したクラスの選手達が招待された。あ、もちろん、教職員や実行委員も招待されており、私も実行委員メンバーとして招待されていた。なぜかベス嬢も招待されており、ベス嬢と腕を組んでいた私だけが非常に目立っているようだった。
「あのう、ベス、腕を組むのをやめない?」
「何故ですの?婚約者同士、腕を組むのは普通ですの。逆に腕を組まないと、婚約者仲を疑われてしまいますわ。」
えーと、『夫婦仲』という言葉はあるけど、『婚約者仲』って、なんですか。国王陛下、私たちを見てニヤニヤしないでください。
会場では、優勝した魔法専科3年のクラスの方々が全員出席していたが、聞くと、2名の方を除いて王立魔導士学院への進学がとして就職が決まっているそうだ。まあ、魔導士学院を卒業すると、宮廷魔導士や貴族お抱えの筆頭魔導士として高給で迎えられるのが、魔道士のエリートコースらしいのだ。
王立魔導士学院へ進学しなかった2名のうち、1名は父親の魔道具工房で働くそうで、残りの1名は、学生としてではなくダンドール魔導士学院学長から研究生として採用されているそうだ。あ、そう言えばダンドール教授は、いつの間にか学長になっていたんだね。まあ、元の世界の大学院みたいな位置づけなので、本当に優秀な人しか学院に就職できないらしいんだけど。それを今の段階で就職するなんて本当に優秀なんだね。
ベス嬢と二人で、スイーツを食べていたら、少し太り気味の眼鏡をかけた男の子が話しかけてきた。どうやらこの子が、魔導士学院に研究生として就職する子らしい。
「フレデリック様、初めまして。僕、魔法専科3年のドロイトと言います。今日のエキビジョン、すごかったですね。僕、あんな大魔法を見たの初めてで感動しました。」
いや、この人、私よりも2学年も上だし、こんなに丁寧に挨拶されると恥ずかしいんですけど。でも、彼の認識違いだけは訂正しておかないと。
「えーと、ドロイト先輩、僕の方が後輩なんですから、『様』付けはやめていただけませんか。それと、今日の魔法は、ほとんどが初級魔法ですよ。ライトにファイア、ウオーターにスノウ、あとウインドウとダークかな。」
「え?でも、あんなにきれいなゴーレムや妖精を作っていたじゃない。」
「あれは、とりあえずアースで土を固めて、あとは魔力操作と練成で形を整えただけですよ。動きだって、私が魔力操作で動かしていただけだし。」
「そんな、だって何10体も動かしていたじゃない。自立型ゴーレムでしょ。」
「いいえ、彼らは単に人形にすぎません。1体ずつ同時に動かしていただけです。」
「それって、並列処理だよね。何通りの並列処理ができるの?」
「数えたことないけど、100位かな。」
もう、ドロイト先輩、黙り込んでしまいました。
学院の生徒の皆さん、フレデリック君だけが異常なのですよ。




